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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
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19、留守中の出来事 <Side 和馬>(後編)










「急で悪いんだけど、水曜に<仕事>できるか?」


宗次からそんな提案があったのは、月曜日。


少し焦った様子でそう確認してきた宗次に、俺はきょとん、と返した。


「水曜って・・・明後日か?俺は平気だけど・・・・・・どうした?」


「いや、ちょっと見過ごしてたんだよ。昨日気付いたときは焦った、焦った~」


俺の隣の席に座って、彼はふぅ、と息をつく。




まだ講義が始まっていない教室内は、それぞれがみんなおしゃべりに夢中で、騒がしい。


だからこそ、俺たちは堂々と<仕事>の話ができるんだけど。


「<シリーズ>の可能性がありってことか?」


「そーゆーこと。あとは実の予定次第だな」


「・・・・・・実は予定大丈夫だってよ。メールの返信来た」


即座に送られてきた実の返答を伝えると、やはり宗次は不思議そうに首を傾げた。



「なぁ、最近、実のやつ、大学に行ってるのか?」


「わからない・・・・・・。急に、<仕事>に積極的になったんだよな・・・・・・」


別に今までも積極的でなかったわけではないが、大学の勉強を優先していた実。だから、<仕事>に参加できないこともあった。


そういえば最近、実から大学の話を聞かない気がする・・・・・・。


一体、なにがあったんだ・・・?



「とりあえず、水曜の<仕事>は決定でいいよな?」


宗次の確認の問い掛けに、俺は実のことを考えながら頷いた。










19、留守中の出来事Ж      <Side 和馬>(後編)










その夜は、何かが起こりそうな、予感とも言えない直感のようなものが漠然とあった。



犯行直前に予告状を出したにも関わらず、しっかりと集まってくれた警察諸君とマスコミ。


その見事なまでの仕事への意欲に、いっそ感心しながら、俺も怪盗夜叉としての<仕事>をこなす。




今回の獲物は、<失われた誕生石>のひとつだと<ビール>は言っている。だからこそ、懸命に怪盗夜叉を追い回してくれる警察やマスコミの努力もむなしく、俺は目的の獲物を易々と手中に収めた。


「それではみなさま、ごきげんよう」


怪盗夜叉として、俺は嫌味なくらいに丁重に腰を折って、そう告げた。






ここは美術館というよりは、小さな美術展の会場スペース。


怪盗夜叉が狙う宝石ケースにだけ付け焼き刃な鍵が仕掛けられていたが、そんなのはちょろい、ちょろい。


あっさりとケースから獲物を奪い、いつものご挨拶が合図。



照明がふっと落ちて、加えてあちこちで爆竹が破裂。暗闇の中でいきなりの爆音に右往左往する警察やマスコミを尻目に、俺はさっさと逃走してしまう。


本日もお疲れさまでした、と心の中で労って。









<組織>の連中につけられているのを覚悟して、俺は怪盗の姿のまま近くの小さな公園で一休みした。


今のところ、あたりに不穏な気配は感じられないが、うまく今回も<組織>の連中と接触できれば、なにか情報が得られるかも。そんな期待も含めて・・・・・・。




「まったく。君は子供かね?今、日本を騒がしている怪盗と聞いて来てみたら・・・・・・がっかりだよ」






気配は全く感じなかったのに、突然聞こえてきた声に、俺は慌てて周囲を見渡した。


「君の前任の怪盗のほうが、さぞや華麗に盗み出していたに違いない」


「どういう・・・・・・ことですか・・・?!」


思いもしなかった言葉に、なんとか夜叉としての口調を保ちながらも動揺を隠しきれない。




前任の怪盗。


姿の見えない相手はそう言った。


知っているのか・・・・・・?俺たちのことを・・・・・・怪盗夜叉がなぜ現れたのかを・・・・・・。






「まだまだひよっこな君が盗み出した獲物は、果たして本物なのかな?!」


「・・・え?!」


問われて、俺はすぐに懐から今夜の獲物を取り出す。


宝石が本物かどうか、素人よりは判別できるくらいの目利きはできていると思っていたけど・・・・・・。


本物かどうか確かめようと月に翳そうとしたそのとき、獲物を握っていた右手にビリリとした痛みが走る。


「・・・・・・っっ!!」



それは、黒い鞭。


あまりの痛みに思わず獲物を手放してしまった途端、すかさずその鞭が再び飛んできて、巧みに今夜の獲物を奪っていった。


あまりの出来事に声も出ないでいる俺に、先程の声が降ってきた。




「やれやれ、君はバカかい?怪盗のくせにそんな素直でどうする?」


「・・・・・・ご忠告・・・恐れ入ります」


奥歯を噛み締めながらも、なんとか俺はそう言う。すると、ちょうど月を背にして立っていた木から、誰かが飛び降りてきた。


あそこにいたのか?!気配、感じなかったぞ?!





