19、留守中の出来事 <Side 愛良>(前編)
それは本当に突然、和馬お兄ちゃんが言い出したことから、すべての騒動が始まった。
その日、学校から帰ると、ちょうどお兄ちゃんが部屋から出てきてあたしに言った。
「愛良、俺、旅に出るから、ロゼと留守番しててくれ」
「え、えぇ?!」
「もしかしたらロゼのやつも<仕事>にでかけるかもしれないから・・・・・・宗次と里奈がこっちに来るから」
「え、ちょ、いきなり・・・」
「ロゼはまだ帰ってきてないけど、伝えておいてくれ!!じゃぁな!!」
「か、和馬お兄ちゃん?!」
ばたばたと慌ただしく一方的に言うだけ言って、和馬お兄ちゃんは家を飛び出しちゃった。
な、なんなの?!
旅に出るってなに?!いつまでなの?!
宗次お兄さんと里奈お姉さんが泊まりに来るの?!
いきなりこんな展開ってなに?!
聞いてないよ~!!
19、留守中の出来事Ж <Side 愛良>(前編)
「それで、ナイトはここにいないのね」
くすくす笑いながら、ロゼは食後のデザートを食べてる。・・・ちなみに、五皿目。
「いきなりだと思わない?ひどいよね~!!」
「たしかに、意外に早かったわね」
「て、おまえ、まだ食うのかよ、ロゼ」
五皿目のデザートも食べ終わっておかわりを用意しだしたロゼに、宗次お兄さんが驚きと呆れも含んだ声でそう言った。
「あら、まだまだ食べれるわよ?」
「おまえ、燃費悪いわけ?」
「食べれるときに食べておく習慣があるだけよ?日本はスイーツも食材も安心でおいしいし?」
「・・・・・・へぇ・・・」
感心しながらも視線を泳がせる宗次お兄さん。横では里奈お姉さんがくすくす笑ってる。
和馬お兄ちゃんが不在の間、ロゼがお仕事でいなくなっちゃってもいいように、宗次お兄さんと里奈お姉さんがお泊まりに来てくれてる。
いきなりいなくなっちゃった和馬お兄ちゃんにまだまだ怒りが鎮まらないあたしは、里奈お姉さんを見上げながら聞いてみた。
「里奈お姉さんたちは、和馬お兄ちゃんがどこに行ったか知ってるの?」
「和馬はなんて言って出て行ったの?」
「『旅に出る』とだけ」
「んでも、ちゃんと愛良に伝えてから出ていったんだろ?無断外泊じゃないから許してやれよ」
モゴモゴとデザートを食べながら宗次お兄さんがそう言う。ふと思いついて、あたしは里奈お姉さんに聞いてみた。
「ねぇねぇ、宗次お兄さんって無断外泊する?」
「するわよ、しょっちゅう」
あっさりと衝撃的な答えが返ってきて、あたしが宗次お兄さんを非難する前に、宗次お兄さんが口を尖らせた。
「な~んか語弊がありそうだぜ~その言い方」
「あら、事実じゃなかった?」
「・・・・・・事実ですけど」
「宗次お兄さん、浮気とか・・・する?」
「私の知る限り、それはないわね~」
「してません、ありません」
冷ややかに答える里奈お姉さんとは対照的に、宗次お兄さんはブンブンと音が聞こえそうな勢いで首を横に振っている。
でも、ロゼの一言で固まった。
「でも、トリックは時々オンナノコが集まるコンパには行ってるわよねぇ?」
「な、なんで知って・・・・・・」
「ふふ、秘密」
「そういえば、確かにいっっっつも合コンには顔を出すわね」
「り、里奈チャン、これは頭数のために仕方ないというか、場を盛り上げるためには俺が不可欠というか・・・」
「へぇ~・・・」
焦る宗次お兄さんと冷ややかな態度の里奈お姉さん。
・・・・・・なんだかよく聞く、大人の喧嘩特有の冷戦ってやつみたい?
・・・・・・それにしても。
「宗次お兄さんってばひどい~!!里奈お姉さんっていう恋人がいながら、浮気するなんて!!」
「浮気なんかしてないだろ~。ちょっと遊び歩いてるだけじゃないか」
「・・・ちょっと、ね」
「・・・・・・大分、です。ゴメンナサイ」
「トリックはルナールには頭が上がらないわね」
ロゼが楽しそうにくすくす笑いながら、デザートのおかわりを口に運ぶ。ちなみに、八皿目。
「里奈お姉さんと宗次お兄さんって、どっちが告白したの?」
前々からず~っと聞きたかったことをあたしはとうとうふたりに尋ねてみる。
和馬お兄ちゃん曰く、ふたりは高校時代から付き合ってるらしいし。
あたしの予想では、やっぱり宗次お兄さんが里奈お姉さんに告白したんじゃないかなって思ってるんだけど!!
