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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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21話:邪陰郷の暗躍

 外の太陽光がほぼ差し込まない、温かさや明るさとは程遠い場所。床や壁は、石造りなのだろう。冷たくて、堅い。

 こんな場所を、態々地上に造るはずがない。つまり、これは地上ではなく地下。洞窟だ。

 そんな生活感の欠片もない場所を照らす微かな明かりは、壁に埋め込まれている赤い石だけ。唯一の証明であるそれもそこまで明るくはないが、自分の周りを照らすくらいの明かりはある。

 故に、目の前に立つ相手がどんな形相でいるかも分かるのだ。


「テメェ、どういうつもりだ! あァ!?」


「ご、ごめんなさいっ!」


「何がどうなったらテメェを助けるなんて話になんだよ! 自分の立場分かってるよな?」


 薄暗く、静かであった洞窟の中に、二つの、対象的な声が響く。

 一つは、あまり聞きたくないダミ声。その声には怒りが混じっている……というか怒りが殆どだ。

 そしてもう一つは、幼さ故の高い声。その声には、恐怖や悲嘆といった負の感情ばかりが入り乱れている。


「もう一回聞く。何があったら、奴らがテメェを助けるなんて話になんだ?」


「ぼ、僕も全然分からなくて、急に……」


「急になんてことをあるか! 何もなければ敵である奴らがテメェを助けるなんて言うわけねぇだろうが!」


 洞窟の中に響く音は二つ。その二つともが声であり、その他の声はなく、人どころか、虫すらいる気配がしない。

 その理由は簡単。他のメンバーは、全員四天王に倒され、その場に放置されて来てしまったのだから。

 まぁ、そのメンバーが残っていたとしても、この状況を変えてくれる可能性はほぼゼロ。しかし今は、確実にゼロなのだ。このまま長時間怒鳴られ続けるのか、もしくは殴られたりするのか、殺されないか。そんなことが心配で、少年の目に、涙が浮かぶ。


「――その辺にしておかないか、ベイ」


「――ッ、なんで、テメェが……!」


「なんでも何も、君が失敗したんだろ? それでその腹いせにアイに当たっている。そうだろ?」


 洞窟の中にいたのは、先程のファクトリー襲撃で、リゥたちから逃げてきたベイとアイだ。

 そして、そのベイとアイしかいなかった洞窟の中に、新たな声が響く。


「――黙れ。調子に乗るな、ギル」


「僕にまで八つ当たりするつもり? ――まったく、そんな性格でよく幹部が務まる……務まってたよね」


「テメェ、嫌味か?」


 洞窟の中に響く新たな声の主。ギルと呼ばれたその人物は、至って落ち着いた感じで話している。

 しかしその声と話し方は、ベイからすれば嫌味か、煽りにしか聞こえない。

 なぜなら――、


「事実だろう? 仕事で成果が上がらない。実力不足と部下からの信頼度低下、優秀な人材の出現。あとはその短気な性格。そんなことだから、幹部から下ろされるんだよ」


「――うるせぇ。黙りやがれ」


 そう。ベイは元々、邪陰郷の幹部だったのだ。

 しかし、戦闘力は他の幹部より劣っていて、部下の扱いが雑であり、そのため信頼度が低下。さらに最近になって優秀な人材が次々と現れ、ついこの間、幹部から下ろされたばかりなのだ。


「黙れと言われてもね、僕も話があって来たんだよ。そうでもなければ君のところになんて来たくないしね」


「いちいち余計なこと言ってんじゃねぇ! 用があるならさっさと伝えろ!」


「仕方ないね。――ファクトリーでの失態。元々四天王の撃破など出来ないと思われていたからこそ、あの少年を奪ってくるように、という命令だったのに……」


 言葉の途中で大きいため息をつき、少し下を向きながら、やれやれと言うように首を横に振る。


「それすらも全う出来ない君を見せられ、手を貸せと、そう命令を受けてね」


「なんだと?」


「だから、君に手を貸すようにと命令を受けたんだよ。これからは、君の班に僕が率いるギル班が加わり、勿論だが指揮も僕が執る。『黒鴉』とか名乗っているんだっけ? 下部班はいいよね。自由に名前付けられるんだから。とはいえ、黒鴉なんて名前にするくらいなら今のままでいいけど」


 かなり嫌味な言い方のギル。

 挙句の果てには遠回しにベイのネーミングセンスを嘲笑うおまけ付きで、ベイにはかなりの精神的ダメージがあっただろう。

 まぁそれはいいとして、つまりはベイが失敗した作戦を、ギル班が引き継ぐという事だ。そして、撤退に成功した二人は、ギル班に加えられる。


「ふざけるな! テメェの班に合流するだと? これは俺の仕事だ。手出しは無用、テメェの出る幕なんかあってたまるか!」


「上の……しかもあの御方直々の命令だ。文句ならば、直談判でもしに行けばいいさ」


「くっ……」


 ギルが度々口にする『あの御方』とは、きっと彼らのトップのような存在のことだろう。『あの御方』という言葉だけで、ベイの勢いは一気に失われる。


「せっかく優秀な新人くんを付けたのに、その能力を発揮させる間もなく退散だなんてね。もう君には任せられないと、僕もご最もだと思うよ」


「テメェ……! 言わせておけば!」


「君はいつまで勘違いを続けるつもりだい? 君では僕に勝てない。実力不足で幹部を落とされたのに、それすら理解出来ていないとは、つくづく救われないよね、君」


 一瞬で頭に血が上ったベイに、ギルは変わらぬ態度で話し続ける。その余裕の対応は、ベイと自分の力量さを完璧に把握し、その上で自分が勝っているという確信があるからだろう。

 故に、ずっと変わらぬ態度を取っていられるのだ。


「まぁ、これは決まったことだ。僕としても君と一緒の行動などしたくないが、命令だからね。君も足を引っ張らないように頼むよ」


 その嫌味な態度に、ベイはこれ以上にないほど気分を害し、分かりやすく舌打ちをする。


「さぁ。アイくんも、これからは僕が率いる第6支部ギル班の一員だ。僕は彼とは違って部下は大切にするからね。安心してついてきていいとも」


「は、はい。分かりました」


「ほら、ベイも早くしてくれたまえ。君が失敗した分、僕としても出来るだけ早く、あの少年を略取したいんだ。後の大戦争でも、あの少年の存在は大きく関わるからね。特に、あの四天王たちにとっては」


 ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、ギルはアイと一緒に闇に消える。そしてその後を追うように、ベイが続く。

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