番外編)メイベル妃とBL物語
少し付け足しの番外編です。
なにとぞ生暖かい目で見てください。
「恋するピアニストの物語」の
24話「聖女たち、その後」をご参照いただければより判りやすいかと思われます。
m(_ _)m
ソラと結婚してから1年と8ヶ月が過ぎたころ。
私はキースレア帝国でのリサイタルを行うことが出来ました。
小さな息子は、まだ生後1年にも満たない赤ちゃんですので、色んな意味で大変と思ったのですが、ソラが全面的に支えてくれました。
キースレアの荒れ地で聖女の聖歌を歌った縁で、私は声楽家として、キースレアで有名になることが出来ました。これは、ソラとシオン殿下のおかげですね。それで、リサイタルが叶いました。
リサイタルは、小さなものでしたが、皇太子妃のメイベル妃が来てくれました。
リサイタルのあと、私は、メイベル妃に喚ばれました。
「カリンだけで、こっそり来て」
というご要望でしたので、今日の訪問は、ソラに息子の子守をお願いして、私だけです。
メイベル妃には、いつも、興味深いお話を教えて貰えますので、楽しみですわ。
メイベル妃の瀟洒な庭に案内されると、私と妃は、挨拶もそこそこに、茶会のテーブルでお喋りを始めました。
「カリン、もっと私に近づいて。
今日は、内緒の話があるのよ」
とメイベル妃。
「なんでしょう?」
私は、言われるままに、妃のそばに寄り添うように座りました。
「あなた、BLって言葉、覚えてる?」
メイベル妃が、こっそり「覚えてる?」と尋ねるということは、前世での記憶に関してでしょう。
「いいえ・・判りませんわ」
私は申し訳なく応えました。
「そうよね。カリンの記憶は、おぼろげだって、言ってたものね。
あのね、私は覚えてるのよ。
それでね・・えぇと・・少し話しづらいのだけれど。
これは、ホントに、秘密の話しよ?」
とメイベル妃。
「ええ。ぜったい、漏らしませんわ」
「ソラにもよ」
「わ、判りました。話さないようにしますわ」
「良かった。
お話というのはね・・。聖女に関わることなの。
カリンは、聖女が、今どうしてるか、知ってる?」
「聖女のレミさんは、お母様と一緒に、アノス王国の静かな保養地で、穏やかに暮らされていると伺っています」
「ええ、そうなの。
実はね。うちの影も、それとなく、動向をうかがっているのよ。
まぁ、それに関しては、聖女の力を恐れる隣国として、仕方のないことだと、了承してちょうだい」
「そうですね・・。
判りますわ」
「それでね、影が、聖女の様子を見ているときに、『BL』という言葉を聞いてきたのよ」
妃の言うBLという言葉は、レミ嬢の情報からだったのですね。
「そうですか。
でも、私の記憶には、BLという言葉は、残ってないみたいですわ・・。
あ、でも・・」
「あら、なぁに? 思い出した?」
「いえ、そういえば、ソラが、ソラの叔父様から、BLという言葉を聞いて、思い悩んでいる様子でしたわ」
「まぁ、ホント?」
「ええ。でも、ソラは、私には、言おうとしませんの。
ソラも、よく判らない言葉のようでしたわ。
私も、観察眼で、ソラの様子を見ていて判っただけですの」
「そうね、アノス王国でも、BLという言葉は、謎のままだと思うわよ」
と妃が、意味ありげに頬笑みます。
「そ、そうですか・・」
「まぁ、それはいいのよ。
誰も知らなくても、かまわないことよ。
それでね・・。
聖女のレミ嬢は、影が探ったところによると、キリアンやシオン殿下、それから、アノス王国の貴族子息の、カイト、コウキ、アヤトという青年たちと、それに、ソラを登場人物にして、BLモノの物語を創作して、侍女たちと楽しんでいるらしいの」
「まぁ、兄も登場人物ですの・・」
「あら、まぁ。
カリンも関わってるのね。
お兄様の名前は、なんておっしゃるの?」
「カイトですわ」
「カイトさんねぇ・・」
妃は、なにかを思い出すような様子をされた後、
「あ、たぶん、大丈夫」と仰いました。
「え・・?」
「そんなに凄い役ではないわ」
「・・え・・」
「良かったわね」
と妃。
「そ、そうですか・・」
「あのね、聖女が作った物語は、侍女たちが綺麗な挿絵を入れて、聖女の屋敷で読まれてるのですけれどね。
聖女のお母様には、内緒にしているらしいの。
それで、侍女たちも、聖女も、自分の寝所でこっそり読むようにして、それはそれは、大事に保管してるのよ。
だから、なかなか、影でさえも、物語の中身をうかがい知ることは出来なかったのよ。
なにしろ、大事な聖女が蟄居している屋敷だから、なにかを持ち込むことも、持ち出すことも、容易には出来ないし。
それはもう、聖女のBL物語は、国家機密なみに極秘資料だったのよ」
「国家機密ですか・・」
「ところがね、うちの影には、超優秀な者が居てね・・。
内緒よ」
と、妃から、今日何度目かの内緒要請が来ました。
「内緒にいたします」
「ウフフ。
資料をパラパラとめくって見ただけで、中身を読み取って記憶してしまう影が居るの」
「まぁ・・」
「それでね。
国家機密レベルに極秘だった聖女の物語の内容を、侍女の寝所から、こっそり持ち出すことが出来た、というワケよ」
