第四十二話:涙の離婚会見と、裏側のハイタッチ
ローゼンバーグ王国の王宮バルコニー。
そこには、無数の記者と民衆が集まっていた。
本日は、世紀のビッグカップル、ジェラール王子と聖女ソフィアの「重大発表」の日だ。
「……民よ。聞いてくれ」
ジェラールがマイクの前に立つ。
彼はやつれメイクを施し、悲痛な表情を作っている。
「僕は……ソフィアと離縁することにした」
会場がどよめく。
「嘘でしょ!?」「あんなに愛し合っていたのに!」
「彼女は聖女だ。僕のような無能な王族の妻に収まるべき器ではない。
彼女には、もっと広い世界で、多くの人々を救ってほしいんだ……!」
ジェラールが涙を流す。
隣でソフィアも、ハンカチで目元を押さえる。
「ジェラール様……。貴方のその優しさ、一生忘れません。
貴方は無能なんかじゃありません。私を自由にしてくれた、世界一素敵な旦那様です!」
二人は抱き合い、そして離れた。
**「愛ゆえの別れ」**。
完璧なシナリオだ。
広場からは割れんばかりの拍手が巻き起こり、あちこちからすすり泣く声が聞こえてくる。
記者たちは涙を拭いながらペンを走らせている。
***
一時間後。
王宮の控え室にて。
「いぇーい! お疲れ様でしたー!」
「完璧だったね! 僕の演技、どうだった?」
ソフィアとジェラールが、満面の笑みでハイタッチを交わしていた。
テーブルには高級菓子とジュースが並んでいる。
「最高でしたよ! これで私も『バツイチ聖女』として箔がつきました!」
「僕も『身を引く悲劇のヒーロー』として好感度爆上がりだ! ファンクラブの会員数が倍になったよ!」
二人は祝杯を上げる。
しかし、ひとしきり盛り上がった後、ソフィアがふと動きを止めた。
「……あ、あれ?」
「どうしたんだい? ソフィア」
「私……離婚しちゃったんですよね? バツイチ……?」
彼女の顔色がサァーっと青ざめていく。
「ど、どうしよう……! 私、まだ誰とも付き合ったことないのに、戸籍上はバツイチに……!
これじゃあ、お嫁に行き遅れちゃうんじゃ……!?」
ソフィアが涙目で私に縋り付いてきた。
「お姉様ぁぁぁ! 責任取ってくださいぃぃぃ!」
「よしよし。大丈夫よ、ソフィア」
私は彼女の頭を撫でて慰めた。
「あんたは可愛いから、いくらでも貰い手はあるわ。……たぶんね」
「たぶん!? 今たぶんって言いました!?」
泣きじゃくるソフィア。
やっぱり、この子は根っこの部分では普通の(ちょっとズレた)女の子なのだ。
悪徳聖女への道は、まだ遠いかもしれない。
私は苦笑しながら、この騒がしくも愛おしい時間を楽しんだ。
誰も損をしない、完璧なビジネスだった。
「……でも、少しやりすぎたかしら」
私は窓の外、熱狂する民衆を見下ろした。
あまりにも綺麗すぎる物語。
出来すぎた美談は、時に人の疑念を招く。
街の酒場。
テレビ中継を見ていた客たちが涙する中、一人の男だけが冷めた目でグラスを傾けていた。
フードを目深に被った、吟遊詩人風の男。
「……綺麗すぎるな」
男は呟いた。
「出会い、結婚、そして離婚。全てのタイミングが完璧すぎる。
まるで、誰かが書いた『台本』があるみたいだ」
男はリュートを手に取り、静かに爪弾き始めた。
その旋律は、熱狂する街の空気に、冷たい水を差すような不協和音を奏でていた。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 20億ゴールド(離婚記念グッズ、独占手記の印税)
* **経費:** 会見会場費、サクラ(泣き役)の手配料
* **成果:** ソフィア様の身分洗浄完了
* **懸念事項:** 世論の反応。……「感動」の裏で、「疑念」の芽が育ちつつあるようです。
**【クラウスの一言メモ】**
ジェラール王子が「離婚ハイ」になって、「次は魔界のアイドルと結婚する!」と言い出しました。
……彼のメンタルは、ミスリルよりも硬いのかもしれません。
(第四十二話 完)




