16、重なる運命の輪 <Side 愛良>(前編)
和馬お兄ちゃんの文化祭に遊びに行った次の日、あたしは真実を確かめるためにお兄ちゃんを問い詰めた。
「・・・・・・和馬お兄ちゃん」
「ん?」
じぃっとあたしが睨むように見つめながら呼び掛けると、和馬お兄ちゃんは読んでいた新聞から顔を上げた。
「な、なんだよ、そんなに睨んで・・・・・・」
「お兄ちゃん、恋人のあたしに言うことがあるんじゃない?」
「・・・・・・恋人じゃないだろ。それに、愛良に言うことなんてなにも・・・」
「あら、ナイトはプリンシアを裏切ったことを覚えていないの?秘密はよくないわよ?」
皿洗い当番のロゼが、くすくすと笑いながらキッチンから話に参加してきた。
「裏切った?秘密って・・・・・・なにを・・・?」
ロゼの声が飛んできたキッチンとあたしを交互に見る和馬お兄ちゃんの表情が少し強張っている。
・・・・・・怪しい・・・・・・。
「あたしのこと、裏切ってないとでも言うつもりなの、お兄ちゃん?!」
「だ、だから、何の話を・・・」
「お兄ちゃんが怪盗夜叉の役をやった、舞台のことだよ!!」
「ぶ、舞台で何が・・・・・・」
「本当に里奈お姉さんにキスしたの?!」
ずいっと身を乗り出してあたしがお兄ちゃんに尋ねれば、きょとんとした表情が返ってきた。
「・・・・・・は?里奈?」
「そう!!」
あたしは真剣に頷いて答えたのに、なぜか和馬お兄ちゃんは大きなため息と共に宙を仰いだ。
「なんだ、そんなことか・・・・・・」
「『そんなこと』じゃないでしょ~?!あたしには大事なことなんだから!!」
「はいはい。おまえが心配するようなことはしてないよ。てか、するわけないだろ、宗次がいるのに」
「・・・・・・ほんとにぃ?!」
「疑うんだったら里奈に聞けばいいだろ。・・・・・・ったく、紛らわしい言い方をしやがって・・・・・・」
ぶつぶつとお兄ちゃんは何か文句を言いながら、ロゼがいるキッチンを睨み付けていた。
あたしは、そんなことよりも、和馬お兄ちゃんが里奈お姉さんとキスしたわけじゃないってわかって、心底ほっとしていた!!
だって、演技とはいえ、やっぱりいやだもん。恋人が他の人とキスするのは。
16、重なる運命の輪○ <Side 愛良>(前編)
カレンダーはすでに10月。
いよいよ受験日も迫ってきていて、塾ではカウントダウンまでするほど。さすがにあたしも勉強を重視するようになってきていて、大好きな怪盗夜叉の番組も見れていないものが多かった。
だから、夕飯の時についていたテレビのニュースで、いきなり速報が出てきたのはほんとに偶然だった。
「あ、怪盗夜叉の予告状!!」
あたしは身を乗り出してテレビを見ようとしたけど、ロゼにクスクス笑われたからおとなしく席につきなおした。
「プリンシアは最近お勉強ばかりで怪盗さんのニュースを見ていないものね?」
「そうなんだよね~。最近夜叉がいっぱい活躍してるのは知ってるけど」
「秋だから色んな美術品が外国からやってくるから、怪盗夜叉も忙しいんだろ」
テレビには見向きもしないで、淡々と和馬お兄ちゃんは言う。だけど、ニヤニヤ笑いに変わったロゼに気づくと眉を寄せた。
「・・・・・・なんだよ、ロゼ?」
「なんでもないわよ?ただ、今回の怪盗夜叉のターゲットが<どこ>で<なに>か、ナイトは知っているのかしら、と思って」
「・・・・・・さぁね。俺はよく知らない」
「ニュースを見てみたら?」
にっこりとロゼに言われて、渋々といった様子で和馬お兄ちゃんもニュースに目を向けた。
ニュースでは、怪盗夜叉が明後日に、渡辺宝石店っていう宝石屋さんが最近入手した、<紅葉>って言われているガーネットを盗みにくるって内容を報じてる。
名前の通りに紅葉のような形をしたガーネットが、ケースの中にしっかりと守られているのが画面に映し出されていた。
「渡辺宝石店に怪盗夜叉が来るってだけだろ?なにが変わってるんだ?」
和馬お兄ちゃんがロゼにそう尋ねても、ロゼは意味ありげな笑みをお兄ちゃんに返しただけだった。
それ以上は何も言おうとしないロゼに、あたしも和馬お兄ちゃんも首をかしげるしかできなかった。
そして次の日。
大学から帰ってきたお兄ちゃんは、すっごく微妙な顔をしていた。
「・・・・・・どしたの、お兄ちゃん?」
「・・・ロゼは?」
「お仕事って言ってたよ?」
「・・・・・・アイツ、あのことを知ってて・・・」
「ん?なに?」
「いや。・・・・・・そういえば」
ひとりでぶつぶつ言っていたかと思ったら、今度は突然あたしを見つめてきたお兄ちゃん。
見つめてくれるのはうれしいけど・・・・・・ここ、玄関だから早く家にあがればいいのに。
「愛良、おまえ、知ってるんだってな」
「なにを?」
「渡辺 修登ってやつ」
「修登お兄さん?うん、知ってるよ!!」
「・・・・・・そっか・・・」
そのまま立ち尽くして何やら考え始めちゃった和馬お兄ちゃん。
どうでもいいけど、いつまで玄関にいるつもりなのかなぁ。
「お兄ちゃん?話だったらリビングで・・・・・・」
「愛良、今夜は塾ないよな?」
「え・・・・・・うん・・・?」
「渡辺 修登の家が、怪盗夜叉が予告した渡辺宝石店だったんだ。渡辺に見に来るかって言われたんだけど、愛良も行くか?」
「え、え?!」
和馬お兄ちゃんの突然のお誘いの内容に、あたしは思わず動揺してしまった。
だってだって、修登お兄さんのおうちが渡辺宝石店って・・・・・・あの、怪盗夜叉が予告状を出した、あの宝石店だって言うんだもの!!
