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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
13/86

4、正しい連休の過ごし方 <Side 和馬>(後編)





「・・・姿を現さなければ渡せない、か。なるほど、道理だな」


重々しいその口調と共に、相手は姿を月夜に現す。


夜叉と同じ、闇に紛れた漆黒の姿。その手にあるのは、鉛の武器。


暗闇で必要なのかどうか疑わしいサングラスをかけたまま、男は銃を俺に向けた。


「さぁ、その<シリーズ>をこちらに渡してもらおうか」


「・・・・・・あなたがたは、この<シリーズ>を集めてどうされるおつもりです?」


「貴様が知る必要はない」


俺が丁重に尋ねたところで、相手はばっさりと切り捨てる。



銃口はこちらに向いたまま。


こいつの銃の腕は、サングラスをつけたまま暗闇でワイヤーを銃弾で切ったところからして、あなどれない。





俺は急ピッチで頭を回転させながら、なんとか俺の知りたいことをこいつから聞き出そうとあがいていた。










4、正しい連休の過ごし方◎   <Side 和馬>(後編)








「知る必要はない?そうでしょうか?もしもわたしに不必要なものであれば、わたしは<シリーズ>の収集から手を引くかもしれませんよ?」


「ほぉ・・・・・・?」


「<失われた誕生石>シリーズ。あなたがたはなぜ、幾年もの時をかけて、揃えようとされているので・・・・・・」


俺の言葉は最後まで続けることはできなかった。


再び、銃声が轟いだからだ。


それは俺の袖の布地を掠め、マントに穴をあけた。



『夜叉!!!』


『<ビール>、なんとか合流できないの?!』


銃声が通信機からも聞こえたのか、<ビール>と<ダージリン>が慌てる声が聞こえる。


だけど、俺は目の前の男と対峙することに全神経を使っている。




「ごちゃごちゃ無駄口たたかず、さっさとそれをよこせ」


「短気な方ですね。・・・そんなだから、<お月さま>にも嫌われるんですよ」


くすり、と俺は笑う。


この挑発に、この男はどう出るか。


俺の言葉の意味を悟ったか、男も不敵に笑う。


「・・・・・・貴様、どこまで知っている?」


「さて、どうでしょう?<お月さま>だけが知っていますよ」


俺はくすくす笑いながら、頭上に輝く月を指さした。




・・・そろそろ引きどきかな。


ここに長くいれば、いずれ警察の連中がここにかけつけてくるし、こいつからは引き出せるものは少なそうだ。


それに、これ以上の銃声は警察を誘導しかねない。




「交渉は決裂ですね。<シリーズ>は怪盗夜叉がいただいていきますよ」


すばやくワイヤーを木々に放ち、それをたどって俺は再び闇に姿を消した。


「くそ、待て!!」


いくら夜目が効いても、月光から完全に遮断された森林の中に紛れてしまえば、そこは本当の闇。


そこに全身黒装束の夜叉が潜んでいても、見えるはずがなかった。


『夜叉、大丈夫か?逃げられたか?!』



作戦通りの逃走経路に軌道修正し、一息ついた俺は、やっと<ビール>のその問いかけに答える気になった。




「あぁ、大丈夫だ。・・・悪い、ちょっと頭に血が上った」


『・・・まったくだ。心配かけやがって。待ってろ、俺もそろそろ待ち合わせ場所に着く』


『よかった、無事なのね。うまくかわせそう?』


ほっとした声で<ビール>と<ダージリン>が声掛けてくる。


あぁ、悪いことしたな、と俺も改めて反省する。



ひとりで焦ってもしょうがないのだ。


俺の、俺たちの持っている手駒は少ない。それをうまく利用して、<奴ら>から<謎>を引きださないといけないのだから。




「あぁ、もうあいつから遠ざかったし。今夜は他の気配もなさそうだしな」


<組織>の奴らが襲ってくるのは単独だったり複数だったりさまざまだ。


大概大きい捕り物のときは、複数で襲いかかってくるときもあるが、今日は幸いとあいつひとりだけだったらしい。


『油断するなよ』


『無理は禁物よ、や・・・<アールグレイ>』




<アールグレイ>?


