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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
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15、舞台の上でお会いしましょう <Side 和馬>(前編)



朝一番でいきなり携帯の電話が鳴った。着信を見れば里奈からだ。


里奈から電話なんて珍しい。


俺はまだベッドの中で寝ぼけながら、もそもそと動いて携帯を開いた。


「もしもし?」


『あ、和馬?!よかった~つかまって!!』


「・・・どうした?」


『和馬・・・・・・お願いがあるの』


心底困った様子の里奈の声に、俺はゆっくりと頭を覚醒させる。


「何があった?」


『和馬、私たちを助けてくれない?』


「あぁ、もちろん。俺ができることなら・・・・・・」


いつも裏の仕事で色々と手伝ってもらっているから、里奈の頼みならふたつ返事で了承するに決まってる。まして、里奈が俺に直接頼み事なんて珍しいことだし。


『よかった!!じゃぁ、今から大学に来て?』


「はぁ?!」


急に明るい声で彼女がそんなことを言うから、俺は拍子抜けした。



・・・・・・大学に来い?ってことは、大学で何があったのか?!


でも、今日は大学の文化祭で・・・・・・


「・・・・・・里奈、おまえ、俺に文化祭を手伝わさせるつもりか・・・?!」


『あら、そうだとして、男に二言はないでしょ?今からすぐに来てね、時間がないから』


勢いよくまくしたてると、そのまま里奈は電話を切った。


今からすぐに来いとか言ったか?!


今日は愛良たちを文化祭に連れていく予定だったから、ゆっくりできると思ったのに?!


今から?!



・・・・・・何企んでるんだ、里奈のやつ・・・・・・?






15、舞台の上でお会いしましょう☆    <Side 和馬>(前編)







里奈に言われた通り大学に向かえば、すでに門のところで見覚えのある人物が立っていた。


・・・たしか、演劇部の部員だった気が・・・・・・。


「瀬戸くん、こっち、こっち!!ありがとう、来てくれて!!」


俺が相手に気づくと同時に向こうも気づいたようで、すぐさまこちらにかけつけてきた。


「・・・一体どうしたんだ?」


「詳しい話は天野さんから。とりあえず、講堂まで一緒に来て」


なんだかわけがわからないまま、俺は講堂まで連行される。講堂は、今日の里奈たち演劇部の舞台が行われる会場だ。


・・・・・・なんで俺がそこに?!


「和馬!!よかった~!!これでひと安心だわ!!」


「里奈?!」


講堂に入れば、里奈が舞台の上から大声で俺を呼んだ。まだ観客もいない講堂は、里奈の声はよく響いた。


俺は嫌な予感がなんとなくしながらも、里奈のもとまで歩み寄り、彼女に尋ねた。


「・・・・・・里奈、いったいなんだっていうんだ?!」


「和馬、単刀直入に言うわ」


きっぱりすっぱりと、里奈は俺に言い放った。



「今日の舞台に怪盗夜叉として出演してほしいの」


「なっ・・・・・・!!」



いくら観客がいないとはいえ、今この場には、演劇部の部員がいる。ましてや、部外者の俺が現れたことによって余計こちらに視線が集まっているのを感じるってのに!!


「里奈、いったいなにを・・・」


「あ、ごめん、言い方悪かったわ。今日の舞台に怪盗夜叉『役』として、舞台に立ってほしいの」


焦る俺に、里奈がもう一度言い直した。


・・・・・・が。



「・・・・・・怪盗夜叉・・・役?」


「そう!!じつは、今年の舞台は、怪盗夜叉とある国のお姫様をめぐるアクション舞台なのよ。ところが、今朝になって怪盗夜叉役の人が高熱で舞台に立てなくなっちゃって・・・」


「・・・で、俺にその役をやれと?」


「適任でしょ?」


にっこりと笑う里奈を俺はじろりと睨み返した。


「馬鹿言うなよ、俺は演技なんかやったことないし。それより、代役くらい用意してんだろ?」


「それがね、怪盗夜叉役って結構アクションが多くて大変だから、他にこなせる人がいないのよ。だから、和馬ならできるかなって」


「な、なんで俺が・・・・・・!!」


「和馬だって一応演劇部員よ?それに、怪盗夜叉の台詞は最小限にしたし、たいてい私が怪盗夜叉と同じ場面に登場してるからフォローもするわ。ね?お願いよ、和馬」



む、無茶苦茶言うなよ?!


