21、予想外のクリスマス <Side 愛良>
もうすぐクリスマス。恋人たちの一大イベント!!
な・の・に!!
このシーズンの受験生には当然そんなものは関係なくて。すでに受験日まで残り2ヶ月を切った今、イベントに時間を割く余裕は受験生にはない・・・・・・とはいえ。
「やっぱりクリスマスパーティーはしたいよ~」
「あのなぁ、おまえは受験生だろ?」
「そぉだけど~」
和馬お兄ちゃんのもっともな指摘に、あたしはぶーたれる。
「だいたい、クリスマスも塾だろ愛良?」
「ちぇ~」
「今年は諦めて勉強してるんだな」
「今年は、ってことは、来年は一緒にクリスマスしてくれるの?!」
「まだ一緒に暮らしてたら考えといてやるよ」
「ほんとに?!絶対だよ?!」
「一年後に一緒に暮らしてたら、だからな」
「うん!!」
和馬お兄ちゃんは呆れたように言うけど、あたしは強く強く決心していた。
ぜ~ったい、一年後も二年後も、ず~っとここで暮らすんだって!!
だって、あたしは和馬お兄ちゃんの恋人だもん。
21、予想外のクリスマス?! <Side 愛良>
そんなこんなで、受験日までのカウントダウンが着々と進んでいくなかで、とうとうクリスマスになった。
町中がイルミネーションを飾って浮かれて、クリスマスソングが溢れてる。
いいな~うらやましい・・・・・・。
あたしだって、大好きな恋人とクリスマスを過ごしたかったのにぃ!!
「・・・朝からぶすくれた顔をするなよ、愛良」
「あらあら、どうかしたのかしら、プリンシア?ナイトにいじめられたの?」
「・・・なんでもかんでも俺のせいにするなよ?」
朝から不貞腐れて朝食を食べるあたしに話しかけた和馬お兄ちゃんに、ロゼが流し目で問い掛ける。それにお兄ちゃんがジト目で言い返していると、リビングにジョンが現れた。
「おはよう、ジョン」
「おんや?こんな時間までゆっくりしてていいのか、アイラ?学校はどうした?」
「学校は冬休みだよ」
「ふ~ん。じゃぁ、今夜のオレのクリスマスショーを見に来るか?」
「う゛~、行きたいけど、行けないんだよ~」
「プリンシアは大事な時期なのよ、ピエロ。浮かれた無神経なことを言わないでちょうだい」
「な~んだと~?!」
ロゼとジョンは、あんまり仲がよくないのか、顔を合わせればこんな調子でお互い喧嘩してばっかり。
和馬お兄ちゃんとロゼも、すごく仲良しってわけでもないけど、こんな刺々しい雰囲気なんかじゃないのに・・・・・・。
なんでふたりは仲が悪いのかなぁ。
「俺もパス。やることあるし」
「・・・へぇ?」
「ジョンはマジシャンの仕事だろ?がんばれよ?」
「・・・クリスマスのショーは絶対休めないんだよな・・・・・・」
「せいぜいステキなショータイムを演出してください、マジシャンさん?」
くすくす笑いながら、和馬お兄ちゃんがからかうようにジョンに言う。言われたジョンは、ふざけるように軽くお兄ちゃんを殴るふりをした。
和馬お兄ちゃんとジョンは仲がいいみたい。
まるで宗次お兄さんとふざけるみたいに、和馬お兄ちゃんとジョンはよくふざけあって小突きあったり笑い合ったりしてる。
和馬お兄ちゃんもすっかりジョンには気を許してる感じがするし。やっぱり、お兄ちゃんのママをジョンが知っていたことも関係しているのかな。
それに、和馬お兄ちゃんのジョンに対する態度は、宗次お兄さんとそうするみたいにふざけているだけじゃなくて、敬っているように見えるときもある。
たしかに、ロゼは<お母さん>って感じだし、ジョンは<お兄ちゃん>って感じだもんね。
和馬お兄ちゃんが頼りにしているのもわかるな~。
それで、あたしと和馬お兄ちゃんが恋人同士で、賑やかな大家族のできあがりね!!
