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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
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15、舞台の上でお会いしましょう <Side 和馬>(後編)










今日は大学の文化祭。


愛良たちと一緒に、里奈の演劇を鑑賞するはずが、その里奈にピンチヒッターを頼まれて、なんと、劇の中で怪盗夜叉役をやることに・・・・・・。



ばれるかもしれない危険性に、演じることを抵抗していた俺だったが、いざやり始めたら結構おもしろい!!


今頃愛良は俺が怪盗夜叉を演じているのを知って、大騒ぎしてるんだろな・・・・・・。



でも、俺も里奈との掛け合いで怪盗夜叉を演じることがおもしろくなってきたとこだ。


怪盗夜叉を誰よりも知っているのは俺自身。


・・・・・・だったら、ちょっとくらいアドリブ利かせたって、いいよな、きっと。


俺はこの場の雰囲気に乗せられて、演劇を楽しみ始めていた。






15、舞台の上でお会いしましょう☆     <Side 和馬>(後編)






今、舞台の上では里奈がルビー姫として演技している。


ルビー姫は、いかにもな悪人連中に連れ去られ、監禁中。城はルビー姫が誘拐されるわ、宝であるルビーのネックレスは怪盗に奪われるわで、大パニック中だった。


そんな城内を案じてか、それとも不運な身の上を憂いてか、ルビー姫が悲しそうにため息をついた。


彼女を取り囲むのは、彼女の財を狙う悪人たち。


そして怪盗夜叉は、その中に足音をたてることなく静かに舞い降りて登場した。


「『だ、誰だ?!』」


悪人役のひとりが俺に問いかける声がひっくり返ってる。本気で驚いたみたいだな。


まぁ、普通に考えて、あの高さから落ちてきて足音ひとつたてないってのは難しいかもな。


俺は、怪盗夜叉としての姿勢を崩さず、だけど演劇上の夜叉だからこそ、いつもとは違って、あえて地声でにやりと笑いながら答えた。


「『予告通り、ルビーをいただきに参りました』」


台本にはない台詞。


本当は一言名乗って、悪人連中と戦えばよかった。でも、仮にも演劇部員でこうして舞台の上に立っているなら、アドリブくらいできるだろう?



「『な、なに・・・?!予告など受けていない!!さっさとこの場を去らないと・・・・・・!!』」


懐に手を忍ばせて、少し焦りながら悪人役は俺のアドリブに合わせてくる。


よし、上出来上出来!!


では・・・・・・


「『おやおや、予告を受けていらっしゃらないとおっしゃる?そんなことはありませんよ、わたしはこうして予告状をあなたがたのもとに届けていますよ』」


悪人たちが懐から銃を取り出し、怪盗夜叉に向けても、淡々とした口調でアドリブを進める。


怪盗夜叉に予告状は必要不可欠だしな。


そして俺は、庇うように後ろに控えていたルビー姫のドレスの裾に少し触れた。


ちら、とルビー姫と目を合わせれば、呆れたような里奈の顔。


逆に俺はにやりと笑い返してやった。そして、一枚の小さな紙を悪人たちに翳して見せる


何にも書いていないただの紙だけど、観客にはそれが予告状だとわかるだろう。



「『ほら、こうしてあなたがたが連れていらした姫君に予告状を持たせていたのですよ』」


「『何を馬鹿なことを・・・・・・!!・・・くそ、おい、おまえら、やってしまえ!!』」


あ、台本の軌道に戻した。


彼が号令をかけると、一斉に悪人連中は怪盗夜叉に向けていた拳銃を発砲する。


当たり前だけど本物よりも軽い発砲音と、まったく感じない殺気に、俺は楽しさにうずうずしてくる。


とりあえず、マントをルビー姫に被せながら物陰に移動し、ルビー姫をそこに残した。


その瞬間、里奈の口が「ほどほどにね」と呆れたように忠告してきたのが読唇術でわかった。


・・・・・・はいはい、ほどほどにはしときますよ。


俺はさっと飛び出て、軽い身のこなしで次々と悪人を倒していく。そして、台本通りなら残さず全員倒すところを、残された最後のひとりの拳銃を奪ってから、逆にその拳銃を相手に頭に突きつけた。


・・・この一連の動作はノワールとの合宿で身に付けたものだ。


銃の扱い方は、嫌というほど叩き込まれた。


そして俺は、静かに威圧的な口調で問い掛けた。


「『さて、教えていただきましょうか。あなたがたが盗んだ、ルビーの在りかを』」


「『・・・・・・なにを・・・!!』」


悪人たちがルビー姫と一緒に本物のルビーのネックレスを盗んだのは、台本通り。ただし、台本では解放されたルビー姫が怪盗夜叉にその在りかを教えるんだけど。


こっちの展開のがおもしろいだろ?


