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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
54/86

14、愛の?鬼の?勉強合宿!!  <Side 和馬>




前回、香港マフィアのボスがいる部屋に<仕事>のために盗みに侵入したとき、同じく<仕事>だったのだろう、ノワールと出くわした。


すでに部屋中の人間を血祭りにあげたうえで、悠々とした態度で怪盗夜叉を待っていたノワールは、バカにしたように怪盗に言った。


「すべてが中途半端。もっと自立しないとこの世界では生きていけないよ」と。


そして、テストと称して、怪盗夜叉の獲物をあらゆる小道具と武器を駆使してノワールの手中から奪えと挑戦された。


しかも、ノワールは一切の武器は使わないと言って。


力の差は歴然としているし、思いっきり馬鹿にされていることはわかっていたけど、俺はその挑戦を受けることにした。



・・・・・・結果から言えば、結局それでも負けたのだけど。








14、愛の?鬼の?勉強合宿!!     <Side 和馬>










うだるような暑さ。


夏は暑いものなんだから仕方ないとはいえ、息苦しいくらいのこの暑さはやはり耐え難い。


こんなときは裏の<仕事>も休業したいよなぁ、なんて甘い考えがときおり巡ってきたりもする、なかなか危険な季節だ。


今日は<仕事>の打ち合わせではなく、純粋に遊びに来た宗次と、クーラーで適温になっているリビングでまったりとテレビゲームをしていた。ちなみに、愛良は塾の夏期講習で不在、実は夏休みでも大学で忙しく、里奈は演劇部の合宿のためにいない。



・・・・・・合宿・・・か。



里奈がいないせいで遊び相手がいない、と俺の家に転がり込んできた宗次に、俺はある報告をするべきかどうか、迷っていた。


報告するなら、実たちもいるときがいいのだろうか・・・。


また勝手に決めてきたことには、間違いなくお咎めを食らうことは、覚悟の上だけど。



「和馬?手がお留守だぜ?」


ぼんやりと考え事をしながらゲームをしていた俺は、宗次の言葉にはっと我にかえった。


「なんだぁ、和馬?暑さにやられたか?」


「・・・いや、そうじゃないけど・・・」


ふと、リビングに向かってくる気配を感じる。これは愛良ではなく、もうひとりの同居人・・・・・・


「あら、遊びに来ていたのね、トリック」


「相変わらず美人だなぁ、ロゼ」


「ありがと!!ナイトはそんなこと言ってくれないからうれしいわ!!」


「・・・何の用だよ、ロゼ」


ふわふわとした金髪を揺らしながら宗次と会話するロゼに、俺は少し不機嫌に問い掛ける。



俺は、<ノワール>の気配は、奴自身がわざと放つ殺気でしか察知できないが、<ロゼ>はすぐに気配がわかる。


<ノワール>と同一人物とは思えないほど、はっきりとした、でも無機質な気配。まるで、一般人みたいな。


こうも自在に気配を操る相手とひとつ屋根の下で暮らしているのかと思うと、時々背筋が寒くなる。


ロゼはそんな俺の心境を察しているのかどうかわからないが、憎らしいほどの満面の笑みを俺に向けてきた。



「そうそう、ナイトに希望を聞いておこうと思って。ナイトは行くなら海がいい?山がいい?」


「あれ?和馬どっか行くのか?愛良とロゼと?」


「・・・いや」


「残念ながら、プリンシアは連れていけないのよね」


「・・・どういうことだよ、和馬」


心底残念そうにため息をつくロゼの前で、宗次が強張った表情で俺に問い詰めてくる。


・・・・・・う~ん、最悪のタイミングだ・・・。



「あらいやだ。ナイトはまだトリックたちに話してなかったの?」


「話そうとは思っていたけど・・・」


「あれからどれだけの日数が経ったと思っているの?情報を共有することなく、自分が欲しい情報だけねだるのは傲慢な態度ね、ナイト」


鋭いロゼの指摘に、俺は返す言葉もなく唇を噛み締める。情報を共有するつもりがないわけじゃないが、余計な心配をかけたくない、という思いもあって、宗次たちに言えないでいた。