演劇の台詞を今から覚えて、立ち回りを今から確認しろって?!


派手なアクション付きで?!


こんなあと数時間もないのにできるわけ・・・・・・


「できるでしょ、あなたなら、<アールグレイ>?」


声をおとし、俺にしか聞こえない声で、俺のコードネームを呼ぶ。


・・・そりゃ、たしかに<仕事>のときだって状況に応じては、作戦が一時間前に変わって逃走経路や諸々の首尾を覚え直さないといけないことはいくらでもある。


しかも、これを覚え損ねたら警察に捕まる恐れもある。<組織>の連中に追われて、臨機応変に計画を変えないといけないときもある。


じつは、土壇場の記憶力も度胸も持ち合わせてはいる・・・・・・が・・・・・・。

「一回だけ。ね?お願い」


再度、里奈がそう言ってくる。


・・・確かに、俺も一応演劇部に所属してることにはなってるけど・・・・・・。


それは部員が足りなくて廃部寸前だったから頭数ってことで入部しただけだけど・・・。


でも、いつも色々と助けられてる里奈の頼みとなると・・・・・・叶えられないものじゃないし・・・・・・。



「・・・・・・わかった、一回だけだぞ」


「本当に?!ありがとう、和馬!!」


俺に飛び付かんばかりの勢いで喜ぶ里奈に、俺は苦笑を返す。


「それじゃぁ、時間もないことだから、舞台裏で打ち合わせを・・・」


他の部員もほっとした様子でそれぞれの作業に戻る。周りのそんな反応に俺はだんだん不安になってくる。


「な、なぁ?本当にいいのか?俺は演技は一切できないぜ?あんまり期待されても・・・・・・」


「いいのよ、いつも通りにやってくれればいいの。和馬以外に適任者なんていないわ?それに、ちゃんと私たちもフォローするから」


いつも通りって・・・・・・。


とうとう俺は観念して、里奈の後を追って舞台裏に向かった。




「はい、これが台本。台詞はそんなに多くはないから」


里奈は忙しそうに俺に台本を渡してから、どこかに行ってしまった。俺も引き受けたからには下手な失敗はしたくないから、空いているパイプ椅子を引き寄せてそこに腰かけ、台本とにらめっこを始めた。


パラパラと流れを見てみると、王道なファンタジーに無理矢理怪盗夜叉を登場させているような物語だった。


たぶん、世の中が怪盗夜叉で大騒ぎしているから、夜叉が登場するような舞台にすれば客の入りもいいだろう、という目論見なんだろうな。


そんなことしなくても、里奈の演技を見たさに客はいくらでも入ると思うけど。


ま、それと愛良の喜ぶ顔と俺たちの驚く表情を見たさに脚本を書いたのかもしれないけど。


小さくため息をついてから、俺は<怪盗夜叉役>の台詞を覚えるためにページをめくった。



「お、やっぱり引き受けたんだな、和馬」


必死に台詞を覚えている最中、聞き覚えのある声が降ってきた。顔をあげれば、ニヤニヤと蹴っ飛ばしたくなる笑顔を浮かべた宗次がいた。


「怪盗夜叉の役、引き受けたんだろ?」


「・・・・・・なんで知ってる?というか、なんでここにいる?」


「俺は里奈の舞台の裏方として、小道具やら照明やら音声やら準備するのに、昨日から大忙しだぜ?ま、<仕事>に比べたら楽勝だけどな。なぁ?」


ニヤリと笑いかけてくる宗次を見て、俺はすぐにピンときた。素早く宗次の胸ぐらを掴んで引き寄せる。


「う、うわ、なんだよ?!」


「・・・おまえだな、里奈に吹き込んだのは」


「吹き込んだなんて人聞き悪い!!里奈にかずくんに頼んでもいいかなぁ~って相談受けたから、そんなの当たり前だろ~って答えただけだぜ?」


「なぁにが当たり前だ!!ばれたらどうするんだよ?!」


「ばれるわけないだろ~?演技が上手な名俳優くらいにしか思われないって!!なんなら手を抜いたっていいし。いやぁ、俺としては和馬が夜叉をやってくれるから、小道具の仕掛けが少なくて済むからいいけど」


