15、舞台の上でお会いしましょう <Side 愛良>(後編)
今日は和馬お兄ちゃんたちが通う大学の文化祭。
その文化祭で里奈お姉さんが舞台をやるっていうから、あたしは楽しみにしてそれを見に来たんだ。
でもいざ行ってみると、誘ってくれた和馬お兄ちゃんはいなくて。
仕方なく、あたしはロゼと宗次お兄さん、実お兄さんと一緒に劇を見ることになった。
あ、そうそう、それと、前にあたしが和馬お兄ちゃんを探しにここに来た時に助けてくれた修登お兄さんも一緒に。
修登お兄さんは、里奈お姉さんのファンなんだって。
でも、恋する乙女にはわかってるんだ~。修登お兄さんはただのファンじゃないだってこと。
そんなこんなで、始まった里奈お姉さんの劇。
なんと、それは怪盗夜叉がある国のお姫様を助けてあげるところから始まった。
そのお姫様役が里奈お姉さん。
・・・ってことはあの怪盗夜叉役は誰?
それにしても、あの怪盗夜叉は本物みたいにかっこいいなぁ、なんて思っていたら、宗次お兄さんがびっくりな情報を教えてくれた。
「あの怪盗夜叉は和馬なんだぜ?」
まさかまさかの展開!!
憧れの怪盗夜叉の役を大好きな和馬お兄ちゃんが演じているなんて!!
しかも身のこなし方とかもそっくりでかっこいいの!!
あたしは大興奮で劇に見入ってしまっていた。
15、舞台の上でお会いしましょう☆ <Side 愛良>(後編)
場面は、結構緊迫した展開中。
怪盗夜叉が、お姫様が攫われてパニック中のお城に現れて、宝物を盗んでしまった。
だけど、そこに登場してきたのが、いかにもえらそうな中年の警部さん。
たぶんこのお話での、怪盗夜叉のライバルなんだろうな。
でもそれよりもびっくりなのは、あの中年のおじさんが、里奈お姉さんだってこと。
・・・すごいとは聞いていたけど、里奈お姉さんの変装は本当にすごい。全然違和感がない・・・・・・!!
里奈お姉さん、すごすぎる・・・・・・!!!
「『待て、逃がさないぞ、怪盗夜叉!!』」
警部が怪盗夜叉を追いかける。対して、怪盗夜叉はくすりと笑いながら警部に告げた。
「『よくぞここまでわたしを追いかけてこれましたね。ですが、あなたおひとりでわたしを捕まえるなど・・・できるはずがない』」
言い終わると同時に、怪盗夜叉の体がふわりと浮き上がる。
・・・あれってどうやってるんだろう??
今にも逃げ去りそうな怪盗夜叉に、警部が慌てて叫んだ。
「『待て!!おまえが持ち去ったその宝は、ルビー姫にはなくてはならないもの!!ルビー姫が何者かに連れ去られている今、その宝まで渡すわけにはいかない!!』」
「『志はじつにご立派ですね、警部殿。ですが、口よりも実力がなくては、わたしを捕えることも、ルビー姫をお助けすることもできませんよ』」
「『なっ・・・!!言われずとも・・・・・・あ、待て、怪盗夜叉ーー!!』」」
警部の前で、とうとう夜叉は姿を消してしまった。舞台の上に残ったのは里奈お姉さん扮する警部だけ。
すると、ひらひらと天井から一枚の紙が落ちてくる。警部はそれを掴むと中身を読んだ。
「『・・・・・・何を考えてるんだ、あの怪盗は・・・・・・!!』」
え、え?!なにが書いてあったんだろ?!
それは明かされることなく、舞台はすぐに次の展開に。
・・・っていうか、すごい・・・・・・!!
