第四十三話:魔女の変装婚と、暴露のラブソング
聖都エリュシオンの大聖堂。
数ヶ月前、私が「聖絶の儀」を行ったこの場所で、今日は盛大な結婚式が行われていた。
「……また結婚式?」
「おめでたいことではありませんか、お嬢様」
私はご祝儀袋(中身は商品券)を握りしめ、溜息をついた。
新郎は、懲りない男・ジェラール王子。
そして新婦は……。
「新婦の入場です!」
扉が開き、純白のウェディングドレスに身を包んだ「少女」が現れた。
金色の巻き毛、大きな瞳、そして恥じらうような仕草。
誰がどう見ても、可憐で清純な深窓の令嬢だ。
……ただし、その全身から溢れ出る**「色気」**を除けば。
「うっ……! なんだこの破壊力は……!」
「可憐なのに……直視できない……!」
参列者の男性陣が、次々と鼻血を出して倒れていく。
そう。彼女の正体は、暗黒帝国の支配者・**魔女リリス**だ。
魔法で若作り……もとい、変装しているのだ。
「ジェラール様ぁ♡ 私、幸せですぅ♡」
「ああ、僕のエンジェル! 君のその瞳に、僕は吸い込まれそうだ!」
ジェラールはデレデレだ。
リリスの正体も知らず、ただの「可愛い女の子」だと思って求婚したらしい。
リリスの方も、「若い王族の精気(魔力)が吸い放題ね」と割り切っている。
ある意味、お似合いのカップルだ。
「……師匠。無理があります」
私の隣で、S.G.(サミュエル)が頭を抱えている。
彼は師匠の「少女コスプレ」を直視できないらしい。
「いいじゃない。愛に年齢は関係ないわ(魔法で誤魔化せれば)」
私はニヤリと笑った。
この結婚は、光と闇の融合を象徴するイベントだ。
私の「統治ビジネス」にとっても、最高のプロモーションになる。
「さあ、ここからはスペシャルゲストの登場よ!」
私が合図すると、聖歌隊の席から一人の男が進み出た。
今、大陸で最も人気のある吟遊詩人、**キース**だ。
「おめでとう、光の王子と……**仮面の少女**よ」
キースはリュートを奏で、透き通るような声で歌い始めた。
「♪光の都に咲いた、闇の華〜」
「♪その愛は真実か、それとも幻影か〜」
「♪仮面の下の素顔を、誰も知らない〜」
美しいメロディ。
だが、その歌詞は強烈な皮肉に満ちていた。
リリスの正体、そしてこの平和の裏にある「嘘」を、暗に暴露している。
「……いい歌だ」
ジェラールは感動して涙を流している。歌詞の意味など欠片も理解していない。
会場の民衆も「なんてロマンチックな歌だ!」と聞き惚れている。
だが、私とS.G.、そしてリリスだけは、背筋に冷たいものを感じていた。
キースは歌いながら、私たちの方を見てウインクした。
『全部お見通しですよ』と言わんばかりに。
「……あいつ、消す?」
「いや、待て。今手を出せば、結婚式が台無しになる」
S.G.が小声で止める。
リリスも、引きつった笑顔で拍手をしている。
歌が終わると、万雷の拍手が巻き起こった。
キースは優雅に一礼し、舞台袖へと消えていった。
「……食えない男ね」
私はグラスを煽った。
平和な結婚式の裏で、新たな火種が燻り始めている。
でも、今は祝おう。
この奇妙で、歪で、最高にハッピーなカップルの門出を。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **経費:** ご祝儀(商品券)、精神安定剤(S.G.用)
* **イベント:** ジェラール王子&リリス様の結婚式
* **懸念事項:** 吟遊詩人キースの動向。彼の歌は、民衆の無意識に「真実」を植え付けています。
**【クラウスの一言メモ】**
リリス様の変装魔法、完璧でした。
ですが、誓いのキスの瞬間、ジェラール王子の顔色が少し青ざめた(精気を吸われた)のを見逃しませんでした。
……長生きしてください、王子。
(第四十三話 完)