<ビール>のあとに声をかけてきた<ダージリン>の俺を呼び掛けるコードネームに、一瞬首を傾げた。


<アールグレイ>というコードネームはたしかに俺のことだが、なにもわざわざ・・・・・・。


あ、そうか。


「・・・愛良がそばにいるから、夜叉で呼ぶわけにいかないのか」


罠を張り巡らせた逃走経路で、俺は余裕の笑みを浮かべる。


これらの罠は、<組織>の連中対策でもあるし、夜叉を追いかける警察連中対策でもある。


<ビール>と一緒に施した罠だ。


俺は、先ほどよりも安心して緊張感を欠いていたのかもしれない。




だから、油断して、反応が遅れた。



――――――――――――バンッ!!!




サイレンサーで抑えられていない、銃声。


その銃弾が、俺の左腕を抉った。




「ぐっ・・・・・・!!」


『夜叉?!』『<アールグレイ>?!』


<ビール>と<ダージリン>が、銃声に続いた俺の呻き声に、叫びだす。


俺も慣れていない痛みに、なんとか叫ばずにいるので精一杯だ。


背後に殺気を感じ、咄嗟に避けたからなんとか銃弾は腕を掠めるだけで済んだ。


だけど、俺を確実に狙っていた銃弾は、軽く掠めるだけには済まなくて。俺は思わず撃たれた左腕を抱えてその場に崩れた。




なんで。


ここは今、月光も届かない暗闇なのに。



「闇夜に紛れたところで、それを見通す<メガネ>があれば、そんなもの無意味なんだよ」



先ほどの男とは違う声。


ふたりいたのか。



「・・・それはそれは、迂闊でした」



虚勢を張って、俺は声を震わせることもなく、しゃあしゃあと返答する。


こっちの負傷など、絶対に悟らせるものか。



「<ニセモノ>のくせに、生意気だな」


姿を見せたその男にもサングラス。そうか、あのサングラスは闇を見通すのか。


「<ニセモノ>とはお言葉ですね。わたしはまぎれもなく、正真正銘の怪盗夜叉ですよ」


「だが、<シリーズ>が何を示すかも知らない、<月>に見放された<ニセモノ>だろう?」


男の言いたいことが分かり、俺は先ほどの会話が盗聴されていたことを悟る。


なるほど、こちらも会話を通信しているように、そっちもそうしてたってわけか。


どうでもいいけどな。




「<シリーズ>が何を示すものであるかはともかく、<解読>することはできますよ。・・・あなたがたと違ってね」


俺は無事の右手で獲物を放った。


怪盗夜叉の武器でもある、ダーツの矢だ。


・・・大概にして、普通のダーツの矢でもないけど。


<ビール>の特殊加工済みのダーツの矢は、まっすぐに男に向かっていくが、銃でそれを撃ち落とされる。


それは、計算内。


ボンっという音と共に、ダーツの矢は弾けて煙幕を放つ。


「なっ?!」


闇を見破る<メガネ>も、煙幕と一緒となっては、俺を見つけるのにも時間がかかるだろう。


俺はすぐにワイヤーを再び巡らせ、そこから逃げる準備にはいる。




「・・・くそ、覚えてろよ、<ニセモノ>め!!」


煙幕の向こうで、男が叫んでいる。




「いつまでもちょろちょろとうろつくお前に<黒薔薇>を捧げてやる。墓前に黒薔薇を捧げられたくなかったら、とっとと<シリーズ>から手を引くんだな」




何の忠告だかさっぱりわからなかったが、どうしても夜叉のプライドとして、俺は一言添えずにはいられなかった。


「おやおや、墓前に花を添えてくださるとはご親切に。御忠告感謝いたしますよ」


ワイヤーで体をつるしながら、俺は男に向かってそう<挨拶>だけして、さっさとその場を離れた。


いつまでも森林の中にいるほうが<組織>の連中の気をひきかねない。



それは<ビール>との作戦のひとつで、俺は森林の中の罠をすべて発動させてから、もう一度異人館に戻った。


<天使の宝剣>のあった館とは違う館だ。






警察は銃声が何度も響いた森林の中に入り込んでしまって、いまや異人館は閑散としている。


俺は息を荒くさせながらも、なんとか<ビール>との待ち合わせ場所にたどり着いた。


