14、愛の?鬼の?勉強合宿!! <Side 愛良>
あたしが中学受験をしようって思った理由はいくつかある。
パパとママに薦められたから。
しずちゃんも中学受験するって聞いたから。
それから、怪盗夜叉の弟子になるためには、頭がよくないといけないって思ったから、受験勉強をしようって思った。
だから、そんな動機で始めた受験だったから、6年生になっても志望校は決まらなかった。
パパもママも、「愛良の行きたいところに行ければいいわよ」って呑気なことを言ってたから、それに甘えてたっていうのもあるけど。
でも、和馬お兄ちゃんと暮らし始めて、そういう気持ちがなくなった。
あたしは、夜叉の弟子になることは諦めたけど、和馬お兄ちゃんのお嫁さんになる夢はまだある。
お兄ちゃんと暮らし始めて、それに加えてもうひとつの夢がいつの間にか加わってた。
あたしが、なりたい職業が。
14、愛の?鬼の?勉強合宿!! <Side 愛良>
夏休みが始まっても、受験生に遊ぶ暇なんてない。毎日のように夏期講習のために塾に行く。この夏の期間にがんばるかどうかが受験の勝敗を決める、とか言われてるから、みんながんばっていた。
もちろん、あたしも。
なのに、8月に入って、先月末に受けた模試の結果が返ってきたときは・・・・・・さすがに固まった。
「や、やばいかも…・・・」
志望校も滑り止め校も全部不合格圏内。偏差値もがっくりと落ちてる。
最近、怪盗夜叉にかまけすぎたかも…・・・。
「そういえば愛良、おまえ、受験勉強はどうなんだ?」
いつもはそんなこと聞きもしないくせに、今夜に限ってお兄ちゃんが突然そんなことを聞いてきた。
「ど、どう・・・って・・・・・・?」
「この前模試があっただろ?結果はどうだったんだ?」
それ聞く?!このタイミングで?!
お兄ちゃんに嘘はつけないあたしは、なんて答えようかと視線をぐるぐると泳がす。そんなあたしの怪しい様子を和馬お兄ちゃんは目を細めて見てくる。
・・・・・・う・・・やばい・・・・・・。
「お、お兄ちゃん、なんで突然あたしの成績が気になったの?」
「そりゃ、愛良を預かる身としては、うっかりこの家に来たせいで成績が下がりました、なんてことになったら申し訳ないだろ?」
「え~そんな心配しなくていいよ、お兄ちゃん!!受験とここでの生活は関係ないよ?」
「いや、環境ってのは大事だよ、愛良。・・・だから見せてみな、模試の結果」
お兄ちゃんの腕がすっとこちらに伸びる。
話をそらして助けを求めようにも、今夜はロゼはお仕事とかでいない。最近、ロゼは忙しそう。
じぃっとお兄ちゃんに見つめられる。
「・・・愛良、おまえ、俺のことを恋人だとかなんとか言いながら、その恋人に隠し事をするのか?」
「し、しないよ!!」
「よし、じゃぁ、見せてくれるな」
最高の笑みでお兄ちゃんはにっこりと笑いかけてくる。
は、はめられた・・・・・・?!
あたしはとうとう諦めて、お兄ちゃんにソレを渡した。お兄ちゃんはしばらくその紙を眺めていると、段々と眉根を寄せ始めた。
あたしは逃げ出したくなるのをこらえて、お兄ちゃんが最初に何を言うのか、じっと待った。
すると、はぁっと大きなため息をついてから、黙ったまま模試の結果をあたしに返してくれた。ため息をつくまえに笑ったようにも見えたけど・・・・・・?
「・・・愛良」
「は、はい」
「おまえ、勉強合宿決定な」
「・・・え?」
一瞬、言われている意味がわからなくて、まぬけな返事をしてしまった。
・・・勉強合宿?塾にはそんなのなかったと思うけど…。
「・・・あのぉ、勉強合宿って・・・・・・?」
「明日から2週間、おまえ、実の家に合宿に行け」
「実お兄さんの家に?!なんで?!」
「実がみっちりと勉強を見てくれるって言ってるからだよ」
にやっとお兄ちゃんは笑いながらそんなことを言ってくる。
実お兄さんの家に?!
勉強合宿?!
「・・・えっと・・・拒否権は・・・?」
「ないな」
きっぱりとお兄ちゃんは答える。
「で、でも、その間お兄ちゃんはどうするの?!」
「・・・俺もその間、出掛けてるから」
「2週間も?」
「そーゆーこと」
「ま、まさか、浮気なんじゃ・・・」
「んなわけないだろ」
衝撃を受けてよろけるあたしに、お兄ちゃんは冷ややかなツッコミを入れてきた。
浮気じゃないならよかった!!
