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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第二作:〜果たされる誓い、『四天王』としての責務〜
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19話:突き付けられた現実

  アキラに光属性の想術を教えるべく、リゥはアキラと共に光の適性者であるテルを訪ねた。テル似合うため向かったのは、ウェータルと呼ばれる五大陽都のうちの西の都にある小さな村。そこでテルの所在を尋ねた、直後の事だった。

 リゥたち二人の突然の訪問に際し、それに気付いた三十代後半ほどの青年と呼ぶにはやや歳をとっている男がすぐに村長を呼んだのだ。


「これはこれは、リゥ様……お久しゅうございます。今日はどのようなご用向きで?」


「ああ、今日はテルに用があってな。悪いけど、呼んでくれるか案内してくれるかしてくれないか?」


「あ、あぁ……えっと、テル……ですか……」


「――? どうかしたのか?」


 テルという言葉を聞き、村長は急に歯切れが悪くなった。この村随一の戦闘力を誇る彼を村の住人が知らないはずもなく、二十数年前の出来事を知っている村長となれば尚更だ。

 そんな村長の不可解な変化に、リゥは目付きと声音を変えた。


「その、テルは……もう、いないんです……」


「――いない?」


 耳を疑ったのは、ほんの一瞬だけだった。しかし、何故耳を疑ったのかが分からない。「いない」という言葉は、誰かをアポ無しで訪ねる場合にはよくある事だ。最近はそんなことがなかったこともあるが、いないと言われただけで動揺する事などまずない。

 なのに、その言葉はリゥの心を大きく揺らした。たった一瞬とはいえ、リゥの不安を煽ったのだ。


「――い、いない、ってのは、あれだよな? 今ここにいない……みたいな、事だよな? だったらどこに行ったかとか……いつ戻ってくるかとか……分かるだろ……?」


 何故、こうまで声が震えているのか。それはリゥ自身にもわからない。ただ、ただただ、聞かされたその言葉に怖気(おぞけ)が立つ。真冬の地に突然放り込まれたかのように、リゥの全身には鳥肌が立っていた。


「――いえ。テルはもう、この世(・・・)にいないのです。今から十四年ほど前に、他界しているのです……」


 自分の腕が引っ張られた感覚の前後――「ずさっ」か「どさっ」か、そんな表現の詳細は無視して、確かにアキラは自分の真横でリゥが膝から崩れ落ちる音を聞いた。

 リゥの頭はほぼ垂直に降下し、崩れた膝で地面に生えていた雑草を潰したリゥ。ほんの数分前まで笑顔だったリゥの顔は、最近には珍しくアキラの存在が映っていない。それも、前にいないから、という理由ではなく、だ。


 目の前にいる村長、その横に経つ青年、その奥にある木造の家々。そして何より――、


「――ッ!?」


 自分の頭や顔を目掛けて飛んでくる礫や枝でさえ、リゥの瞳には何一つとして映っていなかった。リゥの目は、脳は、一切の光を失っていた。


「――お、お前たち、止めないか!」


 礫を始めとしたそれらの投擲は、その殆どが二十歳辺りの若年層の大人によるもの。村長らしき老人が声を大にして抑制を試みるが、彼らは一切聞く耳持たない。

 また、肉体年齢でならリゥよりも年上とはいえ、四天王であるリゥの身体を傷つける事は容易ではない。避けないことも念頭に入れ、今のリゥは完全に放心状態。心ここに在らずなどと言った表現では生温い、魂が体から抜けたような状態だ。


「――リゥくんッ!」


 放心状態のリゥに向けられ容赦無く投げ付けられる塵芥。挙句の果てに投げられたのは、畑を耕す為の桑だ。

 素人の攻撃とは言え、桑などの道具は鈍器の類にさえ類する武器になる。そんな武器からの攻撃は、いくら四天王とはいえど放心状態で何の意識もしていない時に食らえば重症化する可能性もある。