「気配を消すのは得意なんだ。もっとも、それくらいできなくては怪盗とは言えないけど」


月を背にした男が静かに俺に告げる。逆光で顔は見えないが、深夜の公園には似合わない、というか、日本にはまったくもって不自然な格好である、燕尾服を着ているのがわかる。そして頭の上には黒いシルクハット。


・・・・・・燕尾服なんて、初めて見た。





「君は前任の怪盗から何を習ったのかな?君よりも、前任の怪盗が集めるべきではないかい?<失われた誕生石>を」





身体中に走る電撃。


これは、直感だ。目の前のコイツは、<組織>の人間じゃない。


だけど、コイツは<失われた誕生石>のことを知っている。


そして、日本にいた、もうひとりの怪盗のことも・・・・・・。





「怪盗夜叉、だったっけ?もしもワタシと話をしたかったらここにおいで。もちろん、その無駄に仰々しい衣装を脱いで、ね」


ピッと小さな紙切れがこちらに飛んでくる。その瞬間、少し立ち位置が変わったことにより、謎の燕尾服の男の顔を見ることができた。


だが、それは予想もしていなかった顔。




怪盗夜叉のように仮面を被っているわけではなく、真っ白に塗りたくられた素顔。


両目それぞれを二分するように縦に引かれた黒い筋。大きく描かれた笑む口端。


まるでそれは、ピエロ。


首から下の燕尾服とまるでマッチしていないその姿に呆気にとられながら、俺は飛ばされてきた紙切れを受けとる。




そこには、簡単な地図が描いてある。


そしてここに書いてある名前が、この謎のピエロ燕尾服男の名なのだとしたら・・・・・・。



「怪盗カヴァリエーレ・・・・・・。それがあなたの名前ですか・・・・・・?」


顔を上げ、先程まであの男がいたところへ視線を戻せば、そこにはもう人の姿はなかった・・・・・・。


「なんなんだ・・・・・・一体・・・」


『大丈夫か、夜叉?<組織>の奴等か?』


通信機越しに心配そうに声をかけてきた<ビール>の声で、はっと俺は我に返った。


「いや、違うと思う・・・・・・。あ~・・・だけど、獲物を持っていかれた・・・」


『<失われた誕生石>のことを知ってる感じだったな・・・。前任の怪盗ってまさか・・・・・・』


「<ビール>、俺、これからあいつに誘われた場所に行ってくる。<ブラック>たちに伝えておいてくれ」


『ひとりで行くのか?!危険だぞ?!』


ぎょっとしたように言い返してくる<ビール>に、俺はまだ先程の非現実的なショックから立ち直れていないまま、ぼんやりと返す。


「・・・いや、危険はおそらくないと思う・・・・・・。そういうのは、感じなかった・・・・・・。だけど、あいつのことをもう少し知りたいんだ・・・・・・」





怪盗夜叉と前任の怪盗を比べていたあいつ。


何か、俺たちが知らない何かを知っていそうな言い方で・・・・・・。





『・・・・・・わかった。あまり無茶するなよ』


「わかってる」


風が吹く。


怪盗夜叉の黒マントが大きく靡く。




無駄に仰々しい衣装・・・ね・・・。


一応、色々な効果を計算されて作られた衣装なんだけどな。


先程、鞭で打たれた右手の黒手袋が破れているのを見る。


ピエロの顔、燕尾服、シルクハット、黒い鞭。


すべてがちぐはぐな謎の男・・・・・・怪盗カヴァリエーレと話をするために、俺は衣装を解いて、示された地図のもとに向かった・・・・・・。







「・・・ここって・・・」


地図の先にあったのは大きなイベントホール。つい最近、俺はこの会場を訪れている。


ミスター・ベラルディというマジシャンのマジックショーを見るために。



怪盗夜叉の衣装を解いて、瀬戸 和馬の姿で、俺はそこに立ち尽くしてしまう。


正体をばらすかのように素顔でここに来ることに抵抗がないわけじゃなかったが、なぜか、そうしなければならない気がした。