「・・・夜叉!!」


ふらふらになりながら姿を現した俺を見ると、<ビール>が慌てて俺に駆け寄ってくる。


「・・・撃たれたのか?!・・・くそ、だから注意しろって・・・!!」


悪態をつきながら、彼は俺の衣装を解いていく。


俺も朦朧とした頭でなんとか着替えをしていく。このままでは移動することもできない。


「・・・あ、そうだ」


着替えも終わったところで、俺はふと、思い出したことがあった。


「どうした?」


「・・・愛良と、花火を見るんだっけ?今何時だ?」



<組織>の連中との攻防で時間のことを忘れていた。


たしか、8時半に花火があがると愛良は言っていたが・・・・・・。



「その怪我で何言ってるんだよ。愛良のことは誤魔化しておくから、おまえはさきにホテルで休め」


「でも・・・・・・」


「怪我を適切に処置できる実も今はいないんだ。頼むからおとなしくしててくれ」



懇願してくる宗次に、俺もそれ以上は何も言えない。


ふらふらする頭を、なんとか縦に振ることだけはできた。





そのまま宗次の運転で俺たちは大阪に戻る。俺は撃たれた左腕を抱えたまま、助手席で痛みに耐えていた。


銃弾はたしかに掠っただけだが、そこから熱を発していて熱い。焼けつくような痛みに、俺は小さく呻きながら耐えていた。


「痛むか?・・・実から渡されていた最低限の救急道具はあるけど・・・・・・」


運転席から宗次が心配そうに俺を見ている。俺は、なんとか彼には微笑むことで答えようとした。



「だ・・・大丈夫・・・。弾は掠っただけなんだ。こんなこと、前にもあったろ?」


「でも、そのときはすぐに実が手当したんだ。・・・だけど今回は・・・」


「自分でできるさ。一応、看護士の・・・・・・息子だしな」


・・・自称看護士だけど。


気休め程度に俺は笑いかけて、宗次を安心させようとする。だけど、その間にも、左腕をおさえるタオルが赤く紅く染まっていく。


掠っただけだと思ったのに、意外と出血がひどいな。


血が足りないせいか、体も重い。






「・・・おい、大丈夫か?」


「あぁ・・・・・・」


意識はあるんだということだけ伝えようと答えるその行為さえ、だるい。


こりゃ、早く寝た方がいいな。







宗次がチェックインをすませてくれて、抱えられる様にして部屋に入る。


傍から見れば、酔っぱらいを抱える友人、といった図に見えたに違いない。


「傷、見せてみろ」


宗次が実に渡された救急キッドを広げながら青ざめて言う。


そいえばこいつ、高いところと、血も苦手だっけか。


「いい。自分でやる」


俺は宗次から救急セットを奪って、すばやく傷を負った左腕を外気にさらした。


そこはまだ出血がとまることなく、熱を帯びていた。


今夜あたり、発熱するかもな。




軽く血を拭き取って、俺は小さなため息と共にきつく腕をしばりあげて簡単な応急処置をする。


どうせ明日には東京に帰るんだから、帰ってから実にもう一度診てもらえばいいや、といった感じの応急処置だ。


そばにいる宗次は、なるべく俺の傷は見ない様にしながらも、タオルを片づけたりお湯を用意したりと彼なりに忙しく動いてる。


俺も余裕があればいつものように、宗次をからかったりしたいけど、今は余裕はない。


応急処置だけすますと、俺は倒れこむようにしてベッドに横になる。


「なにかほしいものとかあるか?」


「・・・いや、平気だ・・・。・・・ほら、行けよ。愛良との約束の時間、だろ?」


時計はすでに8時を回ってる。


宗次はうなずき、名残惜しそうにしながらも部屋を出て行った。



ひとりきりになり、俺は殺していた呻き声をため息と同時に吐き出しながら、気絶するように意識を手放した。








「・・・和馬?」


薄く眼を開ければ、そこには真っ青な顔をした里奈の顔があった。


「里奈・・・?」


なんでそんな表情をしているんだ?


聞こうとして思い出す。


あぁそうか、撃たれたんだっけ。


・・・って!!!