「・・・・・・宗次」


「ん?なに?」


「覚えてろよ」


「・・・・・・ハハハ・・・・・・」


宗次は誤魔化すように笑うと、そのまま逃げていった。


「・・・ったく」


そんな風にぼやきながら、じつは俺自身結構楽しみはじめていたりする。


なんとも皮肉じゃないか?本物の怪盗夜叉が、大学の学園祭で演劇で演技するなんて。




開演時間が迫ってきて、俺は舞台の衣装に着替えた。


漆黒のマントに衣装。手触りやデザインはやはり本物とは少し違う。


・・・ま、そうだよな、本物の夜叉の衣装は防火対策やら防弾対策やら、物騒な装備付きだし。


それでも着なれた漆黒の衣装に身を包むと、自然と気が引き締まる。


変わっていく気配。


込み上げてくる高揚感。


最近使い始めた、顔半分を隠してくれる白い仮面を装着し、ひっそりと笑みを浮かべる。


さぁ、ゲームの始まりだ。





怪盗夜叉の最初の登場シーンは、里奈が演じるルビー姫が乗る馬車が、悪人たちに囲まれるところを助けるところだ。


・・・それにしても、この舞台の内容とタイトル。


<お姫様救出大作戦>って・・・・・・それって愛良がノワールに誘拐されたあの件のことじゃないか・・・。


しかもよりによって、ルビーときた。


・・・・・・里奈のやつ、絶対面白がってるに違いない。


ルビー姫の前に怪盗夜叉が登場すると、なぜか会場が歓声で沸いた。


・・・なんていうか、<仕事>のとき並みだな、この歓声。俺はむしろこの歓声は好きだから気分はいいけど。


簡単な立ち回りをして悪人たちを追い払う。そしてルビー姫に向き直り、マントを揺らしながら彼女に近付く。


仮面の下には笑みを浮かべて。優雅に腰を折って挨拶をしてから、そっと手を差し伸べた。


「『・・・助けていただいてありがとうございました、怪盗夜叉』」


「『いいえ、お礼など。御無事で何よりです、姫君』」


里奈が演じるルビー姫は、戸惑ったように夜叉の手をとりながら礼を述べる。俺は怪盗夜叉を演じながら、いつものような<仕事用>の作った声色ではなく、あえて地声で応じた。


・・・・・・だって、声まで本物に似てたら、さすがに怪しまれるだろ・・・?



悪人を縛り上げた怪盗は、そのまま颯爽とその場を去った。


・・・って、怪盗夜叉はお助けマンか?!


心の中で突っ込みながら、次の自分の登場場面まで舞台袖で成り行きを見守る。


舞台の上では、国の唯一の王位継承者であるルビー姫が再び誘拐されてしまうというピンチな場面。しかも、城には怪盗夜叉からルビーを盗むという予告状まで届いたものだから、大パニック。


とりあえず警察が城内を取り囲み、怪盗対策を施す。誘拐されたルビー姫の身を案じながら。


そして、再び怪盗夜叉の登場。



警備の目を潜って、目的の部屋へ侵入する。


目の前には、この国の宝でもある、大きなルビーのついたネックレス。


・・・この展開、愛良に気づかれないか?!


