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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
81/86

21、予想外のクリスマス  <Side 和馬>







じつは、ジョンと同居を始めて、ロゼが帰国してから、俺たちはまだ<裏の顔>で3人で会ったことはなかった。




相変わらずノワールがふざけたように狙ってくることも、怪盗カヴァリエーレが獲物を横取りしてくることもあったけど、ノワール、怪盗カヴァリエーレ、そして怪盗夜叉が同じ舞台に上がったことはまだなかった。




だから、俺は忘れていたんだ。


そういえば、ジョンに大事なことを伝えていなかったことに。




・・・ま、よくあるパターンだよな、最近・・・・・・。










21、予想外のクリスマス?!      <Side 和馬>












『いじわる~いじわる~せっかくのクリスマスにぃ~』


「うるっっさいな、だから昨日はずっとふたりきりにさせただろ?」


『<仕事>の一環じゃないか~!!ばっっっかじゃねぇの、夜叉のアホ~!!』


「ハイハイ、どーもスイマセンね」



俺の耳にあるインカムからは、ひたすらず~っとさっきから<ビール>の愚痴と文句ばかりだ。それにいちいち答えながら、俺は何をしているかといえば、天井裏をずりずりと這って移動している最中だったりする。



今夜の獲物は、俺たちにとっては<シリーズ>かどうかは賭け。


少し大きめのピンクサファイアをあしらったペンダント。


高層ビルの催されている宝石展で展示されていたそれを狙うと予告状を出してから、マスコミも警察も大騒ぎしてくれた。これなら、もしも<シリーズ>だったら<組織>が動くはずだ。




そして、今回の予告日はクリスマス。


ギャラリーも多くて、予告時間前だというのにビルの外が賑やかなのがここからでも聞こえる。


<ビール>だけがクリスマスが予告日だったことに文句があるみたいだけど。


でも、展示の最終日を狙ったらクリスマスだったんだから・・・・・・仕方ないよな?



せっかくのクリスマスイヴも、どうやら甘い恋人たちの時間というよりは、<仕事>の下見と仕掛けだったみたいだから、そこらへんは申し訳ないかな、とは思ってるけど。


だから、<ビール>の耳タコな文句にいちいち相槌をうって、相手をしていたりする。





「・・・え~と?そろそろか?」


『ん、まぁ、そこらへんだな。俺が仕掛けたのはあと5メートル先のとこ』


「了解。時間は?」


『ギリギリ。あと2分だよ』


俺と<ビール>の通信に、<ブラック>が冷ややかに割って入ってくる。





「それはギリギリじゃなくて、ピッタリって言うんだぜ?」


飛び出す用意をしながら、俺はクスクス笑って<ブラック>に言う。


『なんだっていいけど、気を付けろよ?いくら<ダージリン>が警備に紛れているとはいえ、今夜の警備は気合入ってるから』


『仕掛けも気合入ってたしな』


「了解~」


小姑のように口煩い<ブラック>に便乗して、<ビール>が軽く言い加えてくる。




ちなみに、今回は高層ビルの犯行だから、<ビール>は地上にて野次馬と紛れて待機。とはいえ、高所が苦手な<ビール>が事前に仕掛けを施すことができたのは、この宝石展がビルの3階で行われているからだった。


・・・せっかくの高層ビルの展示なのに、3階ってなんだよ・・・。もったいね~の。




で、それなら高層ビルの利点を活かして退散しましょってことで、今夜の逃走手段はパラグライダー。


だから、<ブラック>はちょうどパラグライダーで着地する予定のビルの屋上で、俺の着替えと共に待機している。


<ダージリン>は変装して警備員に紛れている。


さぁ、もうすぐゲームの始まりだ。







まずは天井裏に<ビール>が仕掛けたものを発動させて・・・っと。


怪盗夜叉に狙われているピンクサファイアがある展示室に、突然、大量のネズミ花火が落下。


突然の思わぬ襲撃に、慌てる警備員たち。



「あ、慌てるな!!怪盗夜叉だ!!」




たいていいつも俺の現場に居合わせてる警部殿の激が飛ぶが、<ダージリン>が煽る混乱は、警備員に伝染していく。やがて、大量のネズミ花火が放つ煙が天井へと上っていき・・・・・・。