 それを意識してか、無意識か――意識していてもしていなくても、が正解だろうか。どちらにしろ、アキラは握っていた手を思い切り引いてリゥの頭をその小さな体に抱き寄せ、間一髪桑の攻撃からリゥを守った。


「お前が……! お前がテルを殺したんだろう!」


「そうだ! お前がテルを殺した! なのに、何故今更のうのうとこの地を訪れた!」


「お前がいなければ……お前がテルに付き纏わなければ! テルは自ら命を投げ出すこともなかったんだ!」


 突然の無言の投擲からアキラがリゥを守った直後。アキラの腕に庇われたリゥに目掛けて、今度は激しい怒声が飛んだ。

 テルの死と、急な攻撃と、続いた怒声。多すぎる突然の情報量は、アキラの脳が処理を終える間すら与えずに重ねられる。


「み、皆止めるんだ! リゥ様は今何も考えられていない! まだ何も知られていないのだ!」


「知ったことか! 何がリゥ様だ……! 何が四天王だ……! そんなやつただの……ただの人殺しじゃないか!」


 飛び交う罵声からリゥを必死に擁護する村の男。しかし、村長の言葉にさえ耳を貸さなかった青年たちの罵倒はやはり止まない。


「リゥくんは人殺しじゃない! リゥくんは、なんの意味もなく……ましてや自分の大切な人を、殺したりなんかしない!」


「――ッ!?」


 が、しかし。そんな青年たちの罵声を、アキラの言葉が止める。大人が止められなかったその暴言を止めるだけの力強さが、今のアキラの言葉にはあったのだ。


「あ、あの……宜しければお手を……」


「いえ。俺一人で大丈夫です」


 リゥの腕を首に回し、その華奢な体で未だ放心状態のリゥを一人で支えるアキラ。立つのでさえやっとなその状態に村長の隣にいた男が手を差し出すも、アキラはそれを拒否。

 今までに見たことの無いほどに鋭いアキラの目付きは、激しい怒りの他に、どこか寂しげな色もあった。


 リゥの性格とリゥから聞いた話からして、リゥがテルを殺す理由など皆無だ。そもそも、リゥは十六年前に命を落としている。テルが十四年前に命を落としたのであれば、その時は既にリゥもここにはいない。殺す理由が無いだけでなく、殺す方法も無い。

 全く道理に合わない言いがかりに苛立ちを覚えるのは当たり前として、他にも何か(・・)別の苛立ちがアキラの中にはあった。

 しかし、そんなことはどうでもいい。今のアキラにあるのは、ここの村人が信じるに値しないという怒りと、完全に魂が抜けたような状態にあるリゥへの心配だ。


「そ、そうですか……すみません、何もお役に立てず。ですがずっと外にいるのもあれなので、我が家へご案内します。休息だけでもお取りください」


「――、――。わかりました、ありがとうございます」


 ここの村人は信用出来ない――が、このまま放心状態のリゥと外に二人でいることは得策ではない。リゥがこの状態では、何かあった時にアキラだけでは対処出来ない。それこそ一度は退いた村人たちが、また暴動を起こす可能性もある。村の外に出てヴォルフの元まで行けば戦力的には大丈夫かもしれないが、それでもリゥはしっかりとした場所で休ませるべきだ。

 男と村長とリゥを順番に見遣り、アキラは止むを得ず首を縦に振る。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 途中途中で足が縺れながらも、最後まで一人でリゥを運んだアキラ。目を開けたまま放心状態が続いているリゥは、気絶している時と同様に足にも腕にも力が入らない。そんなリゥの腕を必死に掴み、自分より遥かに体格のいいリゥを支えたアキラの手足は、リゥを下ろしたと同時に一切の力が入らなくなった。


「――お節介かとも思いますが、もし何かあればお申し付けください。それとこれも身勝手な話ですが、どうかこの村を――あの青年たちを、憎まないで頂けると幸いです。彼らも、本心ではリゥ様のせいだなんて思っていないはず……ただ――」


