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悪役令嬢は性悪執事とお金に溺愛される ~皇女の身分を捨てて商売を始めたら、国家予算レベルの資産と最強の夫が手に入りました~  作者: 蒼山りと


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第十二話:勝利の宴と、裏切りのサイン

 街道での乱戦は、予想外の結末を迎えた。


「……撤退だ!」


 黒騎士の隊長が叫ぶと、帝国精鋭部隊は潮が引くように森の中へ消えていった。

 圧倒的な戦力差があったはずだ。

 賢者が暴れていたとはいえ、数で押せば私たちを捕獲できたはずなのに。


「ふん、口ほどにもない。私の『竜殺しの剣』に恐れをなしたか!」


 レオナルドが剣を掲げて勝ち誇っている。

 賢者は「あ? もう終わりか? 食い足りねえな」と不満げに鼻を鳴らした。


 私は、黒騎士たちが消えた森を見つめ、眉をひそめた。

 ……おかしい。

 あの「過保護なクソ親父」の部隊にしては、引き際が良すぎる。

 何か別の意図があるのか?


「お嬢様、お怪我は?」

「ないわ。……クラウス、どう思う?」

「不可解ですね。まるで『今は泳がせておく』と言わんばかりの撤退です」


 クラウスも眼鏡の奥の瞳を細めている。

 その視線が、ふと横に向けられた。


「……ねえ、みんな! 勝ったんだからお祝いしましょうよ!」


 ルナだ。

 彼女は満面の笑みで、どこからか盗んできた(調達してきた)高級ワインのボトルを掲げている。


「この近くにいい野営地があるの。そこで宴会よ! 今日は私が料理を作るわ!」

「おっ、気が利くなメス」

「ルナさん、貴女も戦ってくれたんですね(隠れてただけに見えましたが)」


 レオナルドと賢者は単純に喜んでいる。

 だが、私は見た。

 さっき、黒騎士が撤退する直前。

 ルナが隊長に向かって、小さくハンドサインを送っていたのを。


 ――親指と人差し指で輪を作り、胸元で二回叩く。

 あれは、裏社会のサインではない。

 帝国の諜報部隊が使う暗号、**『潜伏継続ミッション・コンティニュー』**だ。


 (……なるほどね)


 私は心の中で冷たく笑った。

 そういうことか。

 この「お色気怪盗」は、ただの泥棒猫じゃなかったわけだ。

 父が送り込んだ「監視役スパイ」か、あるいは「誘導役」か。


「いいわね、宴会。パァーッとやりましょう」


 私はあえて乗ることにした。

 泳がされているのはどっちか、教えてやる。


***


 その夜。

 焚き火を囲んでの宴会は盛り上がっていた。

 ルナの手料理は意外にも絶品で、賢者もレオナルドも舌鼓を打っている。


「うまい! このスープ、何が入ってるんだ?」

「ふふ、秘密のスパイスよ♡」


 賢者はスープを啜りながら、ボソリと呟いた。

「……この香草、市場価格でグラム50ゴールドはするな。原価率高すぎねえか?」

「え?」

「あ、いや、なんでもねえ! 肉うめえ!」


 ルナが愛想を振りまく中、私は少し離れた場所で、クラウスと並んで座っていた。


「……クラウス」

「はい」

「気づいてるわよね?」

「ええ。スープに微量の『睡眠導入剤』が混入されています。味を変えない程度に、巧妙に」


 クラウスは手元のスープを一口も飲まず、地面に少しだけこぼした。

 蟻が寄ってこない。毒ではないが、薬効がある証拠だ。


「ルナの正体は、十中八九、皇帝陛下の密偵でしょう。武器屋での遭遇も、偶然を装った演出かと」

「でしょうね。……で、どうする?」

「泳がせましょう。彼女を利用すれば、逆に帝国の動きを把握できます。それに……」


 クラウスは、楽しそうに笑うルナの横顔を見た。


「彼女の借金はまだ十億残っています。スパイだろうが何だろうが、元を取るまでは働いてもらわねば」

「ふふ、さすがね。ブレないわ」


 私はスープを口に運ぶふりをして、袖口に流し込んだ。

 そして、わざとらしく大きなあくびをする。


「あーあ、なんだか眠くなっちゃった。私、先に寝るわ」

「おやすみなさいませ、お嬢様」


 私がテントに入ると、ルナの視線が背中に突き刺さるのを感じた。

 獲物を狙う目だ。

 でも、甘い。

 あんたが父の密偵なら、私はその父の娘よ。

 狐と狸の化かし合い、どちらが上手か勝負しましょう。


***


 深夜。

 全員が寝静まった頃、ルナが音もなく起き上がった。

 彼女は懐から小さな通信機(魔導具)を取り出し、森の奥へと歩いていく。


「……こちら『月影』。ターゲットは就寝中。……ええ、計画通りです。彼らは私を完全に信用しています」


 闇に溶けるような小声。

 だが、その会話はすべて、テントの隙間から覗いている私とクラウスに筒抜けだった。


「……はい、陛下。シャルロット様はお元気です。……はい、少し口が悪くなっていますが、それもまた愛らしいと? ……はあ、承知しました」


 ルナは通信機に向かって、呆れたように溜息をついた。


「引き続き、聖都まで誘導します。……ええ、例の『舞台』の準備をお願いします」


 通信が終わる。

 ルナが戻ってくる前に、私たちは寝たふりをした。


 (聖都での『舞台』……?)


 私は狸寝入りをしながら考えた。

 父は何を企んでいる?

 単に連れ戻すだけなら、今日の黒騎士団で十分だったはずだ。

 それを止めてまで、私を聖都へ行かせたい理由があるのか?


 謎は深まる。

 だが、一つだけ確かなことがある。

 この旅は、単なる逃避行ではなくなった。

 父との、そして世界との「知恵比べ」の盤上に、私たちは立たされているのだ。


***


**【本日の営業報告】**

**文責:クラウス**


* **売上:** 0ゴールド

* **経費:** 宴会費用(ルナ持ち)

* **発覚事項:** ルナ=二重スパイ(確定)、スープへの異物混入(未遂)

* **対策:** 逆監視体制の強化


**【クラウスの一言メモ】**

ルナの料理の腕は確かです。スパイとして処刑するのは惜しい人材です。

もし彼女が裏切って牙を剥いた時は、その料理スキルだけを抽出して、我が商会のメニュー開発部に移植ヘッドハントしましょう。


(第十二話 完)


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