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魔王様、うっかり絆される

「勇者は倒したばかりだ。次代が育つまでに勘を取り戻せば問題あるまい」


「いやいや、何言ってんの!?仮にも魔王だからね?そんな簡単じゃないからね?」


「そもそも貴様を魔王にする予定だったのだ。それをこんな辺鄙なところで500年ものんびりしおって、戻ってしっかりと働くが良い」


「そりゃ働くけど、それ魔王じゃなくて良くね?第一お前はどうする気だよ!」


「余か。余は、海へ行くのだ」


「は!?何言ってんの!?」



いや、この寒村に着いた瞬間はさすがにどうしたものかと思案したが、全く良い拾い物をした。


ここまで案内した娘にも、褒美を取らせねばなるまい。後ろで喚く筋肉を完全に無視し、余は娘に向き直った。余は働きには報いる主義なのである。



「娘、手を出すが良い」


「……?」



出会った時とは打って変わって恥ずかし気に手を差し出す。小刻みに震える手は相変わらず荒れて痛々しい。



「褒美だ、癒してやろう」


「え……あ、え!?」



この程度の傷なら余の魔力が残り僅かでも癒せる、魔術は身体強化のみの筋肉バカとは器が違うのだ。見る間に癒えた傷に娘は驚愕の表情だが、たいした事ではない。



「美しい顔をしているのだ、手も美しい方が良かろう」


「う、美しい……!?」



赤かった娘の顔が、さらに赤くなった。もっと赤くなったりもするのであろうか、人間の体とは興味深いものだ。



「こら!親の目の前で人の娘を口説くんじゃねえ!ていうか、俺の話をちょっとは聞けって!」



口説いてなどおらぬ、余は真実しか口にせぬのだ。


やれ、これで後顧の憂いは去った。

まだも喚く筋肉を捨て置いて、寝室と思われる部屋の粗末な夜着を勝手に拝借し、余はさっさと眠りについた。何という素晴らしい日であろうか、さすが余である。






翌朝、完全回復した魔力でもって、しのごのと言い募る筋肉とその娘をリーンカシンへと連れ帰る。魔力さえ戻れば、城へ戻る事など容易な事だ。



そして今、余は夢にまで見た南方の海リラシー島でバカンスを楽しんでおるわけだが。



「リュカルバーン様、撃退してきただよ!」



ジーズの娘、ミナまで伴う事になったのは想定外ではあったが、海を見たいと必死に言い募る様に絆されてしまったのだ。


あのような辺鄙な場所で500年、あの筋肉の世話をしておったのだ。海を見てみたいという健気な希望くらい叶えてやるものであろう。


それに実際に役にたっておる。


あの後ジーズを城に捨ててきたわけだが、あやつめ、魔王になるのは嫌だったとみえる。連れ戻そうとしばしば兵を送ってきおるのだ。今のところミナが率先して撃退する故、余の手を煩わせる事もないが。



「リュカルバーン様」


「……うむ」



褒美に抱擁を要求されるのはやや照れがある。


しかしこの娘も長い間他人との交流がなかったのだ、人恋しいのであろう事は理解できる。


そうよの、ミナがもう暫くこのバカンスを楽しんで海に飽きたなら、面倒ではあるが城へ送ってやる事としよう、あそこなら人も多いしジーズも居る。


波打ち際で海を楽しむミナを見ながら、余はその静かになるであろう未来に思いを馳せた。

とても楽しく書けた話でした。

結構カットしたエピソードは多かったんですが、すっきり終らせたかったので悔いはありません。


非常に押しに弱い魔王様なので、多分この後も色々と不本意なことになるんでしょう。

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