閑話 ある神官side
少し時間が遡ります。
「……本当に聖女なのか……?」
皆様初めまして、私はハラディール国の国教であるザラブ教の一神官です。名前などこの際ですから割愛いたします。副司祭様の元で勤めに励んでおります。
副司祭様は信者の事を第一に考える心優しい方で、私も尊敬しております。ですが1つ難を言えば、お顔がかなり……多少…いえ、少々強面なのが残念と言うか何と言うか……。
今、私の目の前でその副司祭様が眉間の皺をいつも以上に深くしておられます。正直怖いです。
「この鑑定結果では聖女かどうか判らんではないか」
「確かにこの様な事は初めてでございます」
つい先日、王太子殿下からの強い要請で古の召喚術にて聖女召喚を執り行い『ユメミヤ ヒメカ』という少女が召喚されました。
その聖女様のお力を測るべく鑑定球を使用したのですが……。
夢宮姫華(17)
性別 女
種族 人族 異世■人
HP 73/73
MP 459/459
スキル ■国の■女
「所々文字が読めんではないか」
「やはり無理な召喚の弊害でしょうか?」
「そうかも知れんな……もう一度鑑定すべきだな。今度はもっと詳しく鑑定できる最上級の球を用意してくれ」
「取り寄せに時間がかかりますが」
「構わん。嫌な予感が……いや、気のせいだろうが……頼む」
「畏まりました」
「それでそのむすm……聖女様の様子は?」
「王太子殿下がお相手をなさっておられます」
「またか!毎日ではないか!」
「余程お気に召されたのかお側から離そうとなさいません。しかも殿下の側近達までもが一緒になって囲っておりますので誰も何も言えず……」
「王太子殿下にも困ったものだ」
確かに聖女様は小柄で庇護欲を掻き立てる容姿をなさっておられますが、王太子殿下のみならず側近である宰相子息や宮廷魔術師長子息、騎士団長子息まで聖女様に心酔されているとか。
王太子殿下は「これこそが聖女である証だ!読めぬ文字は『救国の聖女』で間違いない!」の一点張り。
「これでは聖女による『祈り』が満足に出来んではないか!」
「今はまだ余剰分がありますので大丈夫では?」
「これ程の魔力を持っておるのだ。使わぬ手はない!」
『祈り』――これは王族や上流貴族の間では公然の秘密なのですが、王都を覆う魔法障壁は宮廷魔術師や神官、信者達の魔力を元に張られているのです。もちろん私の魔力も使われております。
魔方陣が配されている礼拝堂で祈ると魔力の1割が吸収される仕組みになっております。一晩寝れば回復する程度です。
「確かに魔力の高さは宮廷魔術師を越えておりますからね」
「少しでも信者達からの吸収を減らせると思ったが、これでは意味が無い……司教様から殿下へ意見して戴かねば」
「では私は鑑定球の手配をして参ります」
「出来るだけ早く頼む」
◇◇◇
「聖女ヒメカ、そなたといるのが楽しくてたまらん」
「ホント~?姫華も楽しいよ~」
鑑定球の手配をするため管理棟へ移動中、中庭から賑やかな声が聞こえてきました。どうやら王太子殿下と聖女様のようです。
「王太子様~姫華のこと聖女じゃなくヒメって呼んで欲しいな~」
「そうか。ではヒメ、俺のこともグスタフと呼んで構わんぞ」
「グスタフ様~姫華嬉しい~」
お二人は手を取り合って東屋へ向かって行かれました。が、私は物陰から見えた光景に目を疑いました。
――王太子殿下から見えない位置で聖女様がニヤリとした笑みを一瞬浮かべた事を――
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