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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
12/86

4、正しい連休の過ごし方 <Side 和馬>(中編)






朝早くから大阪へ移動して、テーマパークへ。


テンションが異常に高いのは、ぐっすりよく寝た愛良ひとり。


里奈は今夜のことを心配して緊張している様子だし、俺と宗次は寝不足でふらふらしてる。


夜叉の準備で徹夜なんてよくあることだから、どうってことないけど、里奈が神経質になって心配してる。


今夜の作戦に、里奈が入れないせいもあるんだろうけど。


でも、里奈には里奈でがんばってもらわないといけない。


愛良の気をひきつけておいてもらわないと困る。


愛良に、怪盗夜叉の正体を知られるわけにはいかないからな。







4、正しい連休の過ごし方◎  <Side 和馬>(中編)








愛良からの大ブーイングの末、午後になって俺と宗次はなんとか愛良と里奈をテーマパークに残して、別行動をとれることになった。


今から神戸に向かって、最後の下見といかないといけない。


俺と宗次は顔を見合わせて、にやり、と笑った。


ふたりの間に流れるのは、緊張感ではない、高揚感。


すでに怪盗夜叉として活動するようになってずいぶんと経つが、次第に予告日の緊張感は高揚感へと変わっていった。


今夜もまた、警察をうまくまいて、獲物をとってみせるぞ、という高揚感。


・・・ま、歪んでいることは認めよう。


車を神戸へと走らせながら、俺は里奈の言葉を思い出す。


「怪盗夜叉は世間で何と言われていようと、泥棒は泥棒。犯罪者に違いない」


怪盗夜叉の弟子になりたいと新幹線の中で騒いだ愛良に、里奈が言ったひとこと。


それは、里奈が自身に言い聞かせている言葉にも聞こえたし、俺たちに再認識させようとしているようにも聞こえた。


「犯罪者・・・か。そうだよな」


「え?」


俺のひとりごとに、宗次が聞き返してくる。だけど、俺は小さく首を振っただけで、それ以上は何も言わなかった。






怪盗夜叉が犯罪者であることはわかっている。


それは、怪盗をするときから、覚悟していたことだ。


それでも、俺はどうしても<失われた誕生石>シリーズを集めたかった。


集めなければならなかった。


闇に飲まれ、堕ちることになっても――――――――――――――――・・・・・・・・・。






「和馬!!」


沈んでいく俺の思考を、宗次の言葉が引き揚げた。俺は、ゆっくりとした動作で、宗次を見返した。


「また、どうしようもないこと、考えてただろ?」


「・・・別に」


「まぁったく、どうして和馬はすぐにひとりで抱え込もうとするかね。俺たちを信用できないのか?」


「・・・まさか。信用してるから、夜叉をやってるんじゃないか」


「だろ?だったら最後まで信じてればいいんだよ」


「・・・・・・なんか、無茶苦茶じゃないか?」


「あ~!!なんだよ、せっかく俺が感動的なことを言っているのに!!」


「はいはい。信用してますから、しっかり<仕事>してくださいね~」


俺は宗次の言葉もさらりと流して簡単に受け答えをする。


宗次の言いたいことはわかる。


でも、怪盗夜叉を始めたときから、俺には決めていることが、ある。









異人館は、予告時間までまだずいぶんと時間があるというのに、ものすごい人だかりができていた。


それでも、今日は特別警備ということで、館内に一般客は入れないことになっている。


それを見ていて、昨日のうちに仕掛けをやっといてよかったなぁ、なんて呑気に眺めてしまう。


俺と宗次は、野次馬のふりをしながら警備体制をチェックし、逃走経路を明るい日差しのもとで再度確認した。


怪盗夜叉は警察の誰もが捕獲したい存在みたいで、兵庫県警も力を入れて警備をしている。


せいぜいがんばりたまえ、ってとこかな。


宗次と俺は、いたずらをする前の子供のように、顔を見合わせてにやにやと笑い合っていた。





予告時間から15分前。


俺はすでに怪盗夜叉の衣装で、獲物のすぐそばで待機していた。


なのに、厳重なはずの警備員たちはだ~れも気づかない。


それが抜けてるんだってことに、いい加減気付こうぜ、警察諸君。