「し、しまった!!」


こういう高層ビルには大抵備え付けてあるもんなんだよな、火災報知器。慌てる警部の叫びとほぼ同時に、備え付けのスプリンクラーが発動。


一気に降り注ぐシャワーに紛れて俺は展示室に降り立ち、混乱中の警備員たちのお陰で守りが手薄になった獲物のそばへ。


ま~たこの獲物のケースも、いらぬ小細工してあるんだけどさ。





「宝石は渡さないぞ、怪盗夜叉!!」


「それは、こちらのケースに飾られた宝石がニセモノだと言うことを指していらっしゃいますか?」


「知って・・・!!」


「わたしは何でも知っていますよ。例えば、本物はここにあることも」


ニセモノの宝石が飾られているケースから、そのニセモノを取り出し、そのあとケースの台座を強く叩く。


すると、そこから窪みが現れて、俺はそれをぐいっと押してみる。


「なっ・・・・・・!!」


パニック中の警備員たちのせいでうまく動けない警部の目の前で、俺はケースの台座の仕掛けから現れた、本物の宝石を手に入れる。




・・・・・・どうすっかな、このニセモノはいらないんだけどなぁ・・・・・・でも、これを取らないと本物があるスイッチは発動しなかったから思わず取っちゃったけど・・・。


今更戻すのも面倒だし、よし、どっかに捨ててこよう。




「それでは、イミテーションと本物のふたつの宝石をいただいていきます」


警察と一緒にいた、入室許可を得たマスコミに、収穫した獲物を見せる。しっかりカメラにおさまったことを確認して、俺は逃げる体制に入る。


「ま、待て!!ちょ、どけ、おまえら!!」


やんやんやと警部が苦心している間に、俺はさっさと天井裏に逆戻り。


うまく辿って、業務用のエレベーターで最上階へ。




『まだ警察はそちらに向かうには時間がかかりそうよ』


「サンキュー、<ダージリン>」


『俺も誘導作戦開始しま~す』


警備員に紛れている<ダージリン>からの報告に次いで、地上にいる<ビール>からの次の作戦開始の合図。


怪盗夜叉が地上に逃げたかのように騒ぎを起こすのだ。


地上でそんな騒ぎが始まる頃、俺はそのビルの屋上に黒マントを靡かせながら姿を現す。


さて、ここから飛んで帰ろうかな、なんてパラグライダーの用意を始めていたら・・・。






「抜け駆けは、よくないよね、怪盗夜叉」


「・・・これはこれは。今宵はお忙しくていらっしゃるでしょうに、おいでいただけるとは」


誰もいないはずの屋上から聞こえてきた声に、俺は動じることなく茶目っ気すら見せて応じる。


すっと音もなく姿を見せる相手。


月明かりと夜の街の明かりが、俺たちを照らす。


白い仮面と、白い顔。互いに口端をあげて笑みを浮かべる。





俺の目の前に現れた男、怪盗カヴァリエーレは、軽く手を叩いた。


「素晴らしいチームプレーだね。適切な役割分担とチームワーク。たしかにこれなら未熟なキミでもうまくいく」


「・・・恐れ入ります」


なんか、嫌みをチクチク言われた気がするけど。でも、そういえば。




「あなたがこちらにいらしたということは、これはやはり<シリーズ>で間違えないのですね」


「おや?確信を持っていたのではないのかい?」


「残念ながら、時々ちょっとした賭けになるときがあるのです」


「驚いたな。まさかシリーズ・リストを持っていないなんて」


・・・・・・やっぱり、こいつも持っているのか。<失われた誕生石>のシリーズ・リストを。




「さて、それではそれをこちらにいただこうか」


黒い鞭がしなやかな動きでこちらに向かってくる。


俺は飛び退いて一撃目を避けるが、一体どんな操り方をしているのか、その鞭は休むことなく怪盗夜叉を狙い続け、追い続けてくる。


怪盗夜叉が持つ、<失われた誕生石>を狙って。




やば、このままここで戦えば、負けるな。


だったら・・・・・・。






「怪盗カヴァリエーレ、今宵はこれにてわたしは失礼いたします」


「なに?!」


すかさず鞭を向けてこようとしたカヴァリエーレの手元に、俺は煙幕付のダーツの矢を投げつけた。


それが破裂して相手の視界を奪っているうちに、俺はパラグライダーを開いて夜空に飛び出していた。






「ふぅ、危なかった~」


『どうした?』


「いや、またセンパイが邪魔を・・・・・・って、ちょっと待て」


<ブラック>との通信中に、慌てて俺はパラグライダーの方向を転換させる。センパイ怪盗もなかなかやっかいだけど、もっとやっかいな奴の気配を感じたからだ。


パラグライダーをうまく操縦して手頃なビルの上にでも、と降下している最中だった。




―――――――パシュッ。





サイレンサーで消された銃音。それが狙ったのは・・・・・・



「くっそ、うそだろ・・・!!」




銃弾が撃ち抜いたのはパラグライダーのど真ん中。しかも立て続けに三発。


や、やめてくれ・・・・・・!!