「あたしも、行っていいの?!」
「宗次も里奈も来るんだよ。渡辺が愛良も誘えって言ってたし」
「お兄ちゃんも修登お兄さんのこと、知ってたんだ?」
「まぁ・・・・・・な。で、どうするんだ?」
まだ玄関に立ったままのお兄ちゃんが再度尋ねてくる。
そんなの、決まってるじゃない?
「もちろん、行く!!」
修登お兄さんのおうちである渡辺宝石店の前まで和馬お兄ちゃんと一緒に向かうと、すでにそこには見知った人が待っていた。
「あ、修登お兄さん!!」
「愛良ちゃんと瀬戸くん。もう中で天野さんたちが待ってるよ」
「夜叉が予告した宝石<紅葉>が見れるの?!」
「もちろん。特別だけどね」
「やったぁ!!」
明日が怪盗夜叉の予告日なのにお店は今日も営業しているようで、お客さんでいっぱいだった。
その中に、里奈お姉さんと宗次お兄さんを見つけた。
「里奈お姉さん!!
「あら、愛良ちゃん。和馬と一緒に来れたのね」
「ふふん、これで都合がいいかもな」
「・・・・・・さて、どうかな」
「・・・何の話?」
里奈お姉さんの横で宗次お兄さんと和馬お兄ちゃんが何かを喋っていたけど、意味がわからなくて問い返してみた。
都合がいいって何のことだろう?
「お子様は知らなくてい~んだよ」
あたしの鼻をつまんで、宗次お兄さんが意地悪くそう言ってきた。むっとしたあたしが何かを言い返すより先に、修登お兄さんがあたしたちに呼び掛けた。
「<紅葉>はこっちだよ。一般のお客さんが入れないところに保管してるんだ」
修登お兄さんを先頭にして、お店の奥にあたしたちは進む。
あたしは修登お兄さんのそばを歩きながら、さっきの店内を思い出して話しかけた。
「お店の中、いっぱい人がいるね!!」
「怪盗夜叉が予告してくれたおかげで、野次馬の方が多いけどね。父はお客さんがたくさん入って大喜びだよ」
「へ~。でも、お店の中のお客さんは<紅葉>を見れないんだよね?」
「そうだよ。さすがにね」
「なんで、あたしたちには見せてくれるの?」
お店の奥は細い道が続いていて、ちゃんと修登お兄さんについていかないと迷ってしまいそうだった。その細い廊下にも監視カメラがいくつもついている。
「・・・・・・ふぅん。C6か・・・・・・そこそこ。4アウトってとこか?」
「いや、7アウトだな」
宗次お兄さんと和馬お兄ちゃんが何やら会話をしてるけど、意味がわからない。
聞いてみようかな、と思ったところで、修登お兄さんが口を開いた。
「この前の演劇、天野さんが台本を書いたって、愛良ちゃんは知ってた?」
「あ、うん、それは知ってたよ?」
「だからね、天野さんは怪盗夜叉に興味があるんじゃないかと思ってね。ちょうどその怪盗から予告状が来たから、天野さんを誘ったんだ。そしたら天野さんが、橋田くんたちも来るならってことだったから、みんなを誘ったんだよ」
「なるほど~。怪盗夜叉の予告状が里奈お姉さんを誘うきっかけになったんだね!!ラッキーだったね!!
「いや、偶然でもないさ。怪盗夜叉の犯行を徹底して調べてみると、彼の犯行基準がわかってきてね」
「へ~、それは興味あるわ。どんな基準なのかしら?」
あたしと修登お兄さんの会話を聞いていたのか、ちょうどいいタイミングで里奈お姉さんが尋ねてきた。
後ろをちらっと見ると、あいかわらず和馬お兄ちゃんたちはキョロキョロしながら廊下を歩いてる。
まったく~落ち着きがないんだから!!
「あ、天野さん・・・・・・!!」
突然里奈お姉さんに話しかけられた修登お兄さんはどぎまぎしていたけど、すぐに立ち直って里奈お姉さんに笑いかけた。
「やっぱり怪盗夜叉に興味ありますか?」
「そうね、興味はあるわ。教えてもらえるかしら?」
「もちろんですよ。じゃぁ、詳しくはこの部屋の中で」
そう言って、修登お兄さんはある部屋の前で立ち止まった。
「ここに、怪盗夜叉が狙ってる宝石があるの?」
あたしが修登お兄さんに尋ねれば、ゆっくりと頷き返してくれた。
「そう。ここに、怪盗夜叉が予告を出したガーネット<紅葉>が置いてあるんだよ」
そう言いながら、修登お兄さんが扉に手をかけた。
いよいよ、怪盗夜叉が狙っている宝石を特別に見せてもらえるんだ!!
しかも、修登お兄さんが見つけた、怪盗夜叉の犯行の基準っていうのも教えてもらえるかもしれないし?
あたしはどきどきしながら、その部屋に足を踏み入れた。
なんて内容のない(笑)
今回は愛良サイドがおまけなので、ネタばれしないようにするのに必死です(笑)
でも次回のほうがもう少し謎を解明できるような会話が繰り広げられているかと。
それにしても、こういうとき、大学が違う実くんだけ仲間はずれなのはかわいそうね~。