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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
40/86

11、我が家のルール? <Side 和馬>




「ロゼ」と名乗ったノワールと共同生活を送るようになって10日が過ぎた。


最初は警戒もしていたが、ノワールは意外にも律義に俺が差し出した条件をすべて飲みこんでいた。


殺し屋としての気配を決して出すなと言えば、この家にいる間は絶対に「ノワール」にならない。


部屋に入ってくるなと言えば、俺の部屋だろうと愛良の部屋だろうと、ノックするだけで部屋に入ってくることはしない。


なのに、なにも隠し事はないのだと言わんばかりに、ノワール自身の部屋には何度も招かれた。


血の臭いはおろか、銃のひとつもないその部屋は、普通の女性の部屋としても殺風景だった。



「・・・俺に、おまえの部屋なんて見せていいのか?」


「大丈夫よ、ナイト。私、仕事部屋はここじゃないところに用意してあるから」



にっこりと返事をしてきた一流スナイパー。


・・・あ、そ。


「ノワール」としての仕事は別宅でやるってわけか。



「・・・ん?」


そこで、俺はある事実に思い当たる。


「なぁ、ロゼ。だったら別に、俺の家で暮らさなくたっていいだろ?」


だいたい、そんな二重生活、不便に決まってるんだし。



「あら、だめよ。私はナイトをからかいながら、プリンシアと暮らすのが楽しいんですもの」


身も蓋もない彼女の返事に、もう、俺は怒る気力もない。


「あ・・・そ」


こいつとまともな会話をしようと思うのが無駄かもしれない。


10日近く一緒に生活をしていて、俺はそういう結論に至った。







11、我が家のルール?   <Side 和馬>










「あ、うまい」


「料理はだめでも、お菓子はつくれるの?変なの」


ロゼが大量につくったケーキのひとつを頬張りながら宗次と里奈がそう感想を言った。



昨日、ロゼはなにに取り憑かれたのか、ホールのケーキを大量につくった。そのうちのひとつを「怪盗夜叉で食べてね」なんてコメント付きで置いて行った。



そして、そのケーキの作成者は、昨日の夜からここに帰っていない。


愛良は心配しているが、やつの昨夜の夕食時の言葉を信じるなら「仕事」の準備でもしてるのだろう。





本来、ノワールの仕事は怪盗夜叉を消すこと。


彼女が来日したのは、怪盗夜叉を抹殺しようと目論むある組織からの依頼によってだった。


ところが、裏社会でその名を轟かせている一流スナイパーが日本にいると知った闇の人間たちが、次々と<ノワール>に依頼をよこしてきたらしい。





「しばらく日本に来ないうちに、ずいぶんと物騒な国になったものね」


くすくすと笑いながら、いつだったかやつは俺にそう言った。


ヨーロッパで暗躍することが多い任務遂行率100%の暗殺者が日本にいるとなれば、金を積み上げてでも依頼しようとする者は多いということだ。






「で?ノワールは何の仕事に行ったんだ?」


「さぁな。色々な依頼を受けてるみたいだけど、この家には武器はおろか血の臭いさえ残さずに戻ってくるからさっぱりわからないな」


「仕事場が別にあるっていいなぁ・・・」


「だよなぁ」


宗次と俺は同時にぼやく。


愛良と同居している以上、やはり怪盗夜叉の仕事の打ち合わせはこそこそと行わないといけない。


それに、愛良との同居を除いても、<瀬戸 和馬>と<怪盗夜叉>を繋げないための配慮はしないといけない。