<ビール>も館のそばで、仕掛けを発動させるために待機している。


ふたりをつなぐのは、いつも通り、通信機のみ。


『・・・さて、予告時間まで暇だな、夜叉』


<ビール>が呑気につぶやいてくる。


・・・だから、通信機を暇つぶしに使うなって何度言えばわかるんだ、あいつ。


「油断は禁物だぜ、<ビール>」


それでも応じる俺も馬鹿ってことかな。


相当暇を持て余しているのか、<ビール>は館のまわりの野次馬を逐一観察しながら俺に報告してくる。


野次馬を観察する癖は、<ダージリン>のせいでできた癖ってとこかな。


彼女の特技をいかすには、まずじっくりと人間観察をしないといけない。


<ビール>の報告を聞きながら、俺は<ダージリン>の教育の賜物を垣間見た気がして笑いをこらえていた。


すると。


『・・・<ビール>、すごい人だかりみたいね』


通信機の向こうから、今回の作戦にはいないはずの<ダージリン>の声が聞こえてきた。


『<ダージリン>?!なんで?!』


「・・・大方、愛良に怪盗夜叉の中継が見たいと騒がれて、携帯で見てるってとこか?」


驚く<ビール>と違って、俺は冷静に分析する。


『・・・そうよ、正解。さすがね。・・・準備は平気?』


くすっと笑って、<ダージリン>は答える。同時に、心配そうに尋ねてきた。


遠くの地ではらはらと心配する彼女のために、俺は明るく返した。


「大丈夫。時間になればすぐに獲物を盗み取るさ」


『・・・そう。じゃぁ、気をつけて。しっかりサポートしてね、<ビール>』


『余裕、余裕。テレビでよく見てろって』


<ビール>も陽気に返答する。


大丈夫。俺もあいつも、完璧な打ち合わせでここに挑んでいるわけだから。







『・・・・・・時間だ』


<ビール>の一声。




俺は今、<天使の宝剣>が守られている檻の<真上>にいる。そう、つまりは、警官たちの頭上。屋根からぶらさがるようにして、そこにいるわけだ。


予告時間の6時半になり、<ビール>の仕掛けが発動する。


報道陣のカメラが、どうやって怪盗夜叉がこの<天使の宝剣>を盗むのかと、そこに集中する。


すると、その短剣がみるみると膨らんでいくのだ。


はじめは気のせいかと思うほどゆっくりと。


けれど、それはじわじわと大きさを増し、膨らんでいく。


やがて、風船の勢いで膨らみ始めた<宝剣>に、警備していた警官たちが慌て始める。


それもそうだ。


誰も触れていないはずの檻の中の<天使の宝剣>が、突然膨らみ始めたんだからな。


くすくすくす、と俺は彼らの頭上で含み笑いをもらす。


じつは、こういうときが一番楽しかったりする。きっと<ビール>も今頃、テレビの中継を確認しながらにやにやしているに違いない。





俺は慌てる警官の中央で、檻の中でたしかに膨らんでいく<天使の宝剣>を見守っていた。


そして、バンっという大きな音と共に爆発し、あたりに煙幕を張ったのを見計らって、俺は獲物のそばに降り立った。


じつは、膨らんで破裂した<天使の宝剣>は、宗次お手製の偽物の風船。


その風船の中に、本物の<天使の宝剣>が隠れているわけだ。


煙幕で視界が悪い中、俺はわずかの時間も考えることなく、行動にうつす。


二重構造になっている檻の上からも横からも、<天使の宝剣>を盗みだすことは不可能。


では、<下>からは?





床下のタイルを一枚外し、そこからできた床と檻との隙間にワイヤーを入れ込む。


特殊加工されたこのワイヤーは、俺の意のままに動き、<天使の宝剣>を絡み取る。それは素直に床に降り立ち、するすると俺の手の元へと引きずり込まれていく。


そして、タイルの外れた床下と檻との隙間も難なくクリアし、獲物は俺の手の中に収まった。


ほっとしている場合ではない。


煙幕がそろそろ切れかかっている。


すぐに床下を元に戻し、俺は<天使の宝剣>を片手に、忌々しい檻の上によじ登る。


さぞや、檻の上に降り立ったかのように。


煙幕がはれるのと、俺が檻の上でスタンバイするのはほぼ同時だった。





先ほど奪った<天使の宝剣>を、カメラに向かって差し出す。


同時に、沸き起こる歓声。


野次馬のみなさんも喜んでくださっているようでなにより。


マスコミのみなさまも、カメラを撮影すること以外、仕事を忘れているようで。


ちゃんと中継もしてくれなきゃ、テレビの向こうの<観客>は、事情がわかりませんよ?