「分かってます。リゥくんが、リゥくんにとって大切な人を殺すなんて有り得ない。あの人たちの言ってることは間違ってる。だから、間違った言葉には怒りません。でも、今は一人に――二人きりにしてください」


「分かりました。それでは、また何かあれば――」


 そう言って村長は部屋を出て、静かにその襖を閉める。


「リゥくんがテルさんを? そんなこと、リゥくんに限って絶対有り得ない。それに、リゥくんは今こうしてショックで意識が無いし……じゃあなんであの人たちは? リゥくんが嫌い? なんで? 少なくとも、リゥくんが殺したって事実は絶対にない。それはあの人たちも分かってるはず……なのにああやって言うのは何か間接的にリゥくんが……? いやでも二年も間が空いてるのにそんなこと……でもやっぱり――――だとしたらなんで――――いやでもそもそも――――としたら結局は――――――」


 そうして口に出しながら、随分と大回りな鼬ごっこの自問自答を繰り返すアキラ。いつまでたっても結論の出ない難題にただただ頭を悩ませるアキラは、既に時が経つことすら忘れていた。


「――なら結局初めに戻ってみたらやっぱり……」


「――アキラ?」


「――!? リゥくん! 気が付いた!?」


 最初に戻ったのも何度目になるかは分からないほど思考をループさせていたアキラに、ふと流れ込んだ小さな声。掠れたその声は外を吹いていた風の音よりも小さかったが、ループの中にいる間何の物音にも反応を示さなかったアキラを一瞬でその中から抜けさせた。


「気ぃ失ってた……のか? どのくらい?」


「どのくらいって、外で急に崩れてから一時間くらいも――あれ?」


 一時間――リゥが放心状態に陥ってから、この家に来るまでおよそ四十分程度が経っていた。そしてそこからリゥを寝かせるための布団を用意し、僅かだが村長たちとも話をして現状の理解に頭を悩ませて二十分。合計で約一時間程度の体感時間でいたアキラがリゥの問いかけに襖を開けると、そこに広がっていたのはついさっきまでとは全く異なる、月明かりと村の灯りだけが光る夜だった。

 外を眺めて首を傾げているアキラの後ろで、リゥは布団から上体を起こしていた。


「――もう夜になってたのか。まぁでもそのおかげで今取り乱さないでいられてんだよな」


「もう大丈夫なの?」


「ん、完全ってわけじゃないと思うけど、一応は整理出来た……かな? ――やっぱ怖いからアキラがハグしてくれると完全に大丈夫そう」


「はいはい。そんなこと言えるならもう大丈夫。治った瞬間すぐにからかってくるんだから」


 普段通りの軽口に、アキラは呆れながらも何処か安堵の笑みを浮かべる。

 決して慣れたわけではないが、リゥがアキラを揶揄出来るのは少なからず心にゆとりがある時だ。緊張感がある状況でも和ませる目的を持ちやることはあるが、それも全てリゥ自身に余裕がある時だけに限る。

 他の四天王に比べ戦闘力はずば抜けて高いリゥだが、精神面では四天王の中でも最低。十二人衆と比べても劣るその精神の不安定さが、リゥの持つ唯一にして最大の弱点だ。


「まぁ取り敢えず、聞かなきゃいけねぇ話が出来たんだ。いつまでもボケっとなんてしてられねぇし、やることはやんねぇとな」


「大丈夫? 無理してない?」


「大丈夫、ありがと。――さ、行こうか」


 掛け布団を退かし、完全に布団から起き上がったリゥ。そして襖の横で心配そうにリゥを見上げるアキラの頭にポンっと手を乗せ、その後その手をアキラの手に移し部屋を出る。


 何としても確認しなければいけない真実の元へ、冷たい木造りの廊下を静かに歩く。そしてその道のりは、皮肉にも歩き慣れていた嘗ての某家そのものだった。

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