こうして怪盗夜叉のメンバーが全員そろって作戦会議をしていること自体、その正体を明るみにしてしまう危険性がはらんでいることはわかっている。





「でも、仕事場を別に借りるだけのお金はないからな」


きっぱりと、実が横で指摘してくる。その実は今、今夜の怪盗夜叉の作戦を練ってる最中だったりする。


「・・・わかってるけど。言ってみただけ」


「でもたしかに、和馬の家に<レーザー>がずっとあるのも、危険なのよね、きっと」


むくれる俺を慰めるように、里奈が同調する。


「でも何を言っても、仕事場も隠れ家も、借りることはできないから諦めろ。ほれ、今夜のルートだ」


この話を打ち切るようにして終了させた実は、今夜の逃走ルートを示した地図をよこしてくる。


「あ?今夜も飛ぶんだ?」


「天気も風も良好。パラグライダーにはぴったりだろ」


「ふぅん、別にいいけど」


「・・・・・・俺はよくない・・・」


パラグライダーでの逃走経路を割り出してきた実の作戦に、俺は特に異論はない。が、どうやら宗次にはあるようで、ぶつぶつとなにやら文句を言い続けてる。


「パラグライダー逃走ってことは、待機する俺たちだって高層ビルの屋上とかに行かなきゃいけないわけだろ?ってことは、高いとこで待つってことだろ?!」


「はいはい、宗次の得手不得手を聞いてる余裕はないからな」


ばっさりと宗次の言い分を切り捨てて、実はさらに詳しい作戦内容を俺に報告してくる。


絶望的な表情を浮かべる宗次を横眼で見ながら、俺は笑いをこらえつつ、実の話を聞いていた。







今夜の獲物は、<失われた誕生石>シリーズのひとつとして確信している代物だ。


ノワールが怪盗夜叉を狙わなくなったとはいえ、<組織>の連中が怪盗夜叉を消そうとしていることに変わりはない。


油断は禁物。


もちろん、警察の連中も、予告状を出した以上、必死になって獲物を守ろうとするだろうから、こちらへの対策も忘れずに。








「・・・でも、も~ちょっと手応えあってもいいよなぁ・・・・・・」


あっさりと獲物を盗み出し、すでにパラグライダーで逃走中の俺は、通信機にぼやく。


怪盗夜叉を始めたころは、それこそ毎回ひやひやとしながら警察と相対していたが、最近では物足りなささえ感じる。


「怪盗夜叉を本気で捕まえようって熱意が足りないよなぁ~」


『そんな熱意を出されて、本当に捕まったらどうするんだよ』


呆れたように言い返してくるのは真面目な<ブラック>。


『まっさか。怪盗夜叉がそんなに簡単に捕まらないだろ?』


くすくす笑いながら告げているのは<ビール>の声。


「最近ノワール戦で頭いっぱいだったけど、そろそろまた警察をからかってみるのもいいよなぁ~」




俺は優雅に夜空の散歩よろしくパラグライダーを操りながらぼやく。


懸命に知恵を絞って怪盗夜叉から獲物を守ろうとする警察をからかうのが結構おもしろかったりする。<ビール>と俺は、警察をおちょくることに快感を覚えてる狂者だ。




「・・・・・・おっと!!」


突然強風にあおられて、俺はパラグライダーのコントロールを失う。


「あっぶねぇな。とりあえずあそこで休むか」


すぐさま態勢を整えて、俺は人気のないビルの屋上に降り立つ。ここまで飛べば警察も追って来れない。ここからは元に戻って家に帰ってもいいかな。


・・・とか思っていたら。




「・・・っ?!」


貫くような殺気。


その獣のような激しい殺気を俺は知ってる。


だけど、まさか。


・・・パンッ・・・!!



