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優しい西日・下  作者: 藍川牡丹
13/14

弔い(とむらい)

淳史に会ったことが頭の中を占領したままだったが

無事にアルバイトを終えた。



それは…しばらく忘れていたとても鋭い目つきだった。

眼差しだけで人を凍り付かせるような 人を動きを封じる威力、切り裂く事もできるようなとても鋭い目つきなのだ。人の脳裏に爪の根を下ろす眼差し。





その夜は見送りで外に出る度に本当に蒸し暑く

時折、水槽の水草を連想させるような匂いさえ感じた。



美香は他の若いアルバイト仲間に食事に誘われたが断った。

祐介宅に行くつもりもなく

ただホテルに真っすぐに帰りたかった。

暑いシャワーを浴びて

今夜の出来事を全て洗い流したい。



お店で誰かが言っていた

「髪は一番邪気を受けやすい。だから仏門時には頭を丸めるのだと」



頭こそ丸められないけれど

きれいにシャンプーをして今日の汚れ(けがれ)を落とし

そして涼しい部屋で早く眠りにつきたかったのだ。



店を出てタクシーに乗ろうと歩き出してすぐに

テールランプのついた車から淳史が降りてきた。



赤いランプに照らされて

その出で立ちは般若はんにゃのようなさまである。

男だから男蛇おとこじゃと呼べば良いのか。

美香の肝を くっと掴みかからんとするあの鋭い目。





「待ち伏せしてごめん。

 でもやっぱりどうしても来て欲しいから。

 もう今日を逃したら一生会えない気がしたからさ…」



見た目とは裏腹に淳史の口調はしんみりと優しかった。





蒸し蒸しとした夜は、夜空の色が明るい。

オレンジ色というか赤紫というか

それはこの町のネオンのせいでもあるのだろうか?

不思議な色をしている。



今夜着た薄い色のドレスと、この空間との境界線がなくなるというか溶け合っていると言うべきだろうか…そんな不思議な感覚すらこの空は運ぶ。





「辛いかも知れないけど、祐介の為に頼む」



淳史はそっと頭を下げた。





もしかしたら…今日が清算の日(弔いの日)なのかも知れない。

「祐介が浮かばれない」

この言葉だけが美香を応じさせたのだ。





淳史の後を歩き、車に乗り込む。





静かに走る車で案内されたのは内藤家の祐介の部屋だった。



きちんと片付いていて、

外の蒸し暑さとは対照にその部屋の空気は乾いている気がした。



淳史はクローゼットを開けて

箱を取り出し美香に渡した。



「どうするかは任せるから受け取るだけ受け取って。

 そうじゃないと祐介が浮かばれないからさ…」



美香はそこに佇んだまま、

しばらく箱を開けることができなかった。



「美香ちゃんが言ったとおりに

 俺が撃たれれば良かったと思ってるよ。

 祐介の方が本当はできる奴でさ…

 やりたいことも沢山あったと思うし。

 申し訳ない…



 線香をあげてやってくれる?」



1階に降りて仏壇の前で手を合わせた。



線香から立ち上る一筋の白い煙。

それはすっと美香の周りを漂う。



閉じた瞳から涙が幾筋も伝うのを止められなかった。





その後にふと、仏壇脇の祐介の写真の隣にある

もう一人の写真に気が付いた。

この人は祐介の父親ではないか?

直観的にそう思う。



お父さんも亡くなった……。



淳史は二人の近しい肉親を失っていたのだ。



ただそれを口に出す事もなく

美香はその部屋のソファーの上で箱を開けた。

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