「へぇ~俺たちの馴れ初めが気になるって?仕方ないな~特別に教えてやろう」
ニヤニヤ笑いながら、宗次お兄さんがあたしに言う。
「俺に熱烈な告白をしてきたのは、里奈の方だぜ?あの頃、俺は里奈のことなんか知らなかったし」
「隣のクラスだったからね」
「え~?!里奈お姉さんが告白したの?!ほんとに?!」
「なんでそんなに驚くんだよ、愛良。失礼なやつだな」
「だってぇ~」
「そもそも、最初は里奈のソレも断ったくらいだぜ?でも、ま、色々里奈にアプローチされちゃって、愛に負けたってやつだな」
「なんだか妙な省略をしないでくれる、宗次?」
「だったらこまか~く説明するか?ここで?」
「・・・・・・結構です」
ちょっと顔を赤くした里奈お姉さんが、お皿を持ってキッチンに行っちゃった。
ほぇ~意外なふたりの馴れ初めを聞いちゃった~。
でも、こうしてふたりは今もラブラブだから、やっぱり理想のカップルだよね!!
「ここにいる間は、トリックとルナールは同じ部屋に泊まるのかしら?」
夕飯も終えて、ソファーでくつろぐ宗次お兄さんに、ロゼがふと尋ねる。
空き室だった和馬お兄ちゃんの家の二階。今は、あたしとロゼが使っているから、空き部屋はひとつ。宗次お兄さんと里奈お姉さんは恋人だし、同じ部屋になるのも納得はできるけど・・・。
「おぅ、当然・・・・・・」
「違うわよ。・・・・・・愛良ちゃん、私も愛良ちゃんと同じ部屋で寝かせてもらってもいいかしら?」
「里奈~・・・」
「ほんと?!やったぁ、うれしい!!」
がっくりと項垂れている宗次お兄さんには悪いけど、あたしは里奈お姉さんと一緒のお部屋に寝れるのが嬉しくて、思わず喜んでしまった。
和馬お兄ちゃんが旅に出ちゃって、宗次お兄さんと里奈お姉さんと一緒に過ごす2日目。
朝から開口一番にロゼがびっくり発言をした。
「ナイトが帰ってくるのを待つつもりだったのだけど、急なお仕事が入っちゃって、2週間くらいフランスに行ってくるわ」
それにびっくりしたのはさすがにあたしだけじゃなかった。
「仕事?!2週間もフランスで・・・・・・って、あんた、こっちでの仕事は?!」
「あら、詮索はなしよ、トリック」
ウィンクひとつで宗次お兄さんに答えて、あたしに申し訳なさそうに言った。
「ナイトもいないのにごめんね、プリンシア。なるべく早く帰ってこれるようにがんばってくるから」
「うん・・・。ロゼがいないのは寂しいけど、お仕事なら仕方ないもんね。気を付けて行ってきてね」
「ありがとう」
にっこりと笑いかけてから、今度はロゼは里奈お姉さんに言った。
「ナイトとドクターにくれぐれもよろしく伝えてね、ルナール」
「一応、そのまま伝えておくわ」
「それで結構よ」
そしてハンドバックひとつだけで玄関に向かうロゼに、思わずあたしは呼び止めてしまった。
「ちょ、ロゼ?!荷物それだけ?!」
「2週間だけだからね、大方の荷物は送っちゃったし」
じゃぁね、と最後に言い残して、ロゼはあっさり出ていっちゃった。
突然のできごとでびっくりなのにぃ。
「・・・ふ~、ロゼがいなくていいんだか悪いんだか」
「とりあえずは、2週間はいないってことだけは確かなのが救いね」
宗次お兄さんと里奈お姉さんがそんな会話をしているのが耳に入ってくる。どういうことかと尋ねようとして、ふと時計が目に入って焦った。
「いっけない!!学校に行く用意しなくちゃ!!」
そうして1日学校を終えて帰宅しようと歩いていたら、ちょうど和馬お兄ちゃんの家の前に誰かが立っていた。
サングラスをかけた、背の高い男の人。
サングラスしててもわかる、この人、外人さんだ。
鼻が高いし、ミルクチョコレートみたいな髪も染めているようには見えない。
声をかけようか悩んでいると、先にその外人さんがあたしに気付いた。サングラスをはずして、あたしに近づいてくる。
ど、どうしよ、外国語なんてわからないけど・・・・・・。
「お嬢ちゃん、この家の子?」
あわあわと焦るあたしの心配なんか無用で、その外人さんは流暢な日本語でそう聞いてきた。
わぁ、目の色が琥珀の色だ!!