・・・迷惑を、かけたくないとも。



「なにがあったんだか知らないけど、どういうことだよ、和馬。また何か隠してるのか?!」


「隠してたわけじゃないけど・・・言いそびれてはいたな」


「だから何を?」


「俺、8月に入ったらロゼと合宿に行ってくる」



一拍の沈黙。さらに三拍の沈黙。


さらにもう一拍だけ固まっていた宗次が、口をあんぐりと開けた。



「が・・・合宿?!ロゼと・・・おまえが?!何のだ?!い、いや、あまり詮索しないほうがいいのか?!ひとつ屋根の下で男と女が暮らしていて何もないはずがないもんな、だから、俺たちに言いづらかったのか・・・・・・。いや、でも、俺は応援するからな、国際結婚」


「何の話だ、何の!!」


「それにしても、ロゼが愛良の恋敵とはなぁ・・・」


「あらあら、私はナイトのことは大好きだけど、プリンシアを悲しませるようなことはしないわ?残念ながら、私たちの関係はそういうのじゃないのよ、トリック」


くすくすと楽しそうに笑いながら言うロゼ。そんな彼女に、宗次は表情を一変させて睨み付けた。


「わかってるさ、それくらい。ただの冗談だよ。だいたいふたりで愛を育む旅行なら合宿とは言わないからな」


・・・・・・こいつ、冗談であれだけ妄想して楽しんでたのか・・・。




「で?何の合宿なんだ?」


宗次が呆れている俺とロゼを交互に見て問い掛ける。


「そうねぇ…言うなら、勉強合宿?」


「勉強合宿?!」


「そう。ナイトってば、自分が身を置いている世界のこと、全然わかっていないんですもの。あっさりとどこかの誰かに殺されちゃう前に、イロハくらい教えてあげようかしら、と思って」