「どうした、愛良?ぼ~っとこっちを見て?」
和馬お兄ちゃんたち3人を観察していたあたしに、その和馬お兄ちゃんが不思議そうに問い掛けてきた。じぃっと見つめられてどきどきしちゃったけど、あたしは慌てて首を横に振った。
「ううん、なんでもないよ!!」
「そうか?だったらそろそろ急いだ方がいいんじゃないか?」
「え?」
言われて時計を見て、あたしは今度は違う意味で慌てた。
「大変!!塾の用意しなきゃ!!」
塾は今日から冬期講習に突入する。文字通り朝から晩までみっちりお勉強。
あ~あ、早く受験なんて終わっちゃえ、とも思うし、今の成績のままじゃ不安だから、受験日なんてまだ来なきゃいいのに、とも思う。
とにかく、そんな冬期講習は学校の始業よりも遅いからのんびりできるけど、塾が電車に乗った先にあるから、あんまりゆっくりもしてられない。
慌ただしく朝食をかきこんで、あたしは受験生として家を出る。
「じゃぁ、いってきま~す」
「お~しっかり勉強しろよ~」
「気をつけて行ってきてね」
「帰ったらアイラのためのマジックショーをやってやるからな~」
和馬お兄ちゃん、ロゼ、ジョンが口々にそう言ってあたしを送り出してくれた。
変な感じ。
だって、あたしたちはみんな別々の場所で育って暮らしていたのに、こうしてみんなで仲良く暮らしてるんだもんね。
ひたすら一日中拘束されて勉強して、やっと塾から解放された帰り道。あたしとしずちゃんはお互いにぐったりしながら歩いていた。
「やっぱり気合入ってるよね~、冬期講習」
「ほんとに。もうすぐ受験なんだなぁって思うよね」
そして、同時に漏れるため息。この時期になると、塾の先生たちも殺気立ってて怖い・・・。
それぞれの志望校に沿った過去問対策用の授業もある。
あたしもしずちゃんも同じ学校が志望校だから、苦手科目の強化授業以外は、ほとんど一緒だった。
「ふたりとも、同じ学校に行けるといいね」
「うん、がんばろうね!!」
しずちゃんが笑いながらそう言ってくれたから、あたしも拳を握りながらしっかりと頷いた。
中学校も、しずちゃんと一緒にいられたらいいな。あたしたち、小さい頃からずっと一緒の大親友だもん!!
「じゃぁね、愛良ちゃん。メリークリスマス!!」
「メリークリスマス、しずちゃん!!」
分かれ道で手を振って、あたしたちはそれぞれの帰路につく。
今夜は、和馬お兄ちゃんたちみんな用事があってお迎えができないって言われた。
・・・・・・ちぇ~、みんななんだかんだでクリスマスを楽しんでるんだよね。あ、ジョンはお仕事か。
・・・そういえば、なんで和馬お兄ちゃんはクリスマスなのに予定があるのかしら・・・・・・。
恋人であるあたしは、こうして塾に行っていて留守なのに、あたしを置いてなにをしてるっていうの・・・・・・?
ふつふつと沸き上がってきた疑問に首をかしげていると・・・突然前方からバサッと何かが落ちるような音が聞こえた。
街灯くらいしか明かりのない、住宅街の暗がりの中で、黒い塊のようなものが落ちてきたようにしか、あたしには見えなかった。
ど、どうしよ、何が起こったのかな・・・。
あんな大きな塊が落ちてきた割には軽い音だった気がするけど・・・・・・。
どきどきしながら前方を目を凝らして見てみる。だけど、やっぱり黒い塊しか見えなくて、あたしは恐る恐るその塊に近付いていった。
・・・別にわざわざ確かめなくてもよかったんだけど、思わず好奇心がうずいて確かめたくなっちゃった。
どんどん近づいていくと、その塊がびくっと動いた。そしてもぞもぞと動いたその塊を見ていたあたしは、声をあげそうになって飲み込んだ。
だって、その黒い塊だと思っていたのは・・・・・・
「怪盗・・・・・・夜叉・・・」
白いマスクがこちらに振り向く。
「まさか・・・」
怪盗夜叉の口がそう呟くのをあたしはちゃんと確認した。あたしは思わず辺りに誰もいないのを確認しながら、夜叉に近づいた。
「夜叉、なんでここに・・・」
今夜、夜叉の予告あったかな?最近、受験カウントダウンが始まってから、あんまり夜叉の中継やニュースが見られなくなってるからなぁ。
すると、それまで地面に膝をついていた夜叉がすっと立ち上がった。
「驚かせてしまい、申し訳ありません、お嬢さん。少しこちらで羽を休めていただけですので」
「また・・・悪い奴等に追いかけられてるの・・・?」
「追いかけっこは得意なのですよ」
怪盗夜叉は人差し指を唇にあててくすりと笑う。
「でも、危ないんじゃ・・・」
「ご心配には及びません。それよりもこんな時間までおひとりで歩かれているお嬢さんの方が危ないですよ」
そう言いながら、ふわり、とどこかの家の塀の上に飛び乗る夜叉。何かを確認するかのように空を見上げてから、あたしを見下ろした。
「今宵は聖夜。わたしも彼の方の真似でもして、あなたにプレゼントいたしましょう」
そう言って、夜叉があたしに何かキラキラ光るものを投げてくる。慌ててあたしはそれを受け止めて・・・・・・ぎょっとした。
「これ、宝石?!」
「申し訳ありませんが、それはただのイミテーションですが」
イミテーション・・・・・・え~っと、つまり・・・
「ニセモノってこと?」
「そうです。本物の輝きは、いつか将来、あなたの愛しい方からいただいてくださいね」
「うん、わかった、和馬お兄ちゃんにもらう!!」
あたしが夜叉の言葉に即答したら、なぜか夜叉はしばらく固まってから再度言った。
「・・・・・・いつか将来、あなたの愛しい方からいただいてください・・・ね?」
まるで言い含めるかのように同じことを繰り返して言った夜叉。
だから、それがあたしにとっては和馬お兄ちゃんなんだってば。
「それでは、メリークリスマス、お嬢さん」
それだけ言い残して、夜叉はワイヤーみたいなのを伸ばしてどこかに行ってしまった。あたしの手に、ニセモノの宝石を残して。
まるで本物のようにキラキラと輝く宝石のネックレス。あたしみたいな子供が身に付けると、まるでおもちゃみたいに見えるんだろうなぁ。
これの本物は怪盗夜叉が持ってるのかな。
・・・このニセモノの宝石って、やっぱり警察に届けるべき?なんて考えていたら、近くで複数のパトカーのサイレンが近づいてきて、そばの大通りで止まる音がした。
バタバタと慌ただしい複数の足音がこちらに向かってきて・・・・・・
「観念しろ、怪盗夜叉!!・・・ってあれ、子供?!」
角からばっと警察らしきおじさんが現れたかと思ったら、あたししかこの通りにいないのを見て、目を丸くした。
「バカな・・・・・・発信器はここを指しているんだよな?!」
「は、はい、警部」
おじさんのそばにいた若い警官さんが、何か機械をいじりながら必死に頷く。
発信器・・・・・・ってもしかして、この・・・?