音がするよりも先に体が動いた。


先ほどまで俺がいたところに、小さな穴が開く。銃痕だというのは見なくてもわかる。



『<組織>の奴らか?!』


緊張した声で、<ビール>が聞いてくる。銃声が聞こえたのだろう。


「・・・違う、<組織>の連中じゃない」



短く答えて、俺は臨戦態勢に入る。


だけど、わからない。




「・・・・・・姿を見せたらいかがです、ノワール。一体どういうつもりですか?」




声をかければ濃厚になっていく、息のつまりそうな殺気。


辺り全体を闇に飲みこもうとするかのような、重厚な雰囲気を漂わせながら、涼しい顔してノワールは姿を現した。


それは「ロゼ」と名乗る前の、ノワールの姿。


黒髪の長髪、黒いサングラス姿で、手にはライフル、腰にも拳銃が備えてある。


口元は楽しそうに冷ややかに笑みを浮かべている。


・・・やっぱり、あの金髪美女とこの黒髪黒ずくめを同一人物だと思うのが無理だって・・・。






「これは驚きだね、すぐにわたしだとわかるなんてね」


「・・・理由を教えていただけるのでしょうね?なぜまだわたしを狙うのですか、ノワール?」


「理由?わたしは<組織>に君の抹殺を依頼されていると言わなかったかな、怪盗夜叉」



くすくすとノワールは笑いながら近づいてくる。



「・・・けれど、それは共同戦線を張ることでなくなったのではないのですか?」


「いやいや、それとこれは別だよ」


どう別なんだよ、どう。


相手が「ロゼ」なら、俺はとことん問い詰めるところだが、今、俺の目の前にいるのは<ノワール>だ。それができない雰囲気さえ漂わせている。



そして、俺も今は<怪盗夜叉>。無様に怒鳴って問いただすようなことはできない。




「たしかに、君と共同戦線を張ることを約束した。でも、依頼は依頼だからね。仕事をさぼるほどわたしも不真面目ではないんだよ」


「・・・なるほど?」


「ほどよく遊ぶには君はとても楽しい相手だからね、夜叉。ま、仕事しがてら遊ぶくらいはいいかなってね」


「・・・わたしはあなたのお相手をするほど暇ではないんですけど?」


「そうかい?じゃぁ強くなるんだね。・・・・・・それに」


くすくすと笑っていたノワールの笑いがふと、なくなる。



「これくらいの<おふざけ>で死ぬようなら、わたしと共同戦線など張る資格すらないね」


「・・・・・・」


「・・・それにね、わたしの仕事は君の抹殺だけではないのだよ。他の仕事と被ってしまったら<他の者>が君を消そうと現れるだろうしね」



なるほどね。


ノワールが他の仕事で不在の場合は、<組織>の他の暗殺者が怪盗夜叉に攻撃をしかけてくるってわけか。


最近なりふり構ってないな、連中・・・・・・。




「・・・それで?今夜はいかがされるのですか、ノワール?」


「そうだね、とりあえず・・・・・・」


ノワールが腰の拳銃に手をかけたのと俺が身動きをとったのはほぼ同時。


だけど、俺の動きよりも相手の動きのほうが早かった。


ノワールの放った銃弾は俺の仮面をはぎとった。



・・・・・・たしかに、俺は怪盗を始めてまだ1年ちょっとだけど、これほど何度も差を見せつけられると、これから先、闇の世界で生き残れるかちょっと不安になる一瞬だよな・・・。



それにしても。



「・・・ノワールはよほどわたしの仮面がお嫌いなのですね」


仮面を奪われるの何度目だろ。



「始めから言っているじゃない。そんな暑苦しい仮面、わたしは嫌いだよ」


「ですが、アイマスクではさすがに・・・・・・」


「だから、わたしが君にこれをプレゼントしよう」



ノワールがなにかを投げつけてきた。それを受け取れば、俺の手の中にあったのは白い仮面。


だけど、今まで使っていた顔全体を覆うものではなく、鼻から上だけを覆う仮面だ。



「顔全体を覆う仮面は表情を隠すにはいいだろうけど、その分標的の的を広げることにもなる。・・・銃をもたない君には想像もつかないだろうけどね」


「それはご親切にありがとうございます。・・・ですが、なぜこのようなことを?わたしたちは敵同士なのですよね?」


「前回の<ゲーム>のご褒美だよ、夜叉」



気まぐれな暗殺者はそんなことを返してくる。


それで今夜は帰るつもりなのか背を向けて歩きだす。ふと足を止めると、俺に振りむき、纏う空気をさらに冷たくして口を開いた。




「覚えておくといい、怪盗夜叉。闇の者が一度受けた<仕事>を投げ出すことなどない。命を賭けた<依頼>は、それほど信頼の求められるものだからね。これが、闇の世界での<ルール>。わたしのプライドに賭けて、よく覚えておいてもらおうか」



「・・・なるほど?それがあなたたちの<ルール>なのですね」



なんだ?これは日中の「ロゼ」に対する所業のあてつけか?


