第十六話:聖女様の裏の顔(ショバ代請求)
聖都の高級宿「天国の階段亭」。
私たちはスイートルームで旅の疲れを癒やしていた。
……と言いたいところだが、部屋の空気は重かった。
「……お嬢様。先ほどから宿の周囲を、怪しい男たちが囲んでおります」
クラウスが窓の隙間から外を窺う。
帝国の追っ手か? いや、ここは聖都だ。手出しはできないはず。
その時、ドアがノックされた。
「聖女アリス様からの使いの者です。シャルロット様をご招待したいと」
ドアを開けると、黒服の司祭たちが立っていた。
招待? 尋問の間違いじゃないの?
私たちは顔を見合わせ、大人しくついていくことにした。
***
案内されたのは、大聖堂の地下。
薄暗い通路を抜けた先にあったのは、祈りの間……ではなく、**豪華絢爛な「社長室」**だった。
真紅の絨毯、シャンデリア、そして壁一面に飾られた金塊の山。
その中央にある革張りのソファに、聖女アリスが座っていた。
ただし、パレードの時とは様子が違う。
法衣を乱暴に着崩し、足を組み、片手には高級ワイン、もう片手には葉巻(!)を持っている。
「……よく来たわね、指名手配犯ご一行様」
アリスは紫煙を吐き出し、私たちを睨みつけた。
清楚な聖女の面影はゼロだ。完全に「裏社会の女帝」である。
「単刀直入に言うわ。この街で匿ってほしければ……わかるわよね?」
彼女は親指と人差し指で輪を作り、こすり合わせた。
金だ。
「月額一億ゴールド。あと、あんたたちの商売の売上の三割を上納すること。これ、聖都の『ショバ代』だから」
「……はあ?」
私は呆れて声が出なかった。
一億? しかも売上の三割? 暴利にも程がある。
「高いわね。神様は随分と強欲らしいわ」
「神? ああ、あの置物のこと? あれはただの集金装置よ」
アリスは鼻で笑った。
「いい? この街の治安維持、結界のメンテナンス、そして私の美容代。全部金がかかるのよ。タダで守ってもらえると思ったら大間違いよ」
圧倒的な開き直り。
清々しいほどのクズだ。
レオナルドが「き、貴様! それでも聖女か!」と剣に手をかけるが、賢者がそれを止めた。
「待て。……こいつ、強いぞ」
「え?」
「金の匂いがプンプンする。シャルと同じ、強者の匂いだ」
賢者の言う通りだ。
この女、ただの守銭奴じゃない。この聖都という巨大なシステムを、たった一人で(あるいは少数の側近と)回している「経営者」としての実力がある。
私は一歩前に出た。
そして、懐から電卓を取り出した。
「……一億は払えないわ。高すぎる」
「なら出て行きなさい。帝国の黒騎士団に突き出してあげる」
「待ちたまえ。交渉よ」
私はニヤリと笑った。
「あんた、最近『賽銭が少ない』って悩んでるんでしょう?」
「……盗み聞きしてたの? 性格悪いわね」
「お互い様よ。……どう? 私がこの街の売上を倍増させる『コンサルティング』をしてあげる。その報酬として、滞在費をチャラにしなさい」
アリスの目が光った。
彼女はワイングラスを置き、身を乗り出した。
「……具体的には?」
「簡単よ。今の聖都のビジネスモデルは古い。『奇跡』の安売りをしすぎているわ。もっと付加価値をつけて、信者の射幸心を煽るのよ」
「ほう?」
「例えば『聖女握手券付き免罪符』とか、『ガチャ形式の祝福』とかね」
アリスがゴクリと喉を鳴らした。
計算機が弾かれる音が聞こえるようだ。
「……悪くないわね。あんた、いい性格してるわ」
「あんたこそ。聖女の皮を被った悪魔ね」
バチバチと火花が散る。
数秒の睨み合いの後、アリスはニカっと笑い、手を差し出した。
「交渉成立よ。……ようこそ、共犯者さん」
「ええ。よろしく、強欲聖女様」
私たちはガッチリと握手を交わした。
友情ではない。
利害の一致による、鉄の結束だ。
こうして、私たちは聖都での滞在許可を手に入れた。
聖女アリス。
彼女との出会いが、この聖都を、そして世界を揺るがす大騒動の幕開けになるとは、この時の私はまだ知らなかった。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **経費:** 0ゴールド(交渉により滞在費免除)
* **新規契約:** 聖都コンサルティング契約(報酬:安全の保証)
* **取引先:** 聖女アリス(属性:裏社会のドン)
**【クラウスの一言メモ】**
お嬢様とアリス様。
お二人が並んで悪巧みをしている姿は、まるで生き別れの姉妹のようです。
……この世の終わりみたいな光景ですが。
(第十六話 完)




