9)変わった令嬢
本日、一つ目の投稿です。
私と彼が、しばし、たたずんでいるうちに、コンクールは終わったようです。
・・と、なにやら、足音がします。
客席通路へ向かうほうから、かわいらしい女の子の姿が見えました。
慌てたような足音は、彼女のもののようです。
「あ、ソラ様ぁ」
と彼女は言いました。
ソラ様のお知り合いなのでしょう。
私が、こっそりソラ様のご様子を見ると、彼は、きょとんとした顔をしています。
――あら? お知り合いじゃないのかしら?
疑問に思っていると、彼女は、
「元気だして、ソラ様。
少し失敗してしまったかもしれませんけれど、優しい旋律は、本当に、素敵でしたわ」
と言いました。
私とソラ様は、びっくりしてしまいました。
だって、ソラ様は、少しも失敗などしなかったのですから。
「あ、あの、すみませんが、なにか、人違いじゃないでしょうか。
ソラ様は、失敗など、しませんでしたわ。
完璧で、本当に素晴らしかったです」
と、私は、思わず、口を挟んでしまいました。
「え・・?」
と、彼女は、私の方に振り向き、
「あなた、なにかしら?
邪魔しないでいただけないかしら?」
と、早口の小声で言いました。
おそらく、私にだけ、告げたつもりなんでしょうけど、ソラ様は、すぐ隣にいたので、彼女の声が聞こえたようです。彼は、途方にくれたような顔をしています。
「あの・・でも・・私は・・」
私は、なんと言っていいのか、判らなくなってしまいました。
彼女は、私を一睨みしてからソラ様のほうに再度向き直りました。
「きっと、次は、大丈夫ですわ。
緊張を乗り越えるコツがあるんです。
たくさん、たくさん、練習をしたことを、自分の自信にして。
無心に弾くことを楽しんで。
審査員に戦いを挑むような心意気で臨むんですわ」
彼女は言いたいことを言い切ると、かわいらしい顔に慈愛に満ちた頬笑みを浮かべました・・まぁ、言動は変ですが、きれいな女の子です。
「そう。ありがと」
ソラ様は、いかにも社交辞令という感じで、にっこりしながら答えました。
ソラ様の対応がじゃっかん冷たくなるのも仕方ありません。だって、彼女は、きっと、ソラ様のピアノを聞いてないはずです。
ソラ様は、多少は、緊張されたかもしれません。でも、その緊張をしっかり乗り越えて、演奏を成功させたのですから。もしも演奏を聴いたのなら、「失敗した」などという言葉が出てくるはずありません。
女の子は、満足げに、
「私は、レミ・キイノよ」
と言いました。
・・なんと言いますか・・あまり、礼儀を知らない子のようです。
どうして公爵家子息の前で、淑女の礼をしないのでしょう?
ふんぞり返って名乗った様子は、いかにも無作法に見えました。
もしかして、王族? なわけないですよね、見たところ、そばに侍女すら居ませんし。
ソラ様はレミ嬢の名乗りには答えず、「あ、そろそろ行かないと・・」と、私の手をとりました。
「一緒に、観客席の方に行きませんか」とソラ様が言ってくださったので、ご一緒しました。
レミ嬢は、ぽか~ん、とあきれた顔をしてから、後について歩いています。きっと、私たちと同じく、観客席のほうへ行くのでしょう。
後ろを歩いているレミ嬢が、「変ね。セリフを間違えたかしら」とか、「ちょっと迷って遅れたのがまずかったのかしら」とか、「コンクールが違ったのかしら」とか、ぶつぶつ言っています。
そういえば、このコンクールのあと3週間後くらいに、もうひとつ、大きなコンクールがあります。
また午後8時に、今日二つ目の投稿をする予定ですm(_ _)m。