一瞬そんなことが脳裏によぎったが、ノワールの視線がそんな単純なことではないと語っている。





いまや、怪盗夜叉は闇の存在につけ狙われるだけの存在になったのだと。


そして、一度<契約>が交わされれば、標的が命を失うか、もしくは依頼者か依頼された者が死ぬまで、それが覆されることはない。




「・・・覚えておきましょう、あなたがたの<ルール>を。御忠告、感謝いたしますよ」





おもしろい。


だったら相手してやろうじゃん。


その代わり、<シリーズ>の情報も、かっちりといただいてやるからな!!




俺の決意を察したか、ノワールはふっと不敵な笑みをひとつ残してその場を去った。


俺は人気が完全になくなった屋上にしばらく佇むと、ゆっくりと体の力を抜いた。やっぱりノワールと対していると、どうしても体中が緊張してしまう。




俺はゆっくりとした動作でノワールに渡された仮面を眺めた。


たしかに、今までつけていた仮面は顔全体を覆うから苦しいときもあった。口元だけでも覆うものがなくなるのは楽かもしれない。



『・・・<夜叉>?大丈夫か?』


<ビール>がおずおずと尋ねてくる。俺はくすりと笑って、それに答えた。


「大丈夫。ノワールがイメチェンしろって新しい仮面をくれたよ」


まったく。


怪盗夜叉に甘いんだか厳しいんだかわからない殺し屋だけど。


だけど、気を抜けば、確実に命を奪われる危険な存在であることには違いない。








「ただいま~っと・・・・・・」


今夜の獲物をこそこそと抱えながら、俺たちは家に戻った。


最近じゃ愛良が起きてても平気で<仕事>帰りに帰ってきてしまうようになってしまった。



「おかえりなさい!!」



うれしそうに俺たちを出迎えたのはやっぱりまだ起きていた愛良。


俺の<仕事>がバイトであることに全然疑いを持たない彼女は、むしろ最近早く帰ってくることがうれしいらしい。



「ねぇねぇ、お兄ちゃん!!キッチンに行ってみて!!ロゼがすごいんだよ!!」


「・・・・・・・・・ロゼが?」


思いがけない人物の名前に、俺だけじゃなく、宗次や里奈、実も表情が固まる。



・・・さっきまで会ってたんだぞ?<裏の顔>で。




「なんかね、ケーキをいっぱいつくるとお兄ちゃんが怒るから、違うものを作ることにしたんだって」


くすくす笑いながら、愛良がキッチンへ先導する。


・・・なんか、嫌な予感がする。



「あら、おかえりなさい、ナイト。トリックたちまで一緒なのね」


にっこり笑顔の金髪美女。


その手元には、何人で食べるんだとツッコミたくなる、プリンやらクッキーが並んでいる。



「ちょうどよかったわ。たくさんつくったからみんなで食べて行って。仕事終りで疲れているでしょう?疲れているときは甘いものが一番よ!」


「あ、あたしもお手伝いする~!!」


愛良がそう言ってかけよっていく。




思うところはいっぱいある。


俺たちよりも先に帰ってきたのはともかく、なんで菓子つくりなんか始めてるのか、とか。


どう考えてもやっぱり、ロゼとノワールは別人だろ、とか。


ロゼの甘党はもはや異常領域だろ、とか。


こんな大量の甘いものをここにいる全員でだって食いきれないだろ、とか。


そりゃも~色々色々あるけど、とりあえず。




「夜の菓子作りは禁止!!!」




なんだって<仕事>帰りで疲れて帰ってきて、むせ返りそうなほどの甘い匂いに迎えられなきゃならないんだ?!



「え~・・・。ほんとに、ルールの多い家ね・・・」


ロゼがそんなブーイングをつぶやいているのが聞こえたが、俺は無視した。




ルールはルール。


ちゃんと決まった事項は守ってもらおうか。


こちらはロゼサイドではなく、ノワール&夜叉サイドでした。

ロゼと和馬が互いに裏の顔を隠して同居しているので、なかなかスリリングな感じがします。

ノワールが夜叉のマスクを暑苦しいといったのは、紫月の本音(笑)

ぜひとも口だけでも出してくれれば少しは暑苦しくなくなるかしら、と(笑)全面マスクのほうがあやしさばつぐんですけどね(笑)

現場で銃弾を放って命をねらってきてた相手が、帰宅したらケーキつくって待ってたりしたら、精神的に疲れそうな気がします(笑)

ドンマイ、和馬。

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