第十一話:薔薇の騎士と、過保護すぎる皇帝(パパ)からの招待状
鉱山都市ガルドを出て、私たちは再び街道を進んでいた。
メンバーは五人。
私(悪徳商人)、クラウス(性悪執事)、賢者(野生の魔王)、レオナルド(ローン騎士)、そして新入りのルナ(借金怪盗)だ。
ルナは馬車の荷台で、クラウスに渡された「メイド服」に着替えさせられ、ブツブツと文句を言っている。
「なんで私がこんな格好を……! しかもこのフリル、安物じゃない!」
「文句を言うな。経費削減だ。古着屋で十ゴールドだった」
私が御者台から声をかけると、ルナは「キーッ!」と奇声を上げた。
賑やかで結構。
だが、その平和な旅路を遮るように、前方から馬蹄の音が響いてきた。
「……またか」
私はため息をついた。
現れたのは、十騎ほどの騎士団だ。
ただし、普通の騎士ではない。全員がピンク色のマントを羽織り、馬には薔薇の造花が飾られている。
先頭に立つ男が、髪をかき上げながら叫んだ。
「見つけたぞ! 悪役令嬢シャルロット! 我らは王立・薔薇の騎士団! 美と正義の名において、貴様を捕縛する!」
男が合図をすると、部下たちが一斉にバスケットから**薔薇の花びら**を撒き散らした。
視界がピンク色に染まる。
……邪魔くさい。掃除が大変そうだ。
「ふふふ、この『ローズ・ストーム』に恐れをなしたか! さあ、大人しく……」
「レオナルド、やっておしまい」
「了解です、ボス!」
私が指を鳴らすと、レオナルドが馬車から飛び出した。
彼は手に入れたばかりの「竜殺しの剣」を構え、恍惚の表情を浮かべている。
「おお……この剣、軽い! まるで羽のようだ! 見せてやる、私の新しいローンの輝きを!」
**ズバァァァン!!**
レオナルドが一振りすると、衝撃波が発生し、薔薇の花びらごと騎士団を吹き飛ばした。
ピンク色のマントが宙を舞い、彼らは「美しい……!」と叫びながら星になった。
「……弱っ」
「装備の無駄遣いね。回収して売りましょう」
私とクラウスが、気絶した彼らの装備を剥ぎ取ろうと馬車を降りた、その時だった。
**ドスッ。**
音もなく、何かが地面に突き刺さった。
漆黒の矢だ。
薔薇の騎士団の隊長の、わずか数センチ横に突き刺さっている。
「……誰?」
空気が変わった。
さっきまでのコメディチックな空気が消え、肌を刺すような殺気が満ちる。
街道の脇の森から、音もなく数人の影が現れた。
全身を黒い甲冑で覆った、異様な集団だ。彼らの胸には、王国の紋章ではなく、隣の大国「ガレリア帝国」の紋章――双頭の鷲が刻まれている。
「……掃除ご苦労」
先頭の黒騎士が、低く重い声で言った。
彼は倒れている薔薇の騎士団をゴミのように跨ぐと、一直線に私の方へ歩いてきた。
「雑魚が群がって、姫様の視界を汚した。万死に値する」
「……姫様?」
レオナルドとルナが顔を見合わせる。
私は舌打ちをした。
最悪だ。一番会いたくない連中が来てしまった。
黒騎士は私の前で立ち止まると、恭しく、しかし有無を言わせぬ威圧感で跪いた。
「お迎えに上がりました、**シャルロット皇女殿下**」
「「「はあぁぁぁぁ!?」」」
レオナルド、ルナ、そして薔薇の騎士団(気絶から目覚めた)が同時に叫んだ。
クラウスだけが、静かに眼鏡の位置を直している。
「皇帝陛下がお待ちです。さあ、帝国へお戻りください。このような薄汚い馬車も、下賤な仲間も捨てて」
黒騎士が手を差し出す。
その背後には、いつの間にか数十人の部隊が展開し、私たちを包囲していた。
完全武装の精鋭部隊。薔薇の騎士団とは格が違う。
私は、差し出された手を睨みつけた。
「……断るわ」
「殿下?」
「あのクソ親父に伝えて。『私は帰らない』ってね」
私は仁王立ちして言い放った。
「『鳥籠の中で、着せ替え人形のように生きるのはもう御免よ! 私は私の足で歩くの! 金も自由も、この手で掴み取ってみせるわ!』」
黒騎士の目が細められた。
「……陛下は、殿下の安全を最優先せよと仰せです。たとえ、手足を折ってでも連れ帰れと」
「相変わらずの過保護ね!」
黒騎士が剣に手をかけた瞬間。
**ドォォォォン!!**
上空から何かが降ってきて、黒騎士と私の間に着地した。
賢者だ。
彼は地面をクレーター状に陥没させながら、退屈そうにあくびをした。
「おい、黒いの。俺のメスに気安く触るな」
「……貴様か。『鉄拳賢者』。陛下の障害となりうる危険因子」
黒騎士たちが一斉に武器を構える。
しかし、賢者はニカっと笑った。
「強いな、お前ら。あのピンクの雑魚よりは楽しめそうだ」
「クラウス! レオナルド! ルナ! 総員戦闘配置!」
私が叫ぶ。
クラウスがナイフを構え、レオナルドが剣を抜き、ルナが姿を消す。
「悪いけど、私はまだ捕まるわけにはいかないの。借金(八億)も返してないし、世界一の商会も作ってないんだから!」
黒騎士が剣を抜いた。
「交渉決裂か。……力ずくでも連れ帰る! 全員、かかれ!」
帝国精鋭部隊 vs 悪徳商人パーティ。
街道を舞台に、親子喧嘩という名の戦争が始まった。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **戦利品:** 薔薇の騎士団の装備一式(金メッキのためスクラップ扱い)
* **交戦相手:** ガレリア帝国・皇帝直属近衛騎士団
* **発覚事項:** お嬢様の出自(皇帝の家出娘)
**【クラウスの一言メモ】**
レオナルド様とルナが「皇女!? マジで!?」と腰を抜かしておりました。
後で説明が必要ですね。
それにしても、皇帝陛下(お父上)の執着心は相変わらずです。
「手足を折ってでも」というのは、彼なりの最上級の愛情表現なのですが……一般人には理解され難いでしょうね。
(第十一話 完)




