35 異世界の猿
領主と話し合いを終えたあと福幸たち含めた冒険者と騎士の混成軍は帰路に着く。
今回、騎士たちは何もしていないように思えるかもしれないが最初の斥候やアフターケア、もしものときの街への連絡役などの細々としたところを請け負っていただけである。
まぁ、主な仕事は領主の安全確認だが。
「おい、君。」
「あ、なんですか?」
「いや、戦うところを見させてもらったが面白い戦い方をすると思ってな。」
「面白い戦い方……?」
「そうだ。私が見るからに……正統派とされている王国剣術とは違うだろう。」
「そうかぁ? 俺は結構似てると思ったけどなぁ。」
「ん? ああ、騎士の剣としてはどちらも大差無いからな。」
「騎士の剣? なんですかそれ?」
「軍団戦に向いてるってことだぞ? 俺達冒険者は少人数での連携が基本に対して騎士たちの戦い方は対人が基本。とはいえ魔物討伐とかも結構行ったりするけどなぁ。」
「そういうことだ。我々騎士はそれこそ数百人とかで連携し戦うのが主な仕事だ。下手な行動を取らぬよう大振りの戦い方はしていない。」
「へ、へぇ。」
「それで、君の戦い方に戻るのだが……、やはり珍しいな。西方の剣術にも近いように感じられる。」
「いーや、東方だね!! 東方の剣術にかなり近い。」
(あー、多分不屈の騎士さんの剣術をある程度、受け継いだ影響だよな……コレ。)
福幸が正解である。
不屈の騎士は一騎当千万夫不当の人物であった。
そんな彼は、実はかなり戦人にしては不器用な剣士でもあった。
そんな彼が何故、一騎当千万夫不当の人物であったのかというとありとあらゆる世界に散らばる剣術の型を納めたからだ。
当然完璧ではないが、それを補ってあまりあるほどの柔軟な思考で手を変え品を変える。
そして、決して諦めない。
彼の死に際は見事であり、戦場でその体が無数の魔法で焼き尽くされ貫かれ溶かされて尚倒れなかったのだ。
たとえ死ぬとしてもこの先には通さない。
我が祖国を守るために死ねるはずがない。
騎士という名に恥じぬ人物だった。
その人物が、生涯使っていた剣がこの不屈の魔剣である。
元は魔剣ではない。
ただのとある鋼で作られた片手剣だ。
それを不屈の騎士である彼が生涯使い続けその剣を構えて死んだときに彼の武勇とその意志が剣に受け継がれたのだ。
故に、剣姫ローズが彼と構えている剣を見たときこう名付けた。
不屈の魔剣と。
彼が、戦い終わり死んでから約100年後のときだった。
彼の姿はもうそこにはない。
彼の気迫で作られ続けていた魔力は消え去りその肉体は風化し崩れ去った。
ただそこには、分かるものには分かる圧倒的なまでの意志がまだ宿っていると言われている。
「うっせぇ!! 女神教の騎士なんぞ認められっか!!」
「それを言う貴様みたいな十二神教のものは信用ならんのだ!!」
「な、何の話ですか?」
「「こいつの話が気に食わん!!」」
(子供かよ……)
不屈の騎士の話をしている間にこの二人は喧嘩をしていたようだ。
「おい、貴様。我々の行動の邪魔をするのであれば即刻その剣を捨ててもらおうか。」
そう言って先頭にいる一際背が高い騎士がこちらを睨んでくる。
「「す、すいませんでしたぁー!!」」
大人しく二人も頭を下げている。
福幸も同じように頭を下げる。
「全く……、騎士団長様に目を付けられるなんてなぁ……。はぁ。娼館に行きにくくなったぜ……これも全部騎士のせいだ。」
「どれもこれも貴様のせいだぞ……私も騎士団の中での立場が危うくなるではないか。」
「「なんだとっ!!」」
ギロッ!!
「「…………」」
ここまでくれば仲がいいのかもしれない。
「まぁまぁ、というか一つ疑問なんですけど女神教ってなんですか?」
「ん? 唯一神である女神教の話を知らないのかい? その世界を創世から見守る女神様を称える宗教だ。」
「それは嘘だって!! ゼッテーに十二神教のほうが正教なんだよ!!」
そしてまた、喧嘩を始めた二人は騎士団長ににらまれる。
今度こそ静かにあるき出した。
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「新しい任務ですよ? シスター・キラ?」
「なんの任務ですか?」
「教会の宿敵、我が女神様の命を脅かすものの抹殺です。」
「新しい大罪魔が出たというのですか……っ!?」
静かに驚く黒い修道服を着た女性。
顔は布で隠されており目元と口元だけが空いている。
「今度の大罪は暴食です。」
「そうですか……、言ってまいります。教皇様」
そう言うと、彼女は部屋を出ていこうとする。
「あと、分かって入るでしょうが……異世界の猿どもにそのことを気取られてはいけませんよ。」
「承知しております。」
そう言うと、彼女は今度こそ出ていった。