そうしなければ、あの怪盗カヴァリエーレと名乗る男と、対等にすべてを話すことができないような・・・・・・。




「ミスター・ベラルディのマジックショーは、本日は休演しておりますが?」


突然、会場の係員みたいな男にそう言われ、俺は曖昧な笑みを返した。


「そうですよね・・・」


そうか、今夜はマジックショーは休演か。だから人通りが少ないんだな。


それにしたって、夜の9時過ぎにこんなところでうろうろしていたら、不審だよな・・・。



「あ、そのチケット・・・」


ふと、係員の男が、俺が握りしめる紙切れに目をやって呟く。


チケット?あぁこの紙切れか・・・・・・たしかにチケットに見えなくもないけど・・・。





「失礼しました。お待ちしておりました、こちらからどうぞ」


「え・・・?」


急に係員は態度を変えて、休演の札がぶらさがった扉の向こうへ招き入れる。


「そちらのチケットをお持ちの方を会場内にお招きするよう、仰せつかっております。お連れの方はもういらしてますよ」


・・・連れ?


・・・って、怪盗カヴァリエーレのことか・・・・・・?





俺は案内された会場の中に足を踏み入れた。


日曜日にマジックショーを見たその会場内は、人気がないために寂しいくらいがらんとしていた。


しかし、舞台の上には照明に照らされたふたりの人影。そのうちの一人は、ここにいるはずのない、ありえない人物だった。



「・・・愛良?!」


なんで、こんなところに愛良がいるんだ?!


神出鬼没にもほどがあるぞ?!


「和馬お兄ちゃん?!」


どうやら愛良も驚いているようだけど・・・・・・もうひとり、愛良の横にいるのは・・・・・・。



「あのときの・・・マジシャン・・・・・・?」




ミスター・ベラルディ。


彼がなぜ、愛良と共にここにいる・・・?


ここへ俺を呼んだのは、怪盗カヴァリエ―レのはず・・・・・・。


・・・・・・まさか・・・・・・!!!




「愛良、そいつから離れろ!!」




俺が鋭く叫べば、愛良が戸惑ったようにミスター・ベラルディと俺を見比べてる。


だけど、そいつの正体は・・・・・・もしかしたら・・・・・・。




「“へぇ~?さすがにオレが怪盗カヴァリエーレかも、くらいの推測はできる?”」



彼が紡いだ言葉は、イタリア語。


カヴァリエーレ・・・・・・これもまた、イタリア語。意味は、<騎士>。




「“そこらへんの小学生だって、これくらいはわかると思うけど?”」


俺はゆっくりと舞台に向かって歩みながら、イタリア語で返す。


「“でもね、それでは君が怪盗夜叉だってことを認めることにもなるよ?君は今、正体をさらしていることはわかっているのかい?”」


「“お互い様だろう?それで?俺をここに呼んで何を話したかったんだ?愛良まで誘いこんで、どういうつもりだ?”」


「“あぁ、これは計算外なんだ。君と一緒に暮らしているこの子なら、<失われた誕生石>のことを色々知っているんじゃないかと思ってたんだけど”」


ミスター・ベラルディ・・・・・・いや、怪盗カヴァリエ―レは、ひょい、と肩をすくめる。イタズラが見つかった子供のような軽い仕草で。




「“愛良はなにも知らない。関係ない”」


「“そうみたいだね。でもね、ここに来たのは、怪盗夜叉のこと、そして<Lost Birthday>のことを知りたかったからみたいだよ?”」


「“・・・なに・・・・・・?”」


「“君がこの子になにも話していなくても、この子は何かしら、何かを掴もうとしているようだよ”」



そうイタリア語で言いながら、彼はくすくすと笑う。


愛良が、ここにいるのは、こいつから<Lost Birthday>のことを聞き出そうとしていたからなのか・・・?