「そ、それは、凄いことですね」
「ええ、もう、感激よ。
それでね、その影を派遣したのが、誰あろう、私ですの」
「妃が?」
「ええ、そうよ。
だって、聖女の手作りのBLモノよ。
見てみたいじゃない。
キースレア帝国としては、聖女の動向には注目してるけど、聖女が侍女たちと戯れてる物語の中身にまで、興味はないのよ。
聖女たちは、大人しくしてるし。
だから、私が直々に、探るしかなかったの。
でね、思った以上に面白い内容だったので、カリンに見せて上げようと思ったの」
「そ、それは、光栄ですわ」
「でしょ。
そんなに長くないの。連載物語なのね。
影が読めたのは、最新の巻と、そのひとつ前の巻とふたつだけね。
影の記憶をもとに、正確に文字興しして、冊子を再現したのよ。
さぁ、読んでみて」
メイベル妃は、楽しそうに頬笑みながら、私に、その小冊子を差し出しました。
私は、ドキドキしながら、小冊子を手に取りました。
こんなに緊張したのは久しぶりです。
私は、妃に見守られたまま、ページをめくり始めました。
主人公は、シオン殿下でした。
シオン殿下は、ひとつ年下の学友、ソラに一目惚れしてしまいました。
そこで一計をめぐらし、自分のピアノの練習相手に、ソラを指名しました。
週に一度、ふたりきりで、ピアノの前に座り、いちゃいちゃと練習に励むふたり。
いつしか、ソラもシオン殿下に惹かれていきます。
さらに、ソラは、アノス王国に留学中のキリアン皇子にも惹かれてしまいます。
キリアン皇子はソラと一緒に、私的なリサイタルを開くことになり、ふたりで練習したり、リハーサルをするうちに、どんどん、親密になっていきます。
シオン殿下は、複雑な思いでふたりを見守っていました。
そんなとき、シオン殿下は、ソラが、友人のカイトと、楽しく戯れ、球技に興じる様を見てしまいます。
嫉妬に駆られたシオン殿下は、ピアノの練習のさいに、ついに、ソラを押し倒そうとします。
・・と、そこまでが、連載小説の、最新の巻と、ひとつ前の巻でした。
2冊目の最後のページまで読み終えた私は、呆然としてしまいました。
「こ、これが、BLモノ・・ですか」
「そうなの。
楽しいでしょ」
とメイベル妃。
「ええ、まぁ、そうですね、創作ですもの。
ホントのことではなく、あくまで、創作・・」
「そうねぇ、オホホ。
それでね、私、これを読んで、ちょっと思いついたの」
「はぁ・・どんなことを?」
「あのね、アノス王国の、ごく一部の上層部では、BLという言葉が、ちょっと謎めいたキーワードになってるのよ。
それを利用してね。
お醤油を開発しようと思うの」
「えっと・・すみません。私の能力では、理解が・・」
「ちゃんと説明するわ。
私ね、前世で、親子丼が大好きだったの。
でもね、どうしても、お醤油が手に入らないの。
だから、お醤油を手に入れるために、BLを利用するのよ。
名付けて、BL、『ボーイズランチ大作戦』」
「はぁ」
「キリアンを主人公にするのよ。
キリアンが、義理の姉が夢で見た美味しい『親子丼』を開発しようと四苦八苦する物語。
それを書いて出版するのよ。
物語が流行ったら、きっと、『醤油を開発してみよう』という料理人が、たくさん現れると思うの。
そうしたら、私ひとりでは、どうしても手に入らなかったお醤油が、きっと実現化できるわ」
「な、なるほど」
「親子丼に必要な、タマネギと、卵と、鶏肉は手に入るわ。
ご飯もあるわ。海草の出しもある。
あとは、お醤油さえ手に入れば、夢にまで見た親子丼が食べられるのよ。
そのときには、カリンにも食べさせてあげる」
「た、楽しみにしております」
私は、メイベル妃の構想をうかがって、妃のお庭を後にしました。
◇◇◇
行動力のあるメイベル妃は、それから2週間ほどで、「ボーイズランチ」モノの本を作り上げてしまいました。なかなか楽しい物語で、キースレアでは静かに流行し始めたそうです。
なにしろ、皇太子妃の肝いりですから。
それから数ヶ月後。
皇太子妃から、「お醤油が実現化出来そうよ」という報告をいただきました。
それを聞きつけ、なぜか、私のお父様が、嬉しそうにしています。
「ほう、醤油かぁ」と、ニコニコ顔です。
私は、あまり記憶にない調味料なのですが、お父様は、お醤油にそんなに興味があるのかしら。
それから月日が経ち、久しぶりに叔父様と再会し、なにやらお話を伺って帰って来たソラが、
「BL1とBL2、それに、BLミックスって・・、どうして増えたんだろう」
と、ぼそりと呟いていました。
今、ちまたでは、「BL」と言えば、ボーイズランチなんですけれど。
まぁ、そっとしておきましょう。
また、番外編ができましたら、投稿いたします(^^)
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「世界にひとつだけの家」という物語を連載はじめました。
https://ncode.syosetu.com/n8292es/
高校受験に失敗した女の子の成長?物語みたいな、家造りの話しです。
ぜひ、読んでみてください。