なにがって言えないくらい、なにもかもがすごい。
和馬お兄ちゃんの怪盗夜叉もかっこいいし、里奈お姉さんの演技もすごい。ここまでで、ルビー姫と警部以外にも、2役はこなしてる。
宗次お兄さんが里奈お姉さんの役が出てくるたびに教えてくれるからわかるけど、教えてもらえなかったら、全部別人だと思うかも。
隣をちらっと見れば、修登お兄さんも真剣に舞台を見ていた。
反対側を見れば、ロゼもおもしろそうに舞台を見てる。でもあたしの視線に気づいたのか、あたしの方を向いてにっこりと笑いかけてくれた。
「ルナールはさすがルナールね」
「・・・えっと?」
「演技が上手ねってことよ」
「うん!!すごいね!!」
「あぁ、ほら、プリンシア。ナイトの登場よ」
ちょっと目を離した隙に、場面は少し進んでた。
場面は、ルビー姫が攫われた悪い奴らのアジト。
悪い奴らはルビー姫を攫って、身代金をお城に要求していた。涙を浮かべて、ここからの解放を願うルビー姫。それを嘲笑う悪い奴ら。
絶望的な表情を浮かべたルビー姫だったけど、突然頭上から降ってきた存在に驚愕した。
もちろん、驚いたのはルビー姫だけじゃなくて、その場にいた悪い奴らも。
・・・・・・ついでに、観客のあたしたちも。
だってだって、怪盗夜叉をやってる和馬お兄ちゃんってば、舞台の真上から飛び降りてきたのに、まるで羽が生えてるみたいにふわって降りて来たんだもの!!
マントがふわり、ってなびいたせいかもしれないけど、でも、足音とかも全然目立つような音がしなかった。
突然現れた怪盗夜叉の存在と、その登場の仕方に、あたしも舞台の上でも、驚きで溢れていた。
だけどその肝心の怪盗夜叉だけはルビー姫を庇うように立ちふさがると、悪い奴らに言った。
「『予告通り、ルビーをいただきに参りました』」
「『な、なに・・・・・・?!予告など受けていない!!さっさとこの場を去らないと・・・・・・!!』」
「『おやおや、予告を受けていらっしゃらないとおっしゃる?そんなことはありませんよ、わたしはこうして予告状をあなたがたのもとに届けていますよ』」
悪い奴らが銃を怪盗夜叉に向けていても、彼は飄々とした態度で、後ろで庇っていたルビー姫のドレスの裾に少し触れた。そして怪盗夜叉の手には一枚の小さな紙が握られていた。
「『ほら、こうしてあなたがたが連れていらした姫君に予告状を持たせていたのですよ』」
「『何を馬鹿なことを・・・・・・!!・・・くそ、おい、おまえら、やってしまえ!!』」
悪い奴らの中でも一番えらそうな人が号令をかけると、一斉に彼らは怪盗夜叉に向けていた拳銃を発砲する。
拳銃の音と、そこから庇うようにマントをルビー姫に被せながらさっと物陰に移動する怪盗夜叉。ルビー姫をその物陰に残すと、さっと飛び出て、軽い身のこなしで次々と悪い奴らを倒していく。
そして、残された最後のひとりの拳銃を素早い仕草で奪ってしまうと、逆にその拳銃を相手に頭に突きつけて、夜叉は言った。
「『さて、教えていただきましょうか。あなたがたが盗んだ、ルビーの在りかを』」
「『・・・なにを・・・・・・!!』」
「『今更とぼけないでください。あなたがたがあの城から盗んだルビーは、姫君だけではなく、彼女の大切なネックレスも盗んだのでしょう?お城にあったネックレスはダミーだというのはすぐにわかりましたよ』」
あ、そういうことなんだ?