「『今更とぼけないでください。あなたがたがあの城から盗んだルビーは、姫君だけではなく、彼女の大切なネックレスも盗んだのでしょう?お城にあったネックレスはダミーだというのはすぐにわかりましたよ』」


じりじりと追い詰められている悪人役は、本気で怯えているようだった。


震える声と指で、本物のルビーの在りかを話した。



それから俺はそいつを緩く縄で縛ってから、本物のルビーのネックレスを片手に、再びルビー姫の前に現れた。その手に持ったネックレスを彼女の首にかけてあげると、戸惑ったように彼女は俺を呼んだ。


「『・・・・・・怪盗夜叉・・・?』」


「『ご無事ですか、ルビー姫』」


「『え、えぇ、あなたのお陰で無事です。ありがとうございました、怪盗夜叉』」


「『それは何よりです。あなたの身になにかあったら、国民のみなが悲しみます』」


静かに怪盗夜叉はそう答える。ルビー姫は困ったように瞳を瞬かせたあと、ゆっくりと怪盗に問い掛けた。


「『・・・この宝石はよいのですか?あなたはこれが欲しくて、城に来たのでは・・・?』」


ルビーのネックレスを片手に尋ねてくるルビー姫。


思わず、俺はくすり、と笑みをもらした。


なぜなら、こんなルビー姫の台詞は存在しないから。


里奈も、ルビー姫としてアドリブを使ってきたのだ。


ふぅん?じゃぁ、俺がこの先の展開をつくるか、里奈の思い通りに進むか、アドリブ対決といこうか。



「『いいえ、わたしが盗むと予告したルビーはそれではありません』」


「『この宝石ではないのですか?ですが、この国で一番大粒の宝石は、このルビーのネックレス。他には、ルビーなんてどこにも・・・・・・』」


「『あるではありませんか、ここに』」


「『え・・・?』」


演技なのか、それとも本気で驚いたのか、ルビー姫はきょとん、とした顔でこちらを見返してくる。


そんな彼女の反応に、俺は再びくすっと笑った。


さて、どんな展開にしようかな、と互いに探り合っていると、ふたりの耳に刑事たちがかけつけてくる音が聞こえてきた。


へぇ?タイミングを見計らってたかな?


「『残念ですね。そろそろお別れです』」


「『怪盗夜叉・・・・・・。で、ですが、わたくしはまだあなたに何のお礼もしていません。何度も助けていただいたのに・・・!!』」


お。立ち去ろうとする俺に、今度はルビー姫が食いついてきた。


ってことは、さっきまでやろうとしていた展開の続きをやってもいいってことか?!



「『わたしは泥棒ですよ、姫君。わたしは欲しいと思ったものを気まぐれに盗むだけ。・・・今回も、また』」


「『だけど、あなたはなにも・・・・・・』」


「『いいえ、これから盗ませていただきます』」


そう言って、俺は静かに跪く。座りこんだままのルビー姫の髪をそっと撫でながら見つめ合い、マントを持ち上げてふたりを包むように囲い、そして・・・・・・・・・。






舞台の幕が下りる頃には、大歓声と割れんばかりの拍手の音で、会場である講堂が湧いた。


舞台の袖からその様子を見ていた俺は、その熱狂的な歓声に興奮していた。


「ほら、和馬。カーテンコールよ」


里奈が俺に手をさしのべる。俺が苦笑しながらその手をとって再び舞台に立つと、歓声がさらに大きくなった。


この舞台の一番の功労者であり実力者である里奈に送る称賛がほとんどだと思うが、少しは怪盗夜叉に送られているとも自惚れてもいいよな、きっと。


再び舞台袖に戻ると、今度は演劇部員に抱きつかれたり肩を叩かれたりと大騒ぎになった。


「お疲れ様、瀬戸くん!!」


「かっこよかった~、本物の夜叉みたいだったよ!!」


「瀬戸って身軽だったんだなぁ」


「まったく、それにしても台本無視して憎い演出してくれるじゃねぇか!!


「ほんとだよ、お陰で登場のタイミングが難しかったよ!!」


「あははは・・・・・・」


色々なものを誤魔化すために、とりあえず俺は笑ってすました。



最後のルビー姫との場面。


台本通りに進めるなら、悪人たちを問答無用で全員叩き伏せ、本物のルビーのネックレスの在りかをルビー姫から聞き出した怪盗夜叉がそちらに向かおうとすると、刑事たちの足音が聞こえてきたため、あえなく怪盗は苦笑しながらその場を立ち去る、となるはずだった。