当然、ロゼを始め、実たちはあのときの再現だって気づいているだろうけど。



怪盗夜叉はゆったりとした動作で宝に近付く。


まるで観客全員がその盗みに参加しているかのように、会場の中はしん、と静まり返っている。


コツン、コツン、と俺が一歩一歩歩く度に、観客の息を飲む音が静かに聞こえるだけだ。


人に見られながら獲物を奪う。


それも、見ている人たちは怪盗夜叉の所作に完全に飲み込まれている。なんだかそれが、俺にぞくぞくとした興奮をもたらした。


高揚してくる気分と反比例して、気配はどんどん静かな冷涼なものになってくる。


・・・・・・そう、俺は次第にこの会場の空気と期待に促されるように、無意識下のなかで、<仕事用>の怪盗夜叉になり始めていた。




どうせだいたいのあらすじしか頭に入ってないんだから、俺にとっては<仕事>と大差ない。


俺は、そっと獲物を取り出した。本物には程遠くても、キラキラと輝く石は、宝石のように見える。


これも宗次の作品か?!いや、あいつはこういうレプリカは作れないから他の小道具を担当した演劇部員かな・・・。


変なところで不器用なんだよな、宗次のヤツ。



様々なことに思いを巡らせていると、舞台袖から突然パンッという派手な爆発音が響いた。


観客はそれに驚いて肩を震わせ、俺はさっとそちらに視線を送った。


これは、獲物を盗んだ後に怪盗を捕まえようとする、警部の作戦。


舞台袖から、ゆっくりと警部が姿を現す。


熱血漢、という言葉がぴったりの中年の刑事。


怪盗と刑事、というと、なんであんなに警察側って熱血漢ばっかり揃うんだろ?!


そういえば、実際に怪盗夜叉を追いかける刑事たちも熱血そうな奴らばかりだよなぁ。


俺は窓枠に足をかけながら、そんなことを考える。


熱心な刑事たち。


今まで怪盗夜叉を追いかけてくる連中を気にかけたことはなかったけど、もしかしたらもっとぞくぞくするものが得られるのかもしれない。


今、こうして追いかけてきた警部にいたずら心が芽生えてきたように。




・・・でも、よく考えてみたら、この熱血漢警部って・・・・・・里奈なんだよなぁ。


相変わらず常識はずれの変装を見せてくれる。


必死に夜叉を捕まえようとする目が、俺を追いかけてくる。それが里奈だからか、これが舞台だからか、いつも以上の興奮を俺に与えてくれる。


・・・おもしろい、追いかけてくる奴が知ってる人間だっていうだけで、こんなにスリルでワクワクするなんて。



「『待て、逃がさないぞ、怪盗夜叉!!』」


警部が怪盗夜叉を追いかけて叫ぶ。里奈が作り直してくれた、台詞の少ない台本通りなら、俺はここでそのまま高笑いのひとつでもして逃げてしまえばよかった。


でも、ちょっと目の前の<追跡者>をからかいたい衝動にかられてしまった。


俺は普段の怪盗夜叉のように、くすりと笑いながら警部に告げた。


「『よくぞここまでわたしを追いかけてこれましたね。ですが、あなたおひとりでわたしを捕まえるなど・・・できるはずがない』」


いきなり台詞を付け加えた上に、舞台に用意された塔の上にふわり飛び乗った俺に、里奈は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに役者の顔になった。


「『待て!!おまえが持ち去ったその宝は、ルビー姫にはなくてはならないもの!!ルビー姫が何者かに連れ去られている今、その宝まで渡すわけにはいかない!!』」



ふぅん、さすが里奈。


飛び去りそうな怪盗に、熱血に叫ぶ警部って構図だ。


じゃぁ、俺も少し付き合うか。


「『志はじつにご立派ですね、警部殿。ですが、口よりも実力がなくては、わたしを捕えることも、ルビー姫をお助けすることもできませんよ』」


「『なっ・・・・・・!!言われずとも・・・あ、待て、怪盗夜叉ーー!!』」


里奈が扮する警部の叫び声を残し、俺は舞台から姿を消した。


これでとりあえず舞台の前半はおしまい。


あとは後半のルビー姫との絡みだけ。




俺は、あんなに嫌がってたくせに、演技で演じる怪盗夜叉ってやつを結構楽しみ始めているのを自覚していた。



というわけで、和馬が舞台に立つことに至った経緯でした(笑)


舞台のセリフはそのままに、和馬のツッコミがいちいち入ってます(笑)






当初は宗次も舞台に立たせようかとも思っていたのですが、彼はやはり裏方の人なんで、裏方のままで!!


里奈と和馬の舞台対決でした~!!






じつはこの話は、愛良サイドだけ書ければ満足だったので、和馬サイドはちょっとしたおまけです(笑)



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