「みなさま、お集まりいただき、ありがとうござます」




紳士の姿勢を崩さぬように、俺は檻の上で優雅に腰を折る。


そんな悠長なことができるのも、周りの警官が突然のできごとに放心してくれているからだ。



「<天使の宝剣>、たしかにいただいていきますね」



俺はまた、しつこいほどに<天使の宝剣>をカメラのまえに突き出す。


怪盗夜叉が<失われた誕生石>シリーズのひとつを手に入れた、と<組織>のやつらに見せつけるために。






マスコミを利用するしかなかった。


やつらを俺たちに引き付けるには。


だから、まどろっこしいやり方で、怪盗夜叉は<獲物>をいつも盗み取っているのだ。


派手なパフォーマンスでマスコミを騒ぎ立たせて。





「なにしてるんだ、やつを捕まえろ!!」


正気に戻った警部らしきえらそうな警官が、みなに号令をかける。


俺は、警官たちが一斉に飛びかかってくるのをするりと避けて、天井をつたって窓の外を目指す。


じつは、天井のあちこちに張り巡らしておいた、頑丈なワイヤー。これらを使えば、それをたどって移動するのは、俺にとっては朝飯前。


窓の外から這い出て、館の屋根の上によじ登ると、綺麗な神戸の夜景が視界に広がる。




「おぉ、夜景が綺麗だなぁ・・・」


『呑気なこと言ってないで、夜叉、早く移動しろ』


<ビール>から呆れた声で指示が飛んでくる。


「はいはい、仰せのままに」


次々とワイヤーを飛ばして俺は逃げ道を確保する。


するするとそれをつたって屋根から飛び降り、木々に隠れるようにして、館のうしろに控える森林に姿を隠す。





<天使の宝剣>を手に入れた。


第一段階はクリア。


・・・お次は・・・・・・・・・。




「・・・・・・っ!!」


パンっという高音と共に、突然ワイヤーが千切れた。がささっと音を立てて、俺は地面にたたきつけられる。


ワイヤーは切れたんじゃない、切られたんだ。


「・・・・・・やはり、いらっしゃると思ってましたよ」


幸い、木々に救われて俺は打ち身程度で済んだ体を起こし、軽口をたたく。



『・・・まさか、<組織>のやつらか?!』 


<ビール>が尋ねてくるが、俺はそれに応じている余裕はない。



闇夜に隠れるようにして、悪意ある視線が俺を突き刺す。


ちりちりとした殺気。


見誤れば、撃ち殺されかねない。


先ほどワイヤーを切った高音の銃声からして、サイレンサーをつけた銃だろうから、銃声で場所を特定するのが難しい。



「・・・それを、こちらによこせ」


闇から聞こえる声。


俺は、危険だとわかっていながら、その声に応じることにした。


怪盗夜叉として。




「この<シリーズ>を手に入れてどうされるおつもりですか?<解読>することもできないというのに?」



挑発的に返せば、再びパンっという音とともに、一瞬で真横の木の幹に穴が開く。


銃弾が撃ち込まれたのだと、見なくてもわかった。俺はただひたすらに、その気配だけを追いかける。




「・・・黙れ。貴様はおとなしくその<シリーズ>を渡せばいいのだ」


「そうはおっしゃられても、お姿もわからないままでは、お渡しすることもできませんが?」


仮面で表情を隠しているのを幸いに、冷や汗をかきながらも、すまして答える。


通信機の向こうでは<ビール>がなにかを叫んでいる。


『やめろ、無茶をするな、夜叉!!作戦通り、逃げろ!!』




逃げろ?


いやだ、せっかく<奴ら>が俺の前に現れている。この手にある、<シリーズ>ほしさに。



俺は、無茶を承知で、暗闇の森林の中、命がけの賭けをすることに決めた。


怪盗夜叉として、<謎>を暴くために。









怪盗夜叉サイドともいえる、中編です。

たぶん、愛良サイドと見比べると、ちゃんとできて・・・・・・・るかな・・・・・??(おい)

和馬と宗次がやった大阪→神戸移動は、紫月も一度やったことのある移動です。

神戸の異人館を訪れたときは、まさかここをネタにする日が来るとは思ってなかったですけどね・・・(汗)

あ、でも、こちらの異人館はパラレルで!!(当たり前だ)

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