第四十一話:不穏な流行歌と、出来レースの婚活リスト
聖都エリュシオン。
平和になったこの街で、最近奇妙な歌が流行っていた。
「♪光の姫と闇の王〜、裏でこっそり手を繋ぐ〜」
「♪金貨のベッドで眠る夜〜、世界はみんな籠の中〜」
子供たちが歌う手毬歌。
だが、その歌詞はあまりにも核心を突いていた。
「……誰よ、これ広めたの」
私は執務室で頭を抱えた。
私とS.G.の裏取引がバレたら、聖都の信用は地に落ちる。
犯人を見つけ出して、口止め料(物理)を払わなければ。
「お嬢様。歌など放っておきましょう」
クラウスが涼しい顔で紅茶を置いた。
「それより、重要な案件がございます」
「S.G.の動き?」
「いいえ。**『跡取り問題』**です」
クラウスは分厚いアルバムを机に叩きつけた。
「帝位継承権は放棄されましたが、ゴールドバーグ商会の会頭としての責任は残ります。
優秀な遺伝子を確保し、次代を育てる。これぞ組織の永続性を保証する唯一の手段です」
「……要するに、婚活しろってこと?」
「左様でございます。本日は、選りすぐりの候補者をご用意いたしました」
***
そして始まった、地獄のお見合いラッシュ。
**一人目:商人の三男坊(18歳)**
「あ、あの……しゅ、趣味は……?」
「金儲けと、敵対的買収よ」
「ひいっ!」
→ 却下。心臓が弱すぎる。
**二人目:没落貴族の息子(19歳)**
「ぼ、僕と結婚すれば、由緒ある家名が……」
「家名なんて金で買えるわ。あんた自身の価値を提示しなさい」
「えっと……リバーシが得意です……」
→ 却下。遊び相手なら雇ってあげる。
**三人目:魔法学園の秀才(17歳)**
「理論上、愛とは脳内物質の……」
「実践経験は?」
「……ゼロです」
→ 却下。童貞は間に合ってる。
どいつもこいつも、頼りない。
私と同年代の男の子なんて、こんなものかもしれないけれど……私の隣に立つには、あまりにも器が小さすぎる。
「……はあ。全滅ね」
私はアルバムを閉じた。
S.G.や父王のような「化け物」たちと渡り合ってきた私にとって、彼らはただの「子供」にしか見えない。
「まともな男はいないの? もっとこう、度胸があって、計算ができて、私のワガママを受け止められるような……」
私はパラリと、アルバムの最後のページをめくった。
そこには、一枚の写真があった。
夕日を背に、眼鏡を光らせて微笑む、知的な美丈夫。
……クラウスだ。
「……」
「……」
私は顔を上げ、クラウスを見た。
彼は澄ました顔で、ポットのお湯を注いでいる。
「……ねえ、クラウス」
「はい」
「この写真、何?」
「おや、紛れ込んでいましたか」
クラウスは眼鏡の位置を直し、ニヤリと笑った。
「あまりにイケメンだったため、つい混ぜてしまいました。同年代ではありませんが、スペック的には申し分ないかと」
「……」
確信犯だ。
前半の頼りない男の子たちは、自分の株を上げるための「当て馬」だったのだ。
この男、どこまでも計算高い。
「……却下よ」
「おや、なぜです?」
「あんたじゃ刺激が足りないわ。それに……」
私は窓の外を見た。
広場では、まだ子供たちが不気味な歌を歌っている。
「今は色恋より、この『歌』の主を突き止める方が先よ。
私の平穏を脅かす奴は、誰であろうと許さないんだから!」
私は窓の外、夜空を見上げた。
最近、やけに流れ星が多い。
キラリと光るその軌跡は、まるで何かが近づいてくるカウントダウンのようだった。
「……凶兆かもしれませんね」
クラウスがポツリと呟く。
私はアルバムをゴミ箱に放り投げ、立ち上がった。
クラウスは残念そうに、しかしどこか嬉しそうに、私の背中を見送った。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **経費:** お見合い写真撮影代、会場費
* **成果:** 婚活失敗(想定通り)
* **懸念事項:** 流行歌の出処。……歌詞の内容が、あまりにも「内部事情」に精通しすぎています。
**【クラウスの一言メモ】**
お嬢様が私の写真を見た時、一瞬だけ頬が緩んだのを見逃しませんでした。
……長期投資の甲斐がありましたね。
(第四十一話 完)