「・・・あんたがそれを和馬にやってやるメリットは?」


「ここの楽しい生活の宿代ってとこかしら?それに、早くにナイトが死んじゃったら、プリンシアが悲しむでしょ?」


くすり、と笑うロゼを無言で睨む宗次。


すると、ロゼの気配が一変した。


深い深い、闇の気配に。


「・・・それに、簡単に死なれてしまっては、怪盗夜叉と共同戦線を張ることにした意味がなくなるだろう?」


「・・・・・・ロゼ・・・っ!!」


「うふふ、失礼」


俺が鋭い声で注意すれば、すぐさまいつもの気配に戻る。


・・・・・・俺にも、できるようになるだろうか。こういうことが。


「・・・それで?和馬もそれでいいのか?」


「・・・ああ。・・・・・・それが条件だったし・・・」


最後の一言は小さな小さなつぶやき。それは宗次の耳には届かなかったようだ。




前回の<仕事>でノワールのテストに大敗した俺。


でも、簡単に依頼された獲物を諦めるわけにはいかなかったし、これは<シリーズ>ではないからノワールの関心だってないもののはず。


俺は負けても負けても必死にノワールに食いついた。そんなしつこい俺に呆れたのか、はたまたおもしろかったのか、無表情のままノワールは言った。


「じゃぁ、取引といこうか、怪盗夜叉。この宝石箱を君に進呈する代わりに、2週間ほど君の身柄をいただこうか」


「わたしの・・・・・・身柄を・・・?」


「その甘えきった全てを叩き直してあげようというのだよ。どうだい、君にとって悪くない条件だろう?」


「そうすることによる、あなたのメリットは・・・?」


あのとき、俺もノワールに宗次と同じ質問をした。返ってきたのは違うものだけど。


「その2週間で判断させてもらうよ。君がわたしと共に<組織>と相対するにふさわしいパートナーかどうか」








ノワールと合宿に行くことを宗次に知られた夜に、すぐさま実からお叱りの電話が届いた。


そして、ひとしきり怒られたあとに、問われた。


「愛良ちゃんをどうするつもり?」


「あ~・・・愛良か・・・・・・。さすがに2週間ひとりにするのはまずいよなぁ?」


「そりゃそうだよ。小学生をひとりにするなんて…・・・あ、そうだ」


なにかをひらめいたらしい策士の提案は、意外なものだった。


「愛良ちゃんも夏休みだし、僕の家で勉強合宿っていうのはどう?僕がいなくても聡や母さんもいるし」


「あ、なるほど。それはいいかも」


愛良は受験生だ。この夏の勉強具合で受験の良し悪しだって決まってくる。


医者一家の実の家に合宿するにはいいかもな。


その後、タイミングよく愛良の模試の結果が悪かったことも合間って、愛良を実の家に行かせることに成功した。


残ったのは俺とロゼ・・・・・・いや、怪盗夜叉とノワールだ。







「ナイトの希望通り、山付近に合宿所を用意したから、がんばりましょうね」


金髪美女がにっこりと微笑む。


何も知らない世の男たちなら、よだれをたらしてついてくるに違いない。だけど俺は、よだれの代わりに冷や汗をたらしながら、小さく頷いてそれに答えた。


ロゼの用意した車に乗せられて、辿り着いた先はまさに森の中。店どころかホテルも民家もない。


俺が覚えている限りでは、最後に車で見た店らしい店は、だいぶ前のところにある。


そして、辺り一帯木しかないその中に、ぽつりと佇んでいるひとつの小屋。


まさか・・・・・・。


「ここが、君とわたしの勉強合宿所だよ」


すでに格好も気配もノワール。サングラスの奥で俺を試すように見ているのが感じられる。


・・・ここまで来たら、俺だって逃げるわけにはいかない。


「・・・楽しくなりそうですね」


俺も、すでに気配も口調も怪盗夜叉に切り替えて、そう返答した。




「まずはこれを持ち続けることに慣れて、あとは情報収集のやり方を覚えてもらおうか」


小屋に荷物を置くと、ノワールはおもむろに俺に腕を伸ばしてきた。


鉛の武器・・・・・・拳銃を俺に向けて。


「なにをしているんだい?早く受け取りなさい。この2週間、君にこれを貸そう」


「・・・・・・ノワール、怪盗夜叉は銃を持ちません。誰も巻き込み傷つけたくはありませんから。わたしの武器はこれだけです」


銃を手渡そうとするノワールの腕をはらい、俺は懐からダーツの矢を取り出した。すると、ノワールが持っていた銃でそのダーツの矢を狙い撃った。



「これは勉強合宿だよ、夜叉。そしてわたしはその間、君のセンセイだ。わたしの言うことは聞いてもらう」


「ですが・・・・・・」


「仕事中にこれを使うかどうかは君次第だ。だが、ここではこれを使うことを慣れてもらう。君を狙う連中は皆、これを持っている。奴等と対抗するときにこれを使えなければお話にならないな」