・・・・・・なんだ、こうして振り返れば、台本無視したのなんて、ほんのわずかじゃないか。


里奈もわりとのってたし。




「お疲れ、和馬」


わいわいと演劇部員に囲まれていると、里奈がぽん、と俺の肩を叩いてそう言った。


「あれくらいの軌道修正なら、いつもよりは楽だったわよ」


くすくすと笑いながら告げる里奈。


・・・そんなにいつも作戦を変更させてるつもりもないけど。


「でも本当に助かったわ。ありがとう、和馬」


「いや、俺も楽しかったよ」


思わず、俺もそう言ってしまった。


こんな風に、闇に付きまとわれることのない怪盗夜叉を演じることができて、新鮮で楽しかったのは本音だから。



しばらくは演劇の興奮と余韻がおさまらなくて、部員も大騒ぎだったし、会場内もなかなか人がひくことはなかった。


それでもなんとか抜け出すことができると、俺と里奈は愛良たちを探して回った。


「愛良はともかく、ロゼは目立つからすぐに捕まるだろうな」


「金髪の外人なんて珍しいものね」


それでも一応宗次に連絡をとろうと携帯を取り出していたところで、突然声をかけられた。


「・・・・・・あの、天野さん?」


呼ばれたのは一緒にいた里奈の方だけど。


「はい?」


里奈と一緒に俺も振り向いてみてみれば、そこにはいかにも真面目そうな坊っちゃんタイプの青年。少し緊張したような面持ちで、里奈に話しかけていた。


「あの、今日の舞台、とてもよかったです」


「・・・ありがとうございます」


里奈は去年の舞台から少しずつファンが増えていて、こうして話しかけられることも少なくない。とりあえずといった感じで、営業スマイルを返した里奈に、青年はさらに話しかけてきた。


「今年の舞台は天野さんが台本を書いたと聞いたのですが・・・?」


「えぇ、そうですよ?」


「怪盗夜叉を出すことは始めから決めていたのですか?」


「えぇ・・・それがなにか・・・?」


まるで新聞記者のインタビューのような質疑応答に、俺も一応警戒して宗次に連絡せずに経緯を見守っている。


里奈の答えを聞いた青年は、片手を顎にあてて何やら考え込んでいるようだった。


「やはり怪盗夜叉は始めから出すつもりで・・・・・・ということは・・・」


「あ、あの・・・?」


「天野さんは怪盗夜叉がお好きですか?」


「え?!」


唐突な質問に、里奈は驚いたようだったが、すぐに気を取り直した。


「そうですね、彼に興味はありますよ」


「・・・なるほど」


何に納得したんだか、小さく頷いてから、今度は青年が俺に向き直ってきた。


「瀬戸くん・・・・・・ですね?」


「あ、あぁ」


なんで名前を?


今日の配役表に俺の名前があったのは知っているけど、仮面を被った怪盗夜叉が俺だってわかるのは・・・・・・やばいだろ、<仕事>的に。


「やっぱり。天野さんと一緒にいたからそうじゃないかと思ったんだ」


彼はにっこりと人の良さそうな笑顔をこちらに向けてきた。


・・・なんだ、里奈といたから、怪盗夜叉役じゃないかと思われたのか。


「瀬戸くんの演技も圧巻だったよ。ピンチヒッターとは思えないほどの」


「どうしてそれを・・・?」


俺が今日ピンチヒッターとして怪盗夜叉を演じたのを知っているのは、演劇部員たちだけ。


一般の観客は知らないはずなのに・・・。


この青年、何者だ・・・・・・?


不信そうに彼を見つめる俺に、彼は再び笑顔を向けてきた。


「俺は渡辺 修登。法学部に所属しています。・・・天野さん」


「え、あ、はい?」


「あなたが怪盗夜叉に興味があるのはわかりました。あなたのために、あの怪盗の謎を暴いてみせますね」


な、なにぃ?!いきなり何を言い出してるんだ、こいつ?!


「え、え~・・・・・・と?」


「俺はあなたのファンとして、応援しています、天野さん!!だから、怪盗夜叉は大嫌いですが、あなたのために彼のことを色々と調べてきますからね!!」


「え?や、あの・・・・・・」


「では、これで失礼します」


言うだけ言うと、彼は礼儀正しくぺこりとお辞儀をして帰っていった。俺も里奈も、いきなりの展開についていけずにその場に放心状態。


な、なにが起こったんだ・・・・・・?



「・・・・・・なぁ、里奈・・・」


「・・・なに?」


「おまえのファンって、みんなあんなのなのか・・・・・・?」


「・・・・・・知らないわよ・・・」


ぼんやりと問いかけた俺に、里奈は脱力しながら答えた。



よくわからないが、あの青年・・・・・・渡辺だっけ?は、怪盗夜叉が嫌いだけど、里奈のために調べると言っていた。


・・・別に嫌いなら調べてくれなくてもいいけど。


今回、里奈が怪盗夜叉を絡ませた台本を書いたことによって、彼女が怪盗夜叉を好きなのだと多くの人に印象づけてしまったらしい。


里奈がわざとそうしたのかは知らないが。



「・・・よくわからないけど、とりあえず、宗次たちのところに行くか?」


「・・・・・・そうね」


今一瞬だけ通りすぎた嵐のことは互いに見て見ぬふりをすることに決めて、俺と里奈は宗次たちと合流した。





それからは催し物を適当に楽しんで、文化祭を満喫した。


今年の文化祭は思わぬ展開の連続で疲れたが、その分充実した楽しい思い出もできた1日になった。




和馬の演技・後編でした。


ノリノリになっちゃった和馬はアドリブだらけで、演劇部員はさぞやふりまわされたことでしょう(笑)




そして、最後のほうで、修登がこちらにも登場。


里奈の前では気取っているのでちょっと印象が違うように見えるかもしれないですね。


彼の本性はどちらなのか(笑)




修登が怪盗夜叉のことが大嫌いな理由は番外編にあります(笑)



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