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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
24/86

8、追いかけて、逃げられて <Side 愛良>






今日は小学校が創立記念日でお休み。


平日のお休みって、やっぱりどこかにでかけたいな~って思うのに、肝心の和馬お兄ちゃんは珍しく朝早くから大学に行っちゃった。



あたしはやることがなくて家中を掃除していたら、テーブルの上に或物を発見した。


それは、和馬お兄ちゃんの携帯。


やっぱり、携帯がないと大学の中でも困るよね?


ってことで、あたしは携帯を届けに、和馬お兄ちゃんの大学に行くことにした!







8、追いかけて逃げられて?!   <Side 愛良>








お兄ちゃんの家から電車を乗り継いで1時間半。


和馬お兄ちゃんが通う大学の駅にたどり着いたあたしは、すぐに交番に寄って、大学の場所を教えてもらった。


大学に着いたはいいけど、あたりまえだけど、やっぱり大人なお兄さんお姉さんが門を出たり入ったりしてる。


あたしはちょっと萎縮しながらも、こっそりと大学の中に足を踏み入れた。構内の地図を見つけたけど、そういえば、お兄ちゃんの校舎はどこ、とか聞いたことがない。


地図の中には1号館~8号館まで書いてあるけど、それがなんだかさっぱりわからない。


学部もいっぱい書いてあるけど、それがどういうものなのかもわかんないし・・・。




あたしはここまで来て、お兄ちゃんを探し出すための手だてが何もないことに気付いた。


・・・連絡をとるにも、肝心の携帯をあたしが持ってるわけだし・・・・・・。




あ、宗次お兄さんとか里奈お姉さんなら、和馬お兄ちゃんがどこにいるか知ってるかな?


たしかふたりも同じ大学だったし。里奈お姉さんの携帯の番号なら知ってるし。



あたしは自分の携帯を取り出して、里奈お姉さんの携帯に電話をかけようとした。


そのとき、


「あれ、君、どうしたの?」



急に背後で声をかけられたから、あたしは携帯で電話をするまえにそちらに振りむいた。


そこには、知らないお兄さんがにこにこと笑いながら、でも不思議そうにあたしを見つめていた。



「・・・お兄ちゃんへ届け物。家に携帯を忘れてたから」



あたしは少し迷いながらも、お兄ちゃんの携帯を証拠だと言わんばかりにお兄さんに突き出して答えた。お兄さんはすぐに納得した様子でうなずいたけど、すぐに眉を寄せてさらに問いかけてきた。




「でも君、学校は?」


「今日は創立記念日でお休みなの」


「なるほど。・・・それで、お兄さんは何学部なのかな?そこまで案内しようか?」


「う~・・・ん・・・」



知らない人にはついていかないほうがいい。


ついこの間、怪盗夜叉の追っかけをしているときに学んだ教訓。


だから、あたしはその親切そうなお兄さんの申し出にも躊躇してしまった。


でもお兄さんはそんなあたしの迷いは全然気にしてなかったみたい。





「お兄さんの学部、知らないの?」


「え?あ、うん・・・・・・」


「そっか・・・まいったな、さすがにこの構内でひとりを見つけるのもなぁ・・・」


困ったように頭をかくお兄さん。別にあたしのことなんか無視してどっかに行ってもいいのに、一緒に探してくれるのが義務になってるみたい。


なんか、すごくいい人みたいだな!!




「瀬戸 和馬っていうの。知らない?」


「知らないなぁ・・・・・・。何年生?」


「えっと・・・・・・今年で20歳になるから、2年生かな」


「じゃぁ同学年だ。・・・でも法学部にはいないな、瀬戸なんて名前は・・・」



どうやらこのお兄さんと和馬お兄ちゃんは同い年みたい。


あたしは他にこのお兄さんになにかヒントをあげられないか、必死に考えてみた。



「えっとね、お兄ちゃんの他にも、お友達がふたりこの大学にいるの」


「名前は?」


「橋田 宗次と天野 里奈」


「天野 里奈?」




おや?お兄さんはすぐに里奈お姉さんの名前に反応した。



「それって文学部の天野さん?」


「それはわからないけど・・・・・・」


「じゃぁ、演劇部に入ってるって聞いたことは?」


「う~ん・・・・・・」



そういえば、里奈お姉さんは、いつか女優さんみたいに舞台にたって演技をしたいって言ってたかも。



「演技をするのは好きみたい」


「じゃぁきっと、演劇部の天野さんだね」


「お兄さん、里奈お姉さんを知ってるの?」


「去年の学園祭でね。彼女、演劇部の中でも一番演技がうまくて、いまだに伝説みたいになってるんだよ」


「へぇ・・・・・・!!」



知らなかった。


里奈お姉さんってそんなに演技が上手だったんだ!!