ノワールの指摘はもっともで、俺は言い返すことができない。たしかに、仕事中の警察との追いかけっこには銃はいらない。


だけど、<組織>の奴等とやりあうには、扱いくらいは知る必要があるのかも…・・・。


俺はゆっくりと腕を伸ばして、それを受け取った。


ずしり、とした重みが腕に伝わる。


その分だけ、闇に呑まれたような。





「さて、外も暗くなったことだし、さっそく実践演習と行こうか」


「・・・え?」


「おやおや、まさか昼間の明るみの中で演習するとでも?わたしたちは闇の存在。裏の世界に生きる者。闇を制した者が、この世界で勝ち残るのだよ」


さぁっとまるで闇がその場を覆い隠すかのような錯覚。


その場を支配する存在感。


ただ立っていて、静かに笑っているだけなのに、俺はノワールに屈して膝をつきそうになるのを必死に耐える。


銃を握る手に汗がにじむ。


「・・・・・・さぁ、始めようか」


ゆっくりと、漆黒の闇が広がっていくのを感じた。





それからの2週間、明るい昼間は情報収集の方法を、闇に埋もれた夜は、森の中で実践演習をした。


あらゆる戦い方、身のこなし方を叩き込まれる一方で、宗次にとっては序ノ口なのであろう、簡単な情報収集の方法を教わった。


・・・・・・教わるというか、叩き込まれるというか。


やがては昼夜問わずの連戦になっていき、始めは心身共にくたくたになっていたものが、慣れてくると体力的にそれにも追い付くようになってきた。


口で何かを教わる訳じゃない。ただ、身体で、気配で、本能で身に付けていく。


闇世界の大物、化け物とすら言われているノワールから直接指南を受けるなんて、うらやましがるヤツすらいそうだけど。






そして、2週間の合宿の終わりが見え始めた頃、突然ノワールが提案してきた。


「では、勉強合宿の成果を実感するために、最終試験をしようか」


「・・・最終試験・・・ですか?」


この2週間、気を抜くことなく、俺は<怪盗夜叉>であり続けたせいか、口調もずっとこんな調子だった。


「これと同じものをターゲットと警察に送り届けておいたからね」


そう言ってノワールが俺に渡してきた一枚の紙。


これは・・・・・・。



「予告状・・・・・・?」


怪盗夜叉の予告状だった。


ここから少し離れた場所にある美術館に展示されているオパールを盗む、といった内容のもの。


・・・勝手なことを~・・・・・・。



「ひとりで情報を集め、ひとりでそれを取ってこれたら、今回の勉強合宿はおしまいだよ、夜叉」


「・・・これは、<シリーズ>なのですか?」


「まさか。なぜ<シリーズ>を君に渡すような真似をすると思う?」


・・・・・・ま、こいつの性格上、そうだよな・・・。


いや、でも案外<シリーズ>を俺に盗ませて横取りしたりするかとも思ったが・・・。


「うん、君に盗ませて横取りするんでも構わなかったんだけどね。残念なことに、この辺りにそういうネタがなかったんだ」


俺の思考を読んだかのようなタイミングで相槌を打ってきたノワールに、俺は驚いて見返す。


だが、怪盗夜叉である今は、表情にそれを出さない。いわゆる、ポーカーフェイスだ。


「・・・なかなか様になってきたようだね。当日が楽しみだ」


予告日まで時間がない。俺はすぐさま仕事にとりかかるために、ノワールをその場に置いて小屋の一角に立て籠った。






そして予告日。


まだまだ宗次たちのように情報をつかむことはできないものの、仕事に最低限必要な情報だけをつかんで、俺はゲームを開始した。


持っているのは煙幕と何の変哲もない普通のダーツの矢。この少ない小道具が今の怪盗夜叉の武器だ。


少ない情報、少ない武器。


傷だらけ身体と回復しきっていない体力。


状況はいつもより最悪なのに、気分はいつも以上に高揚していた。そして、自分でも驚くほど身体が軽く、自由に動くことができて、いつも以上に警察連中を撒くのに苦労しなかった。


・・・・・・せっかく盗んだオパールは、俺にとっては必要のないものだから、すぐに近くのパトカーの中に返却しておいたけど。


動きが格段に早くなってる。


それが怪盗夜叉として仕事して改めて実感できた。仕事にかかった時間も、いつもより短い。


着替えをすばやくすませて、俺は少し感動しながら人通りの少ない道を歩いていた。すると、突然鳴った車のクラクション。見れば、車の窓から、ひょっこりと金髪外人がこちらに顔を向けている。



「どうだった?」


「知ってるだろ?そっちこそ、どうなんだ?」


車に乗り込みながら、俺はにこにこと笑いながら尋ねてきた<ロゼ>にそう言い返した。


どうせ何もかもお見通しなんだろうから。


それより、この勉強合宿でのこいつの目的のひとつだった、怪盗夜叉との共同戦線についてどう判断したのかが気になった。


「そうねぇ。面白そうだから、もう少し観察してみようかしらって感じかしら」


「・・・・・・へぇ~・・・」



とりあえず、切り捨てられなかったことをよしとすべきか何なのか。


俺は、我が家に向かうロゼの車に乗りながら、複雑な思いで窓の外を眺めていた。




和馬サイドの勉強合宿でした。

どちらかというと、こちらが勉強合宿するために愛良も勉強合宿することになったのですが(笑)

当初の予定では、実たちもロゼと一緒に勉強合宿する予定でした。特に、宗次。

でも、それよりはたぶん、ロゼは和馬ひとりの強化を望むだろうということで、和馬集中攻撃に(笑)

闇世界にどっぷりつかったノワールに色々叩き込まれた和馬が、今後どう成長していくか、どうぞお楽しみに(笑)

…それにしても、ノワールが勝手に怪盗夜叉の予告状を出して、ちゃんと怪盗夜叉として登場できたってことは・・・・・・和馬は合宿に夜叉の衣装を持ってきていたのでしょうか・・・?それとも、ノワールが用意したのでしょうか?!

これは永遠の謎ってことで(笑)

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