「もしかして、このニセモノの宝石に発信器が付いてたの?!」
「ニセモノって・・・お嬢ちゃん、これがニセモノの宝石ってわかるのかい?」
「だって夜叉がそう言ってたもん」
「怪盗夜叉に会ったのか?!」
警部って呼ばれてたおじさんの問いに答えたら、すごい剣幕で詰め寄られてしまった。あたしはそれに驚きながらも、ちゃんと嘘をつかずに答えた。
警察に嘘ついちゃだめかなって思ったし。
「うん。これ、クリスマスプレゼントってあたしにくれたんだけど・・・。夜叉はもうどっかに行っちゃったよ?」
「くっそ~・・・・・・また逃げられた・・・。お嬢ちゃん、悪いけど、そのニセモノの宝石、夜叉が触ったものなら参考物件としてこちらに渡してほしいんだけど?」
「え~?でも、これはニセモノだし、しかも警察が用意したんでしょ~?せっかくあたしが夜叉にもらったのに没収なんてやだ~」
ぎゅっと隠すように、ニセモノの宝石を握り直すあたし。それを見て、警部さんがため息混じりに言った。
「参考物件として調べさせてもらって、それからお嬢ちゃんが少し話を聞かせてくれたら、捜査協力のお礼として、調べ終えたそのニセモノをあげるけど?どうする?」
「ですが、警部・・・!!」
「いーからいーから。どうせ、上はこれくらいのことじゃ何も言わないさ。もちろん、お嬢ちゃんもこのニセモノのこと、今夜怪盗夜叉に会ったことを秘密にする約束はしてもらうけど。どうする?この条件を飲んでくれたら、それをあげるよ?」
にやって笑う警部さん。
もちろん、あたしに断る理由なんか、ないもん。
「わかった、捜査協力します!!」
「よし、じゃぁ、少し署の方に来てもらっていいかな。ご家族にも連絡しないとね」
「あ、遅くなるってメールするから平気です」
「そうかい?いやぁ、便利な世の中になったもんだなぁ」
はっはっはっ、って笑いながら歩き始めた警部さんに、あたしは問いかけてみた。
「あの、警部さんのお名前はなんて言うんですか?」
「おっと、名乗ってなかったな。俺は木下 明生って言うんだ」
「へぇ、木下警部さん。あたしは、柳井 愛良」
「愛良ちゃんか。じゃぁ、愛良ちゃん、行こうか」
簡単な事情聴取みたいなのを受けて、パトカーで和馬お兄ちゃんの家まで送ってもらうと、すでにみんな帰宅していた。
でも、なぜか和馬お兄ちゃんとジョンが喧嘩したみたいに険悪な雰囲気で。ロゼがニヤニヤとそれを見守ってた。
ロゼとジョンが険悪な雰囲気になるのはいつものことだけど、ジョンと和馬お兄ちゃんが喧嘩なんて珍しい・・・・・・。
そのまま何やら怒って部屋に籠っちゃったジョンは、約束したクリスマスショーのことは忘れちゃってるみたいだった。それか、そんな気分じゃないのかも。
何があったのかロゼも和馬お兄ちゃんも何にも話してくれないから、あたしにはなにがなんだかわからなかった。
でも、あたしも今夜は内緒の体験をしちゃったから、おあいこかな。
怪盗夜叉にクリスマスプレゼントをもらうなんて、すごい体験かも!!
あの木下警部って人も必ず返してくれるって言ってたから、あたしはあの警部さんを信じて待つことにした。
なんだか、今年は珍しいクリスマスの夜を過ごしちゃった!!
色々詰め込んでおいてなんですが、これは2年目への伏線です(笑)
木下警部も、2年目でがんばってもらいましょう。
・・・木下警部・・・・・・この名前に聞き覚えがあると思った方は、素晴らしい記憶力です・・・!!!
で、一応クリスマスだし、夜叉と愛良の一瞬の対面も。
愛良はまだ受験生なので、クリスマスらしいクリスマスは今年はできないですね~。ちょっとさみしい・・・・・・。




