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悪役令嬢は性悪執事とお金に溺愛される ~皇女の身分を捨てて商売を始めたら、国家予算レベルの資産と最強の夫が手に入りました~  作者: 蒼山りと


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第十三話:悲劇の王子(自称)と、便乗商法

 湖畔の保養地、レイクサイド。

 私たちは次の目的地へ向かう資金を稼ぐため、この観光地に立ち寄っていた。


 しかし、街の様子がおかしい。

 どこもかしこも、若い女性で溢れかえっているのだ。

 しかも彼女たちは、一様にハンカチを目に当て、うっとりとした表情でポスターを見つめている。


『悲劇の貴公子、ジェラール王子滞在中』

『悪女シャルロットに傷つけられた心を癒やす、涙のヴァカンス』


「……はあ」


 私はポスターの前で、盛大なため息をついた。

 ジェラール。

 あのナルシスト王子、ここに来ていたのか。しかも「被害者ビジネス」を展開しているとは。


「許せないわね、シャルロット皇女! あんな素敵な王子様を振るなんて!」

「きっと性格がねじ曲がったブスよ!」


 周囲の女性客たちの罵倒が聞こえてくる。

 私はこめかみに青筋を立てながら、笑顔を作った。


「……クラウス。商機よ」

「はい。需要(同情)は十分にあります」


***


 一時間後。

 私たちは広場の一角に露店を開いていた。

 看板にはこう書かれている。


**『ジェラール王子公認(予定)・悲しみの聖水』**

**『王子が流した涙の成分を完全再現! 一本500ゴールド!』**


「さあ、いらっしゃい! あの麗しのジェラール様が、夜毎枕を濡らした涙の結晶だよ!」


 私が声を張り上げると、女性客が殺到した。


「キャーッ! 欲しい! 王子様の涙!」

「私に十本ちょうだい!」

「私は飲む用と浴びる用で二十本!」


 飛ぶように売れる。

 中身は、クラウスが裏で調合した「ただの塩水」だ。原価はほぼゼロ。

 ボロい。ボロすぎる。


「ちょ、ちょっとシャル! これ詐欺じゃないの!?」


 売り子をさせられているルナ(メイド服)が、小声で抗議してくる。


「失礼ね。これは『ファンアイテム』よ。信じる者には価値があるの」

「悪徳商人……!」

「おいメス、俺も手伝ってやる」


 賢者が乱入し、客の整理を始めた。

 彼が睨むだけで、興奮した客たちが整然と列を作る。意外と役に立つ。


 こうして、私たちは半日で数百万ゴールドを売り上げた。

 笑いが止まらない。

 ジェラール様々だ。彼には感謝状(請求書)を送らなきゃ。


 そう思って店じまいをしようとした時だった。


「……そこの商人。待ちたまえ」


 煌びやかな近衛兵たちが現れ、店を取り囲んだ。

 そして、中央から一人の男が進み出てくる。

 金髪碧眼。白馬に跨り、無駄にキラキラしたオーラを放つ男。

 ジェラール王子、本人だ。


 (げっ……!)


 私はとっさにフードを深く被った。

 正体がバレたら面倒だ。皇女だとバレれば連れ戻されるし、悪女だとバレればファンに殺される。


「……僕の涙を売っているというのは、君たちかい?」


 ジェラールは馬から降りると、私の目の前に立った。

 そして、長い睫毛を伏せて、憂いを帯びた(演技くさい)表情を作る。


「無許可での販売は感心しないな。……だが」


 彼は私の手にある「涙の小瓶」を取り上げ、太陽にかざした。


「美しい……。この瓶の中に、僕の悲しみが詰まっているのか。君は、僕の心の痛みを理解してくれているんだね?」

「……は?」


 予想外の反応に、私は呆気にとられた。

 怒られるかと思いきや、感動している?


「素晴らしい。あの冷酷なシャルロット皇女には理解できなかった僕の繊細な心を、君のような市井の商人が理解してくれるとは」


 ジェラールは私の手を取り(汚い手袋をしているのに!)、熱っぽい視線を送ってきた。


「気に入ったよ。君、名前は?」

「……シャル、でございます」

「シャルか。いい名前だ。……どうだろう、僕の専属商人にならないか? 君なら、僕の美しさと悲劇を、世界中に広めてくれそうだ」


 私はフードの下で、クラウスと顔を見合わせた。

 (クラウス、どうする?)

 (カモがネギを背負って、さらに鍋まで持ってきた状態です。断る理由がございません)

 (採用!)


 私は営業スマイル全開で、ジェラールの手を握り返した。


「光栄でございます、殿下! このシャル、殿下の悲劇を金……いえ、伝説に変えるお手伝いをさせていただきます!」

「うむ! 期待しているよ!」


 ジェラールは満足げに頷き、去っていった。

 周囲のファンからは「キャーッ! 王子様、お優しい!」と黄色い声援が飛ぶ。


 ……バカだ。

 本物のバカだ。

 目の前にいるのが、自分を振った張本人だとも気づかずに。


「……お嬢様。笑いを堪えるのが大変でした」

「私もよ。あいつ、本当に鏡しか見てないのね」


 私は懐に入った売上金を撫でた。

 これで、強力なスポンサー(カモ)も手に入れた。

 ジェラール王子。

 あんたのそのナルシシズム、骨の髄までしゃぶり尽くしてやるわ。


***


**【本日の営業報告】**

**文責:クラウス**


* **売上:** 580万ゴールド(塩水販売)

* **原価:** 500ゴールド(塩代、瓶代)

* **新規契約:** ジェラール王子・専属プロデュース契約

* **懸念事項:** 王子の「自分語り」が長すぎて、お嬢様のストレスがマッハです。


**【クラウスの一言メモ】**

ジェラール王子は、お嬢様の顔を見ているようで、その瞳に映る自分を見ているだけです。

ある意味、最も安全な(正体がバレにくい)相手と言えるでしょう。


(第十三話 完)


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