いつか見てみたいな、とあたしは思いながら、握り締めたままの和馬お兄ちゃんの携帯を思い出した。




「じゃぁ、里奈お姉さんのところに和馬お兄ちゃんもいるかな?」


「う~ん、同じ文学部だったらいるかもしれないね。行ってみようか」


「いいの?!」


「文学部棟ならすぐそこだしね」



お兄さんはにこにこしながら先に歩きだした。あたしもその後を追いかけながらお兄さんに話しかける。



「お兄さん、お名前は?」


「渡辺 修登だよ。君は?」


「あたしは柳井 愛良」


「柳井?あれ、だってお兄さんは瀬戸だろ?」


「そうだよ」


「・・・・・・そうなんだ・・・」



なんだか複雑そうな顔をして、ちょっと悲しそうにあたしに笑いかける修登お兄さん。


・・・ん?なんでそんな顔するの??



「ここが文学部棟だけど・・・・・・あ~でも、そろそろ授業が終わってくるな・・・」



時計を見ながら悔しそうにお兄さんは言う。


たしかに、時間はそろそろ12時半になろうとしてる。




「しょうがない。食堂で探すほうがいいかもな。愛良ちゃん、お昼は食べた?」


「ううん、まだ」


「じゃぁ、一緒に食堂でお昼食べながら探そう」


「え、え??」



修登お兄さんは勝手にそう決めると、あたしの手をとってずんずんと歩き始めた。


あぁ!!まだ和馬お兄ちゃんとも手をつないだことがないのに!!


・・・とか思う余地すらなく、お兄さんはあたしを引っ張って行く。


でもよく考えてみれば、里奈お姉さんの携帯に電話すればいいだけな気がするけど・・・・・・。


おもしろいからいっか!!







「どう?君のお兄さん、いる?」


「う~ん、いないなぁ・・・・・・」


いっぱい人がいる食堂の中で、修登お兄さんは席を探しながらあたしにそう尋ねてくる。あたしもきょろきょろしながら和馬お兄ちゃんを探すけど、全然見つからない。


あたしたちは諦めて適当なところで座ってランチを食べた。



「ねぇねぇ、修登お兄さんは何の勉強をしているの?」


大学って自分の好きなことを勉強できるところだって聞いたことがある。


だからちょっと気になってあたしはお兄さんに尋ねてみた。



「俺は法学部・・・・・・法律の勉強をしているんだよ」


「法律の?じゃぁ、弁護士さんになるの?!」


目をきらきらさせてあたしが尊敬の眼差しを送ると、お兄さんは居心地が悪そうに苦笑した。



「いいや、俺は警官になりたいって思ってるんだ」


「警官に?じゃぁ、怪盗夜叉を追いかけるの?!」


「へ?怪盗夜叉?」


あれ?だって警察といえば夜叉じゃないの??


「いや・・・俺は他の事件をやりたい、かな」


「ふぅん?」


なんだ、つまんないの。夜叉以外の事件なんて、物騒なものばっかりであたしは全然興味ない。






「・・・・・・そんなわけで、彼らが今回の依頼者ってわけ」


突然、あたしの耳に、聞き覚えのある声が入ってきた。


この声、宗次お兄さんだ!!