じゃぁ、さっきお城の場面で怪盗夜叉が盗んだルビーのネックレスはニセモノってことなんだ~。
ってことは、里奈お姉さんが演じていた警部さんはニセモノを守ってたってことなんだ。
・・・かわいそうな警部さん・・・・・・。
そして静かな、だけど結構怖い威圧をかけて、怪盗夜叉は悪い奴の口を割らせて、そいつを縛りつけちゃった。
奪い返したルビーのネックレスを手にすると、怪盗夜叉はそっとルビー姫の首につけてあげた。その動作に、ルビー姫が戸惑ったように彼に話しかけた。
「『・・・・・・怪盗夜叉・・・?』」
「『ご無事ですか、ルビー姫』」
「『え、えぇ、あなたのお陰で無事です。ありがとうございました、怪盗夜叉』」
「『それは何よりです。あなたの身になにかあったら、国民のみなが悲しみます』」
「『・・・この宝石はよいのですか?あなたはこれが欲しくて、城に来たのでは・・・・・・?』」
あくまでも紳士的な怪盗夜叉に、ルビー姫は困ったように首にかかったルビーのネックレスを手にする。
すると、怪盗夜叉がくすり、と笑った。
「『いいえ、わたしが盗むと予告したルビーはそれではありません』」
「『この宝石ではないのですか?ですが、この国で一番大粒の宝石は、このルビーのネックレス。他には、ルビーなんてどこにも・・・・・・』」
「『あるではありませんか、ここに』」
「『え・・・・・・?』」
怪盗夜叉に指さされて、戸惑うルビー姫。そんな彼女の反応に、再びくすっと笑った怪盗夜叉だったけど、そんなふたりの耳に刑事たちがかけつけてくる音が聞こえてくる。
「『残念ですね。そろそろお別れです』」
「『怪盗夜叉・・・・・・。で、ですが、わたくしはまだあなたに何のお礼もしていません。何度も助けていただいたのに・・・・・・!!』」
「『わたしは泥棒ですよ、姫君。わたしは欲しいと思ったものを気まぐれに盗むだけ。・・・今回も、また』」
「『だけど、あなたはなにも・・・・・・』」
「『いいえ、これから盗ませていただきます』」
そっとルビー姫に近づく怪盗夜叉。
・・・・・・まさかまさかまさか・・・・・・!!!
いまだ座りこんだままのルビー姫に合わせるように怪盗夜叉は膝をつく。
見つめ合うふたり。
・・・これ、怪盗夜叉とルビー姫だって思えば何とも思わないけど、和馬お兄ちゃんと里奈お姉さんだと思うと・・・・・・ちょっと、いや、だいぶ、嫉妬・・・・・・!!
そして、怪盗夜叉はふわっとルビー姫を黒いマントで覆うと、そっと彼女に顔を近づけた・・・・・・!!
・・・・・・ってことは、つまり、つまり・・・・・・
お、お兄ちゃんってば、里奈お姉さんにキスしたってことーーー?!
あたしだってまだどこにもキスしてもらってないのにぃ!!
これって浮気じゃないのーーーー?!?!
「・・・和馬、八つ裂きの刑だな」
ぼそり、と宗次お兄さんのつぶやきが聞こえる。思わず、あたしは同意を込めてうなずいてしまった。
そうだよね、宗次お兄さんだって里奈お姉さんの恋人だもん。やっぱり、恋人が他の人とキスするのなんて、演技とはいえ、許せない~~~!!
「『さて、それではそろそろ警部殿もこちらに向かってきたようですし、わたしは立ち去りましょう』」
「『怪盗夜叉・・・・・・』」
「『素敵な<ルビー>をいただきましたしね。・・・・・・それではお元気で、姫君』」
現れたときのように、怪盗夜叉はふわり、と身軽に飛んで姿を消してしまった。残されたルビー姫がまだ座り込んでいると、バタバタと足音を鳴らしながら、刑事が現れた。
「『ご無事ですか、ルビー姫?!』」
「『は、はい・・・・・・。ですが、なぜ、ここが・・・・・・?』」
「『何でも、怪盗夜叉が警部にここの場所を記した紙を渡したらしく・・・・・・』」
「『怪盗夜叉が・・・・・・。それで、警部は今・・・?』」
「『はい。怪盗夜叉を今頃追いかけているかと思いますよ』」
苦笑交じりに刑事がそう言うと、ルビー姫は寂しそうに笑う。
そっか。
怪盗夜叉がお城で去った時、警部のもとにひらひらと落ちてきた紙が、ルビー姫の居場所を記したものだったんだ!!