「里奈、愛良は?!・・・・・・いててて・・・」


「いきなり起きあがっちゃだめよ。大丈夫、愛良ちゃんには、ちょっと買い出しに行ってるって言ってあるから」


「里奈もずっと心配してたんだ。・・・・・・なかなかおまえも目を覚まさないから」


「・・・あぁ、そっか・・・。いや、平気だよ。痛みもさっきほどない」


痛み止めの薬が効いてるだけだろうけど。


それでも笑って答えれば、里奈も宗次も心配そうにしながらもほっとした様子で顔を見合わせる。


すると、ほぼ同時に、里奈と宗次の携帯が鳴った。




「・・・はい?あら、愛良ちゃん?」


里奈への携帯には愛良からの電話のようで、しきりに宥めたり寝かしつけようとしているようだったが、とうとう最後には観念してすぐに部屋に戻ると告げていた。



・・・今更だけど、愛良って無敵だよな・・・。



「はぁ?!マジかよ?!」


宗次の電話は誰からなのか、いきなりあいつは叫んだ。


「いや・・・悪くない、悪くないどころか、うれしいけど、いきなりで驚いて・・・え、部屋?あぁ、部屋は、1203号室だけど」


「ちょ、宗次?!」


あっさりと俺たちが今いる部屋を告げた宗次に、俺も里奈も焦る。


いったい携帯の相手は誰なんだ?!


「おぉ、助かる。じゃぁ、待ってる」


上機嫌で携帯の通話を切った宗次に、俺も里奈も怪訝な様子で見る。宗次は浮かれた様子で俺たちに言った。



「不機嫌な助っ人が今からここに来てくれるぜ!!覚悟しとけよ、和馬」


「・・・は?」


その答えを宗次から聞く前に、部屋のインターホンの音が聞こえた。


宗次がいそいそと部屋を飛び出していく。


・・・こんな夜更けに、誰がこのホテルに?!



俺と里奈が緊張して、宗次の連れてきた相手を迎えたが、その予想外の人物に、俺は思わずすっとんきょんな声をあげた。



「み、実?!」



東京にいるはずの実が、なんでここに?!


「・・・通信機で夜叉のやり取りを聞いてたんだよ。そしたらもう、いてもたってもいられなくなったんだよ。あんな会話を聞いて、研究に集中できるわけないだろ。・・・ぎりぎり新幹線にも間に合ったしな」



不機嫌に事情を話しながら、実は慣れた手さばきで乱暴に俺の傷口を診る。


それはもう、泣きそうなくらい乱暴な治療で、適切で素早いんだけど、なんというか、優しさが微塵もない・・・・・・。


「いてっ。いてててて・・・実、もうちょっと優しく・・・・・・」


「自分で危険に首を突っ込んでおいて、自業自得だろ?」


あ、ほんとにすべてのやり取りを通信機で聞いてたのね・・・・・・。


俺は黙って実の荒い治療に耐えることにした。


それを安堵した様子で眺めていた里奈は、愛良のもとに戻った。





俺は実の適切な処置と、渡された解熱剤のおかげで、一晩の発熱だけで事なきを得た。





次の日、なぜか実が大阪にいることに愛良が驚いていたが、


「仲間はずれが寂しくてついてきちゃった」


なんていう、気持ち悪い実の言い分に、彼女はあっさりと納得したようだった。


「な~にが寂しくてだか」


聞こえないと思ってつぶやけば、しっかり聞こえていたようで、実は俺の左腕を叩きやがった。俺は悲鳴をあげる寸前の痛みに、なんとか堪えた。


・・・あぁ、本当に、いい仲間に恵まれたもんだ・・・・・・。








連休終わりました!!

今回は愛良とのからみが全然ないうえにシリアス要素が多かったです・・・。

でも、組織の人間とのやりとりは欠かせない会話だったもので、やれてよかったです♪

夜叉がダーツの矢で戦うシーンは、今後もっと増やしていければいいなと思ってます。

わざわざ東京からあわてて実がかけつけるのは、もはや彼の愛情ですね!!

さて、連休終わって、カレンダーを見てみると、次回は「あの話題」になるわけです。

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