ばっと振り向くと、2つ先のテーブルに、宗次お兄さんと里奈お姉さん・・・・・・と、なんか、6人くらいのお兄さんがいた。


宗次お兄さんと里奈お姉さんは背中しか見えないけど、ちらっと見えた横顔で間違えなくふたりだとあたしは確信をもった。


目の前に座った修登お兄さんが不思議そうにあたしに問いかけてくる。




「どうしたの?」


「あそこに宗次お兄さんと里奈お姉さんがいた!!」


「え?・・・あ、ほんとだ。・・・・・・あれ、もしかしてあれって、噂の・・・・・・」


「ん?」


そんなことを修登お兄さんと話している間に、宗次お兄さんと里奈お姉さんを囲うように座ってた6人のお兄さんがそれぞれ自己紹介をしてる。里奈お姉さんはそれをなぜかメモしてる。




「あたし、ふたりのもとに行って・・・・・・」


「ちょ、ちょっと、待って、愛良ちゃん。・・・もしかしたら、おもしろいものが見れるかもよ?見たくないかい?」


「おもしろいもの?」


「まぁ、まずはあの6人の声をよく覚えておきな」



修登お兄さんがくすくす笑いながらあたしに言う。


よくわからないけど、とりあえずあたしはお兄さんの言うとおり、里奈お姉さんとおしゃべりをしている6人のお兄さんの声をなんとなく覚えておくことにした。



そのあと、あたしたちは里奈お姉さんと宗次お兄さんをつけるようにしてこっそり後を追いかけいた。


ふたりが向かったのは、大きな大きな教室。まるで体育館みたいに大きな教室。


そして、あたしと修登お兄さんは今、里奈お姉さんと宗次お兄さんの1列挟んで斜め後ろに座ってたりする。



すぐにばれちゃいそうなのに、里奈お姉さんと宗次お兄さんはふたりでおしゃべりするのに忙しいみたいで全然気づかない。


いつのまにか、食堂にいた6人のお兄さんもいない。





やがて、教室に先生みたいな人が入ってきた。


あたしみたいな子供がいたらばれちゃうかと思ったら、全然なにも言われない。そういえば、周りのお兄さんお姉さんも、全然あたしがここにいることになにも言わないなぁ。


大学ってなんでもありなの?



そんなことを考えていると、先生が出席を取り始めた。


あちこちで「はい」って短い返事が聞こえる。




驚いたのは、次の瞬間だった。




「瀬戸 和馬」


「はい」


え?!


今、和馬お兄ちゃんの声が聞こえた?!