「実にはもう話はつけてあるから、明日は塾から帰ったら実がこの家に愛良を迎えに来るから」
「・・・は~い」
なんかよくわかんないうちに、なんかよくわかんない展開になっていて、あたしはちょっと不満に思ってたけど、とりあえず返事はした。
なんか、お兄ちゃんがいない間、体よく追い出された気分だけど。
「・・・それで、そんなに不機嫌なの?」
「だって、お兄ちゃんてば昨日まででかけること教えてくれなかったんだよ?」
苦笑しながらあたしにお茶をくれた実お兄さんに、あたしは膨れっ面のまま文句を言う。
今、あたしは実お兄さんに迎えに来てもらって、実お兄さんのおうちのリビングにいる。
「それで?和馬は何で泊まりがけででかけたかは教えてくれたの?」
「サークルの合宿に行くって言ってたよ?」
「・・・へぇ、そっか」
あれ?実お兄さん知らなかったのかな?もう~お兄ちゃんってば、なんで言わないのかな~。
「珍しいな!!兄貴がこの時間に家にいるの!!」
突然リビングの扉が勢いよく開いたかと思ったら、うれしそうな表情をした男の人が飛び込んできた。
・・・あ、あたし、知ってる。
「・・・まずはおかえり、聡。それから、もっと静かに扉は開けること。それと、この子を2週間うちで預かることになったから」
「この子・・・・・・?」
じっと男の人の視線があたしをとらえると、目を見開いてあたしを指差した。
「あ、おまえ、和馬の家にいた・・・」
「聡、愛良ちゃんを知ってるのか?」
「前に和馬お兄ちゃんの家で怒ってたときに会ったの」
聡お兄さんの代わりにあたしが答える。すると、ちょっと厳しい表情で実お兄さんが聡お兄さんを睨み付けた。
「聡、また和馬を責めたのか?和馬が悪いわけじゃないって何度も言ってるだろ?」
「だ、だって・・・・・・」
「・・・僕の部屋に行こう、愛良ちゃん」
「え、でも・・・」
しょんぼりしている聡お兄さんを置いて行こうとする実お兄さんに、あたしは困っていたら、実お兄さんがこっそりとあたしにしか見えないようにウィンクした。
なにか考えがあるのかな?
そう思ったから、あたしは素直に実お兄さんに従ってリビングを出た。
「聡お兄さんを置いてきちゃってよかったの?」
実お兄さんの部屋は二階にあるみたいで、あたしは階段を上りながら、先を歩く実お兄さんの背中に尋ねる。すると、実お兄さんは大きなため息をついてから、軽く肩をすくめた。
「いいんだよ。何度言っても和馬の家にくだらない理由でおしかけるんだから。少し頭を冷やすべきさ」
「でも聡お兄さん、さみしいだけだと思うなぁ。実お兄さんがあんまりおうちに帰らないから」
あたしがそう言えば、実お兄さんがびっくりしたようにあたしに振り向いた。それからゆっくりとあたしに向き直ってきた。
「・・・愛良ちゃんもさみしい?和馬がいないときがあって・・・。ご両親に会えなくて・・・」
同じ質問を和馬お兄ちゃんにされたことがある。答えは、決まってるんだ。
「さみしいときもあるけど、でも、和馬お兄ちゃんとロゼと、3人で暮らす生活が、今は大好きなの」
「・・・・・・そっか。よかった」
ほっとしたように実お兄さんは笑って、それからお部屋に入れてくれた。
「聞いたよ?この前の模試、あまりいい成績じゃなかったんだって?」
「う゛・・・・・・」
お兄ちゃん・・・・・・余計なことを・・・。
「夏を制する者は受験を制すともいわれるからね。一緒に勉強頑張ろう?」
にっこり笑ってそう告げられたら、あたしはもう覚悟を決めて首を縦に振るしかなかった・・・・・・。
さっそく始まった実お兄さんとの勉強をしている途中、あたしはふっと気になって顔を上げて実お兄さんの方を向いた。
「・・・そういえば、実お兄さんって、お医者さんになる大学に行ってるんだよね?」
突然あたしに尋ねられた実お兄さんは、ちょっと困ったように頭を掻いてから、小さく頷いた。
「うん・・・まぁ、そうだよ。どうして?」
「・・・あたしね、将来の夢は和馬お兄ちゃんのお嫁さんになることなの」
「うん」
「でもね、お兄ちゃんと暮らしはじめて、なりたいものがもうひとつ増えたの」
「もうひとつ?」
「そう」
和馬お兄ちゃんと暮らしはじめて、ロゼも加わって、徐々にじわじわとあたしの中で膨らんできた、もうひとつの夢。
それは・・・・・・
「あたしね、看護士になりたいの」
実お兄さんの目がゆっくりと見開く。あたしは構わずに喋り続ける。
「・・・お兄ちゃん、バイトのせいかサークルのせいかわからないけど、怪我をいっぱいするの。実お兄さんがいつも手当てしてくれてるから、知ってるよね?」
「・・・うん」
「だからね、あたしも実お兄さんみたいに和馬お兄ちゃんの怪我を手当てできるようになりたいの」
「・・・和馬に、これ以上怪我をするような危険なことをするなって言わずに?」
「・・・だって、きっと、和馬お兄ちゃんにも理由があると思うから」
あたしが怪盗夜叉を追いかけるのに理由があるみたいに。それを無理矢理止めるのは、たぶん、恋人でもしちゃいけないんじゃないかなって思ったから。
「・・・そっか・・・。愛良ちゃんが看護士に・・・か」
「和馬お兄ちゃんのママも看護士だったんだよね?」
少し寂しそうに笑った実お兄さんにあたしは問い掛けた。すると、実お兄さんは少し視線を泳がせながら、あいまいに頷いた。
「あ、あぁ、うん。和馬にはそう聞いたことが、あるかな」
「実お兄さんのママはお医者さん?」
「いや、看護士だよ。父が医者だけどね」
「じゃぁ、実お兄さんもお医者さんになるんだね!!」
あたしが弾んだ声でそう言うと、なぜか実お兄さんは遠くを見るような目でぽつりと呟いた。
「医者に・・・・・・なるのかな・・・」
「?そのためにお医者さんになる大学に行ってるんじゃないの?」
あたしが首をかしげて問い掛ければ、実お兄さんは迷子みたいに途方に暮れた目であたしを見つめ返してきた。
「そう・・・だったのかな?よく・・・わからないんだ、医者になりたいのかどうか・・・」
「じゃぁなんで、今の大学に行くことにしたの?」
だって、大学受験って中学受験よりもっともっと大変って聞いたんだよ?