穴が空いたことによって、風の抵抗がおかしなことになってくる。俺はぐらぐらとなんとか操縦して、降りようと思っていたビルの上に降り立つ。


あ、危ない・・・一歩間違えたら落下だぞ、これ・・・・・・。


俺は銃弾が放たれた方向を睨む。たぶん、あいつはまだこっちを狙っているに違いないから。




闇のスナイパー、ノワールは。






そして俺が体勢を整えるのももちろん待つことなく、銃弾が次々と飛んでくる。


ノワールがいるってことは、<組織>の連中は休みか?クリスマスだからかな?


なんとかノワールの死角になるような場所に逃げ込みながら、俺はそんなことを考えてひとり笑う。



それにしても参ったな、ノワールも参戦ってことは、なかなか動きにくい。


パラグライダーが壊されたことによって、<ブラック>との合流地点にはすぐには行けそうにないし・・・・・・。






「・・・・・・なぜ、あのスナイパーがキミを狙うんだ?」


はっと顔をあげれば、ビルのフェンスの上にもうひとりの怪盗。しかも、俺が隠れている給水タンクの影になってるから、ちゃんとノワールからは死角。


・・・・・・つ~か、本当に気配消すのうまいよな。そして、いつのまに俺に追い付いたんだよ。




「・・・なぜ、あのスナイパーがキミを?協定しているのでは?」


黙ったままの俺に、怪盗カヴァリエーレは再度問いかけてくる。


・・・そういえば、このぐちゃぐちゃした関係のこと、話してなかったっけ?





「ノワールは、<組織>に<依頼>を受けたのですよ。怪盗夜叉の暗殺を」


「なっ・・・に・・・?あいつがどんなスナイパーかわかっているのか・・・?」


「任務遂行率100%の一流スナイパー、ですよね?ですから、わたしの命が奪われる前に、<組織>を潰さなければならないのですよ。わたしは、自らの命と<失われた誕生石>のふたつを守らなければならないのです」


「バカな・・・・・・」




ショックを受けている割に、安定したバランスでフェンスの上に立っているカヴァリエーレ。


あのバランス力は、マジシャンだからなのか?!・・・いや、俺もあれくらいならできるけど。




「<組織>の壊滅をノワールと協定しなければわたしは今頃死んでいるでしょうね。・・・さて、わたしはそろそろ行きますよ」


一ヶ所にずっと隠れていてもいつかは見つけられちゃうし。




突然の衝撃の事実にショックを受けている怪盗カヴァリエーレを残して、俺はワイヤーを駆使してビルとビルの間を飛び移ろうとする。


「ま、待て・・・!!」


「お話なら、後で伺いますよ」


今は逃げ切らないとやばいからな。


俺はそれだけ言い残し、再び飛んでくる銃弾をギリギリで交わしながらビル間に落ちていった。








そのまま適当に民家の屋根とかを飛び移っていたら、なんとか今回もうまくノワールから逃げ切れたようだ。ほっとして、人通りがなさそうな暗い住宅街にそっと降り立った。


やっと地に足がついて安堵すると同時に、思わず膝を折る。


つ、疲れた・・・・・・。




怪盗カヴァリエーレとノワールのダブル攻撃は、警察で遊んでからの身としてはきっついな・・・。


それにしてもここはどこだ?見覚えがありそうな・・・。





俺はうまく合流できなかった<ブラック>に通信しようと口を開いたところで、気配を感じてはっと振り返った。


・・・が、そこにいたのは、なんと、愛良・・・・・・。


いったい、どんなクリスマスのミラクルだよ・・・。こんな盛りだくさんなクリスマス、嫌だ・・・。




嘆く心中をなんとか押さえ込み、ふと浮かんだのは流れで一緒に持ってきてしまったニセモノの宝石。


じつはこいつには発信器がついてるって話は、<ビール>が下見の段階で気付いて知ってたけど。


だから、あのビルを飛び立つときだけ騒ぎを起こして誤誘導してくれれば、あとはテキトーに捨てて、警察を撒く予定だったんだけど・・・ちょっと予定外のアクシデントが続いたからな。