今、明らかにお兄ちゃんの名前が呼ばれたのに、そしてお兄ちゃんの声で返事が聞こえたのにどこにもお兄ちゃんの姿が見当たらない。


というか、その声はむしろ・・・・・・。




「今、里奈お姉さんのあたりから、声がした・・・?」


「やっぱり、あの噂って本当だったのか・・・」


「噂?」


修登お兄さんのつぶやきにあたしは問い返す。なにがなんだかさっぱりわからない。


「天野さんはね、人の声を真似るのが上手で、こうしてよく色々な人の代わりに出席の返事をしてるんだって噂だったんだよ」



そうやって修登お兄さんが説明している間も、里奈お姉さんは何度も色々な声で「はい」って返事をしてる。


その中に、さっきの6人のお兄さんの声もあった。


「・・・すごい・・・」


「ほんとにね。あんなにいくつも声色を、それも男でも女でもできるなんて、すごい以上のすごさだよ」



修登お兄さんも感心してる。


あたしは里奈お姉さんと宗次お兄さんの会話が聞こえないか、一生懸命耳をすませた。






「・・・それにしても遅いな、和馬のやつ」


「わざわざ文学部の私が経済学部棟まで来て代返したのにね」


「あいつ今日、携帯忘れてるから連絡できないんだよなぁ・・・・・・」


「結構不便ね、携帯ないと」


「愛良に持ってこさせるか?」


「愛良ちゃんは学校でしょ」



突然和馬お兄さんの携帯の話とあたしの話題が出たので驚く。それでも、ふたりの会話は続いていく。



「それにしても、なんだかんだ、あのふたりも仲良くやってるよな」


「和馬だってひとりじゃないことに安心してるもの」


「愛良の愛もいっぱいだしな」


「和馬お兄ちゃんはあたしの恋人だもん、と~ぜんでしょ」


里奈お姉さんがあたしの声色でそんなことを言ったので、さらにあたしはびっくりする。


今の、間違えなく、あたしの声そっくりだった。隣に座ってる修登お兄さんもびっくりしてる。




「あはは、愛良っぽいな」


「愛良はまだ小学生だからな。ひとりにさせておくのがかわいそうなだけだよ」


「・・・って、和馬が言ったのか」


「ううん、言いそうだなって」


今度は和馬お兄ちゃんの声色でそう言ったあと、宗次お兄さんの問いかけには里奈お姉さんの声でくすって笑いながら答えてた。



「でもさ、10年経ったらわからないぜ?和馬のやつが愛良に求婚するかもしれないぜ?」


「愛良、やっぱりおまえだけだ。おまえだけが俺を受け入れ、理解してくれる。これからも永遠に共に過ごしてくれないか。・・・愛してるよ、愛良」



里奈お姉さんが和馬お兄ちゃんの声で、あたしへの求婚の台詞を想像して言ってる。


宗次お兄さんは横で爆笑してるけど、あたしは顔が熱くなってきちゃった。




和馬お兄ちゃんに言われたわけじゃないのに、本当に和馬お兄ちゃんそっくりの声だから、まるで本当に和馬お兄ちゃんに言われたみたいで恥ずかしくなる。


でも、本当にそう言われたらうれしいなってちょっとうれしかったりもする。




「すごいな、天野さん」


「うん、すごい・・・・・・!!」


「・・・・・・・・・っていうか、おまえはそこでなにやってんだ、愛良?」


突然、頭上から和馬お兄ちゃんの声が降ってきた。


さっきまで里奈お姉さんのところから聞いていた和馬お兄ちゃんの声に、あたしはびっくりして見上げると、そこには本物の和馬お兄ちゃんが立っていた。




「和馬お兄ちゃん・・・!!」


「なんでここにいるんだ、愛良?」



怒るっていうよりも呆れたような、途方にくれたような顔でお兄ちゃんはあたしに聞いてくる。あたしはここに来た目的をちゃんとお兄ちゃんに差し出した。


「これ、忘れてたから届けに」


「あ、携帯。サンキュ。・・・・・・というかおまえ、学校は?」


「今日は創立記念日だもん」


「・・・あっそ」


「あれ?和馬・・・・・・って、え、愛良?!」


「愛良ちゃん?!」



さすがに少し離れたところであたしと和馬お兄ちゃんが話していたら、里奈お姉さんたちが振り向いて気付いてくれた。



・・・っていうか、授業中なのに、こんなに堂々とおしゃべりしてていいの??




「なにしてんだよ、愛良?」


「和馬お兄ちゃんの携帯を届けに来たの」


宗次お兄さんの問いかけにあたしはにっこりと答える。そのあと、その隣に座ってる里奈お姉さんのほうを見た。


「すごいね、お姉さん。いろんな人の声できるんだね」


「あら、もしかして聞かれちゃった?」


ぺろっと子供のいたずらが見つかったみたいに、里奈お姉さんはかわいく舌を出した。






そのあと、授業の途中なのに、和馬お兄ちゃんも宗次お兄さんや里奈お姉さんまで教室を抜け出しちゃった。


しかも、このままあたしと一緒に帰る、とか言ってる。


「いいの?授業は?」


「もう返事したし、大丈夫よ」


里奈お姉さんの答えに、あたしは首を傾げるだけ。それを宗次お兄さんと和馬お兄ちゃんがにやにや笑いながら見てた。




そのあと、ほんとに4人で和馬お兄ちゃんの家まで帰った。


・・・大学の授業って、出席の返事だけすればいいの?


・・・大学のシステムってなんかいい加減だなぁ・・・・・・。





帰宅したころに、そういえば修登お兄さんにお礼を言ってないことに気付いたけど、もう会うこともないから、あたしは心の中だけでお礼を言っておくことにした。




今日はちょっとした冒険と追いかけっこだったけど、すごく楽しいお休みの日になった。






中休憩のような、なんでもない1日ですいません(笑)

ちょっとだけ里奈の特技にスポットをあてたかったんです(汗)

それと、本当は秋ごろに登場予定だった修登まで・・・・。あ、別に修登は紫月が早く出したいと思っている人物ではありませんから!!(酷)

修登の登場が早まったのには、ちょっとした理由があるんですけどね(笑)

タイトルの意味は、愛良が和馬を追いかけてってことですが、別に和馬は逃げてるわけじゃないからちょっと違うかな?!(大汗)

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