続編 -ペット以上、恋人以上・3-
あたしと綺羅人は結局、あの赤坂のマンションに移る事になった。
そして今日はそのマンションに入居する日だ。
綺羅人は自分の部屋の家具は買い揃える前に
彩穂さんと別れたからほとんど無いんだと言っていた。
だから綺羅人の部屋からはあまり荷物がないと
思っていたんだけど・・・
「なんか・・・すごい荷物だね・・・。」
目の前にドーンと積み上げられたダンボール。
あたしはそのダンボールの山を見上げた。
「凌子さん、口開いてるよ?」
綺羅人はクスクスと笑いながら更にダンボールを
あたしの目の前に積み上げた。
そのダンボールの中身は綺羅人が料理人なんだと言う事を
改めて感じさせる物ばかりだった。
たくさんの調理器具やレシピ本、料理関係の本や
綺羅人が修行時代に自分で纏めて書いていたノート、
後は今までに受賞したコンクールの盾やメダル、
トロフィーなんかもあった。
―――夜になり、一通り荷物も運び終えて、
とりあえず身の回りの事には困らない程度には片付いた。
「はい。」
そして、ソファーに座ってボーッとしていると
綺羅人がコーヒーを淹れて持って来てくれた。
「ありがとー♪」
あたしがマグカップを両手受け取ると
綺羅人は自分のマグカップをガラステーブルの上に置いて
ゴロンと寝転がってあたしの膝を枕にした。
「凌子さんの膝枕気持ちいい♪」
なんか・・・猫が膝の上でゴロゴロしてるみたい。
最近は綺羅人がすごく忙しかったから
こんな風に膝枕をしながら頭を撫でたりする事も
無くなっていた。
「“ペット”復活?」
だけど、あたしがクスッと笑いながら言うと
「うん・・・、でももうペットは終わり。」
と、綺羅人が言った。
・・・?
“ペットは終わり”?
あたしはその言葉にものすごく不安を覚えた。
すると、綺羅人はにこっと笑って起き上がり、
「今日からは凌子さんが俺のペット。
だから首輪の代わりにこれつけといてね。」
と、あたしの手を取って何かをはめた。
「・・・っ!?」
あたしは言葉を失った。
これって・・・
綺羅人があたしの薬指にはめてくれたものは
ダイヤの指輪だった。
「綺羅人・・・」
そして、綺羅人の顔を見上げると
そっと抱きしめられた。
「・・・凌子さん、俺、これからも凌子さんの事、
いっぱい不安にさせたり、寂しい思いをさせたり
すると思う・・・。
でも、そうさせないように頑張るから、
大事にするから・・・だから・・・
ずっと俺の傍にいてください。」
綺羅人はあたしが不安に感じてた事も寂しいって思ってた事も
わかっててくれたんだ・・・。
「は、い・・・。」
あたしは嬉しくて嬉しくて・・・、気がついたら泣いていた。
綺羅人は泣きながら返事をしたあたしに
「凌子さん、また泣いてる。」
と、優しく笑いながら言った。
もぅー、誰が泣かせてると思ってるのよー?
嬉しくて涙が溢れて止まらない。
綺羅人は片手でティッシュを数枚取ると
あたしの涙を拭いてくれた。
あたしは多分、綺羅人が言った通りこれから先、
不安になったり、寂しいって思う事があるんだと思う。
それでも時々、綺羅人がこうしてあたしの涙を拭いてくれるなら、
きっと幸せでいられる―――。
そんな気がした・・・。