その後、やってきた刑事たちに悪い奴らは捕まって、ルビー姫は無事にお城に帰ることができて、めでたしめでたしって感じで劇は終わった。
2時間っていう舞台がすっごく短く感じるくらいあっという間の劇だった!!
でも、短く感じるけど、すごく充実した劇で。
これを考えたのが里奈お姉さんっていうんだから、ますますすごい!!
だって、演技だってあんなに上手なのに、台本まで書けるなんて!!
すごいな~里奈お姉さん!!
あたしが感動したように、会場にいた観客みんながそう思ったみたいで、舞台の幕が下りると同時に、拍手喝采、スタンディングオベーションになった。
「すごかったね!!」
あたしは隣に座る修登お兄さんににこにこと話しかけた。修登お兄さんも拍手をしながら頷く。
「本当に。あの怪盗夜叉役もよかったね」
「あの怪盗夜叉役はね、和馬お兄ちゃんなんだよ!!」
「そうみたいだね。この配役表に瀬戸 和馬って書いてあったからもしかしてって思ったんだ」
そう言って修登お兄さんが見せてくれたのはこの劇の配役表。
なんだ~それがあったなら、あたしも欲しかったなぁ。
これを見れば、里奈お姉さんがいくつの配役を演じているのかわかったし、なによりも和馬お兄ちゃんが怪盗夜叉の役をやってるってことがわかったのに!!
・・・さては、宗次お兄さんってば、わざとあたしにこれをくれなかったのね・・・・・・??
「・・・でも、今回の台本を書いたのが天野さんということは・・・・・・もしかして・・・」
「え?」
「いや、なんでもないよ」
ぽつり、と修登お兄さんがもらした言葉を聞き返すと、修登お兄さんは慌てて首を横に振った。そして宗次お兄さんの方を向いて声をかけた。
「チケットありがとう。そろそろ行くから」
「おぅ、またな。俺と和馬は経済学部にいるから」
「俺は法学部いるよ。それじゃぁ」
短く挨拶だけすると、修登お兄さんは他のお客さんと一緒に流れて行ってしまった。
残されたあたしたちも、宗次お兄さんの案内で大学内の色々な催し物を見て回ることになった。
やがて、舞台を終えた里奈お姉さんと和馬お兄ちゃんとも合流して、文化祭の終わりまで一緒に過ごすことができた!!
大学の文化祭って初めてだったけど、本当にお祭りみたいにみんなが騒いでいて、そこにいるだけで楽しくなっちゃった!!
和馬お兄ちゃんの演技、なんて貴重なものまで見れたし!!
・・・相手が里奈お姉さんとはいえ、あたし以外の人に、キスしたのは許せないけど。
でも、また来年も遊びに来れたらいいな、なんて思うほど、充実した1日をみんなで過ごすことができてよかった!!!
まだ小学生の愛良にとって文化祭っていうのは結構珍しいものばかりだったとは思います。
1年後には彼女も中学生として文化祭を催すんですけどね。
そして、和馬が演技してます!!怪盗夜叉を地声でやっているようです(笑)
んでもって、里奈とキスしちゃったかも疑惑?!
宗次と修登にもつながりができたので、よかったです。うっかりこれを忘れちゃったら、何のための文化祭やら(笑)
それにしても、愛良も気付こうよ、自分が誘拐された事件が思いっきりネタにされてるんだってば。
さて、次回は急遽<怪盗夜叉役>を演じることになった和馬の心境を解明していきましょう(笑)