「“・・・・・・それで?あんたはどこまで知ってる?”」


「“少なくとも、君よりは情報があるんじゃないかな、怪盗夜叉。君よりは長く怪盗をやっている先輩なわけだし、<失われた誕生石>のことも、ずっとヨーロッパ全土を追いかけていたのだから”」


「“じゃぁなんで、おとなしくヨーロッパにいないで、日本に来た?”」


「“・・・・・・・・・会いに・・・・・・”」


「“・・・え?”」


「“・・・いや、なんでもない”」


一瞬陰った表情。だが、すぐに彼はにこりと不気味なほど明るい笑顔をこちらに向けてきた。




「“それよりも、君は<失われた誕生石>のことを何も知らないようだね?それなのに、ずいぶんと物騒な<組織>に追われているようだ。今夜もたまたまオレが先にあそこにいただけで、他の<お客さん>もいたんだよ?早々にお帰りいただいたけど”」


「“・・・・・・あいつらと接触するしか、情報は得られない・・・”」


「“・・・まったく、よくも前任の怪盗は君を怪盗にすることを認めたもんだね”」


呆れたようにため息をつく彼を俺は静かに見返す。ゆっくりと、気配を夜のものに変えて。




「“・・・・・・残念ですが、<お月さま>は別に、わたしを認めてくださったわけではないのです。勝手に、わたしが引き継いだだけ。・・・だから、わたしは<お月さま>の加護もないのですよ”」





ノワールに教わったポーカーフェイスで、淡々と俺は伝える。ただ、真実だけを、目の前の怪盗に。


すると、なぜか彼はひどく寂しそうに顔を歪めた。今にも、泣きだしそうに・・・・・・。




「“・・・そう・・・・・・か・・・・・・”」


「“・・・怪盗カヴァリエ―レ・・・・・・?”」


「“・・・おまえには、何も伝えなかった・・・のか・・・・・・。・・・オレと、同じだな”」


「“・・・え・・・・・・?”」



どういうことだ?


なんで、今の話の流れで、こいつと<同じ>と言われたんだ・・・・・・?


それに、なんでずっとヨーロッパで怪盗をやっていたこいつが日本に来たのか、結局教えてもらっていない・・・・・・。




俺が茫然としている間に、今度は彼は愛良に向かって、日本語でびっくり発言をしてみせた。




「よし、決めた!!オレ、瀬戸家でしばらくやっかいになることにした!!あの家でオレも暮らすからな、アイラ」


「え、えぇ?!」


「ちょ、待て!!なんでいきなりそうなるんだよ?!」


愛良は驚いていたようだが、俺だって驚く。


っていうか、なにがどうなれば、そういう展開になるんだ?!



俺と愛良がパニックになっているというのに、その問題の当人はニヤリと笑って、今度は日本語のまま俺に言ってきた。


「だって、オレがキミを見守るのは当然の義務と権利だと思わないかい?」


「な、そんなこと・・・」


「ま、人生の大先輩の忠告を聞いていれば、結構早くカタがつくかもしれないぜ、ジュニア?」


「だ、誰がジュニアだ!!」


そりゃたしかに、目の前の怪盗が<先輩>であることは認める。


だけど、ジュニアってのはなんだ?!前任の怪盗を引き継いだ、というところをからかっているんだろうけど、気に食わない!!



「はいはい、怒らない、怒らない。そんなわけで、あの家でオレも暮らすことになったからよろしくな」




な、な、なんでこうなるんだ?!


俺はこいつの名前も知らないんだぞ?!


それなのに、いつの間にか流れるに流されて、俺は怪盗カヴァリエ―レと共に、なぜか家路についていた・・・・・・。





ノワール編同様、前中後編だけでは書ききれず、次回へ続く(笑)

ジョン編は、前々からこれだけは入れたい!!って場面がいくつかあったはずなのですが・・・・・・・いざ始まると、なぜかひとつもその場面が登場しなかったというのだから、不思議・・・。

気づけば、ジョンはベラベラとよく暴露しているんですが、どうなんでしょう、コイツ。

そして、怪盗夜叉と怪盗カヴァリエーレは、別に協定を結んだわけでは全然ないので、<シリーズ>を巡って三つ巴戦の危機ですね☆

さて、ここまでで、 「最後のトレジャーハント」という番外編では怪盗カヴァリエーレが活躍し、「月明かりの幻影」という番外編ではマジシャン修行中のジョンが登場します♪

ぜひお時間あるときにお読みいただけるとうれしいです♪

そして、それを踏まえて、次回ももう少し、もめます(笑)そんなにあっさりとジョンが同居できるわけがない(笑)



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