ここで偶然出会したのを機会に、俺は愛良にその発信器つきのニセモノを託してしまった。


愛良が家に帰るまでの時間を稼ぎたかったっていうのもあったからな。




そうして、なんとか様々なトラブルを乗り越えて帰宅すれば、やはりというかなんというか、すでにロゼが帰宅していた。






「遅かったわね、ナイト?」


「・・・そこで愛良に会ったんだよ」


「プリンシアに?そこで・・・って、あの格好で?」


「笑いたかったら笑えばいいだろ。ついうっかり逃げ込んだところが自宅付近なんて、どうかしてら」


「ドクターたちはなんて?」


「テキトーに衣装を解いて帰るよって報告したら呆れてた」


「あらあら」


くすくすとロゼは笑ってる。俺はそれを横目で見ながら思わず溜め息が漏れた。




誰のせいで逃げ回らなきゃならなかったと思ってるんだか。




「それで?肝心のものはピエロに奪われずに済んだの?」


「今夜は俺の勝ちだ」


「あら、寝込みを襲うって手段が残っているわよ?」


「・・・・・・勘弁してくれよ・・・」


ロゼとのそんなやりとりに疲れて自室に戻ろうとしたところで、ちょうど玄関で誰かが帰宅した音が聞こえた。





「ジュニア!!」


「ジョン?早いな~マジックショーのフィナーレは?」


「やったさ!!アンコールをフケてきただけだ!!」


「おいおい・・・」




そう、今夜の怪盗カヴァリエーレにはタイムリミットがあった。だからあまり深追いされずに済んで、俺は逃げ切れたんだけど。


クリスマス・マジックショーを催すマジシャン、ジョン・ベラルディの顔を持つ彼が、怪盗として今夜現れるには無理があったのだ。


それでも隙あらば奪おうとしてきたから、強かだよな・・・。





そのジョンが、本業でもあるマジックショーをすっぽかしてまで帰ってきたのは・・・


「さっきの、どういうことか、きっちり説明しろ!!」


「さっきの・・・って?」


わざとおどけてみせれば、それがさらにジョンの勘に障ったらしい。


「コルヴォがジュニアを狙ってるってやつだよ!!」


「あ~はいはい、わかったから、静かにしろって」




玄関で騒ぎ続けるジョンは、こうして見ると俺と10以上も歳が離れているようにはとても見えない。


だけど、そこに潜む経験値はたしかにそれ以上の開きがあって、越えられない壁みたいなものを持っている。


・・・・・・それにしても、こんなにぎゃぁぎゃぁ騒いでいるマジシャンが、あの闇夜に静かに佇む燕尾服の怪盗と同一人物ってのも・・・・・・ノワールとロゼ並みに詐欺だよな・・・。





俺も、こうしてふたりのように気配を変えていくのだろうか。光と闇の中で生き抜くために。




「お~い、トリップしてないで、早く話を聞かせろ~」


「え?あ、あぁ、わかったわかった」


苦笑しながら、ジョンと共に自室に向かう。





今頃宗次と里奈は<仕事>を終えて、残り少ないクリスマスを堪能しているだろうから、今夜の獲物の<解読>は明日になるだろう。



・・・これからジョンに根掘り葉掘り聞かれた上に、こってりと叱られるんだろうな。


ロゼと暮らし始めた頃に、実たちに絞られたように・・・・・・。



あ~あ、どうやら怪盗の前には、サンタクロースは現れないらしい・・・・・・。






こちらは災難和馬くんのクリスマス。

夜叉と愛良の遭遇の裏側です。

ニセモノの宝石は、いらないから愛良にあげちゃえ~なんていう、単純な理由でした(笑)

まさかその単純な理由のせいで、愛良と木下警部が出会っちゃって、ましてやそのニセモノの宝石が愛良のもとにもどってくるなんて、和馬は思っていなかったのでしょうね~。

そして、ジョンにそういえば、ノワールに狙われている夜叉の話をしなかったことに気付き、加えたための1話。

普通に考えて、殺し屋と一緒に暮らしてる和馬は変だけど、ましてやその殺し屋が自分を狙っているんだから、やっぱり変な構図・・・。

ジョンが頭を抱えたくなったのもわかりますね。


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