そんなに大変な思いをして受かった大学に、どんな目的を・・・夢を持っていたのかな?
それとも、看護士になりたい夢を持つ前のあたしみたいに、どこでもいいからって受験したのかな?それならもっと簡単な大学でもよかったはずだけど。
いくらあたしでも、お医者さんになる大学が誰でも入れるような簡単なものじゃないことくらい、わかる。
「それは・・・」
迷いながらもあたしの質問に答えようとしてくれていた実お兄さんの言葉がぱたりと止まった。きゅっと唇を噛み締めてから、あたしに笑いかけた。
「ごめんね、僕の話なんかしている場合じゃなかったよね。愛良ちゃんが立派な看護士になるためにも、それなりの進学校には入学しなきゃね」
そう言いながらテキストのページをめくる実お兄さんは、さっきみたいな迷いはそこにはなくて。すでに家庭教師モードになっちゃった実お兄さんに話をぶり返すこともできなかったから、あたしも受験生モードに切り替えて、おとなしく勉強を続けることにした。
それから2週間、本当に実お兄さんは毎日あたしに勉強を教えてくれた。最初はイライラした様子であたしにちょっかいを出していた聡お兄さんも、次第に実お兄さんがいないときに勉強しているあたしに助言をしてくれたりして、ちょっとずつ仲良くなっていった。
実お兄さんも聡お兄さんも教え方が上手で、どこがわからないのかわからなくて、もがいていたような問題も、光が射すみたいにどんどん明るみになってわかるようになってきていた。
それがあたしの気のせいじゃないっていうのは、夏期講習中のミニテストの結果を見ても明らかだった。
そして2週間の合宿のあと、和馬お兄ちゃんが実お兄さんの家に迎えに来てくれた。和馬お兄ちゃんと一緒に帰宅すれば、ロゼもお仕事から帰っていたみたいで、久しぶりにみんなが集まって、あたしはうれしかった!!
2週間の勉強合宿は、すごく身になったけど、お兄ちゃんに会えないのはやっぱりさみしかったし。
・・・あ、あと、実お兄さんのことを「恐い」って和馬お兄ちゃんがぽつりとよく言っている意味が、ちょっとだけわかったかもしれない・・・。
時々笑いながら怒りオーラを漂わせているときがあったから・・・・・・。
でも、勉強合宿は新鮮で楽しかった!!たまにはこんなのもいいかもしれない!!
だけど、帰宅してロゼに教えてもらったある事実に、あたしは衝撃を受けた。
テレビをあまりつける習慣のない、実お兄さんの家。新聞も経済のことばかり書いてある難しい新聞しかとっていなかったから、いつもテレビ欄と一面の夜叉の記事しか読まないあたしは、情報を逃してしまった。
なんと、あたしが実お兄さんの家に合宿している間に、怪盗夜叉が現れていたらしい・・・・・・。
その勇姿をテレビで見ることができなかったあたしは、しばらく落ち込んでいたのだった・・・・・・。
ハイ、ついついうっかり忘れちゃいそうですが、愛良は受験生だよってことで勉強合宿に!!
家庭教師はもちろん、実さんしかいないでしょうってことで、須藤宅にお邪魔することにしました(笑)
そこで、番外編で先に登場していた実の弟、聡の再登場でした!!彼は本編ではまだまだ出ますよ(笑)
そんな聡の初登場は番外編の中にありますので、探してみてください(笑)
さて、今までそこまでスポットライトの当たることがなかった実にちょっとスポット当ててみてます。
本当は、怪盗夜叉のメンバーで一番彼が心の中で色々葛藤してるんですけどね。
では、愛良には、看護士になるためにも勉強をがんばってもらいましょうか(笑)