ロゼの目の色は青いから、また違う綺麗な目の色に、あたしは引き込まれる。
「お嬢ちゃん?」
「あ、うん!!正確にはこの家の子じゃないけど、ここで暮らしてるよ!!」
「そっか・・・・・・」
小さく頷いて再び和馬お兄ちゃんの家に視線を戻す外人さん。
・・・あ、もしかしてロゼの恋人とかかな?!ロゼに会いに来たのかな?
「誰かに会いに来たの?」
あたしが外人さんにそう尋ねると、彼はびっくりした様子であたしに振り向いた。そして、少し寂しそうに笑った。
「・・・うん、会いに来たんだ」
「誰に?」
「・・・ルナに。<約束>を果たしに」
「ルナ?ロゼじゃなくて?」
「ロゼ?」
あれ、あたしたちの会話、噛み合ってない?
「ルナって人はいないよ?ここにはあたしと和馬お兄ちゃんとロゼで暮らしてるから」
そのふたりが今はいないけど。
「カズマ・・・・・・」
ん?
和馬お兄ちゃんの名前をぽつりと呟く外人さん。
なんだか、今にも泣いてしまいそうなくらい悲しそうな表情を浮かべてる。
「・・・・・・嘘つき・・・・・・」
「え?」
「・・・・・・いや、なんでもないよ。そうだ!!お嬢ちゃんにこれをあげるよ」
急にぱっと明るく笑って、あたしに何かチケットみたいなのをくれた。
「これは?」
「マジックショーのチケットだよ。今度この近くでやるからおいでよ!!」
たしかに、そのチケットには『ミスター・ベラルディのマジックショー』って書いてある。
ということは、この外人さんはマジシャンなの?!
「あ、あれ?!」
チケットのお礼を言おうと思って顔を上げると、そこにはすでに外人さんの姿はなかった。
あたしの手に5枚のチケットを残して。
なんだか不思議な体験をしたような気分で、チケットを握り締めたまま、あたしは玄関の扉を開けた。すると、玄関には見知った靴が。
「お、愛良、帰って来たか」
「やっぱり、和馬お兄ちゃん!!」
和馬お兄ちゃんが部屋から顔を出して現れた。その後ろから、宗次お兄さんと里奈お姉さん、それから実お兄さんもいる。
「も~どこ行ってたの~?!」
「これこれ。お土産」
「・・・・・・京都?」
和馬お兄ちゃんに渡されたものを見れば、それは京都限定のお土産のお菓子。
・・・旅に出るって、京都に行ってたの?!
「お兄ちゃんがいきなり旅に出るっていうから、もっと長い間いないのかと思っちゃった。1日だけだったんだね~」
「あ~・・・・・・まぁ、結構早く予定が終わったからな・・・」
宗次お兄さんと里奈お姉さんに視線を配る和馬お兄ちゃん。なんか、意味深・・・。
じとーっとお兄ちゃんの動向を探るあたしの視線に気付いたのか、お兄ちゃんが話題を変えてきた。
「そういえば、ロゼがフランスに行ったんだって?」
「そうなんだよ~。今朝、いきなりそう言い残して行っちゃった」
「ふぅん、フランスねぇ・・・・・・」
そう言って、お兄ちゃんはちょっと考えるように手を顎にあてた。すると、里奈お姉さんが、あたしが握り締めてるものに気付いた。
「愛良ちゃん、手に持ってるの、なに?」
「これ?なんかね、さっき家の前に知らない外人さんがいて、くれたよ」
「マジックショーのチケット?」
「へぇ、おもしろそうじゃん」
実お兄さんと宗次お兄さんもそのチケットを見てそんなことを言う。
「ちょうど5枚あるし、今度の日曜に行ってみるか?」
和馬お兄ちゃんからそんな提案まであったら、あたしとしたら断る理由なんてない!!
「うん、行きたい!!」
「しょ~がない、おとなしくお留守番してたご褒美につきあってやるか」
ニッと笑いながら和馬お兄ちゃんはあたしにそう言った。
和馬お兄ちゃんが突然の旅行から帰ってきたことと、みんなでマジックショーに行けることがうれしくて、あたしは和馬お兄ちゃんに言い忘れてしまった。
その外人さんが<ルナ>って人を探していた、ということを。
なんてことでしょう!!全然進んでない!(笑)
ま、いいや、今回は宗次と里奈の馴れ初め話をちょっと加えたかっただけなので(笑)
ロゼとこのカップルが留守番というのもなかなか珍しいメンバーな気が(笑)
そして、お仕事が忙しいのか、ロゼが今度はお留守に。
フランスでもどこでも行ってくださいって感じで(笑)
外人がいなくなったかと思えばまた外人。
この謎な外人については、今後明らかになっていきます。
先走りの番外編のいくつかが、この19話を終えたころには1本になって・・・・・・いますよ~に!!(え)
さて、話としては、次回からちゃんと19話っぽく動いていくことでしょう・・・(じゃぁなんだったんだ今回・・・)




