フローラの祖父母①
結界を抜けた俺達は少し歩くと、視界の先に集落のような場所が見えてくる。
その家は少し見ないような形状をしており、どうやら大きな木をくり抜いてその中を家の替わりにしているようだ。
所々高所にもそのような家が見られ、森の中のはずなのに薄暗くなくとても明るい。
どういう事だと上を見上げれば、木々の葉が透明になっており光が里に降り注いでいる。
キラキラと光が反射しているその光景は少し幻想的で、何と言うかまさにファンタジーな感じの里だ。
俺達が里の入り口に近づくと、そこには1人のエルフ族の男性が立っていた。
「宝樹様、お迎えに上がりました。その方々がお客人ですね?」
「そうそう。私の『大親友』のカズキとそのお嫁さん達だよ」
おいっ!何かしれっと『大』まで付けてないか?
「な、なるほど.....よ、ようこそいらっしゃいました」
見ろっ!萎縮しちゃってるじゃないかっ!
「初めまして、カズキと申します。あの.....確かにシロさんとは友人になりましたけど、私自身はそう大した者ではないのでもっと普通でいいですよ?」
「えっ?カズキはミリアーナ様の息子だろう?大した者なんじゃないか?」
そこっ!余計な事を言うなっ!
「えっ!?あ、あの.....ミリアーナ様の?た、大変失礼しましたっ!私はこの里の長を務めておりますウッディニと申します!先に名乗らせてしまうなど、何とご無礼をっ!お許しくださいお許しください!私はどうなっても構いませんので、どうか里の者達だけはっ!」
ウッディニと名乗ったエルフの男性はそう言いながら、素早く土下座の態勢になるとガタガタと震える。
.....いや、何でこんなに怯えられてんの?母さんの名前に反応したようだけど.....一体何やらかしたんだよっ!?
「なぁ、シロさん。何で母さんの名前だ出ただけでこんなに怯えられるんだ?」
俺はコソッと肩の上のシロさんに聞いてみる。
「あぁ、それは昔、ミリアーナ様が私の本体を別の場所に持っていったからさ。エルフもだけど、この森、里で暮らしてる者にとっては私は守り神みたいな存在だからね」
「それで怒るなら分かるんだが.....何で怯えてんだ?」
「簡単さ。ミリアーナ様が力を隠さずに皆の前でその力を振るったからさ。ミリアーナ様は神の中でもかなり上位の神格を持つ女神の1人だ。その神が力を抑えないと普通の人はその圧の前に普通に立っている事さえ困難になるのさ。一目見ただけでまさに言葉通り、次元の違いを見せつけられた訳さ。そりゃああもなると思うよ?」
な、何て事をしてやがるんだっ!!
ってかそりゃそうですよねっ!!そんな自重する気配りが出来るようなら俺はこんなに苦労してないよねっ!!
「ウッディニさんでしたか?うちの馬鹿は俺からキツク言っておくので頭を上げてもらえませんか?逆にこちらこそ申し訳ありませんでした」
「.....えっ?ですが.....あ、あの.....宝樹様をまたどこかへ移動させたりとか、里を消滅させたりとかは.....」
「しませんよっ!?ってか俺達はここには宝樹祭を見に来ただけですからねっ!?」
俺達は普通に観光に来ただけなのだ。母さんのような感じで考えてもらっては困る。
まぁ、初対面だし仕方ないっちゃ仕方ないかもしれないが.....
「だから頭を上げて普通に接してください。お願いします!この通りです!」
俺はそう言って深々と頭を下げた。
「えっ?えっ?」
ウッディニさんはそんな俺を見て混乱しているようだ。
「カズキの言う通りだよ。彼等は宝樹祭を見に来たのさ。それに彼はミリアーナ様と違ってとても常識的で、どちらかと言うと一般的な思考をしていると思うよ?」
ナイスフォローだシロさん!.....でも、どちらかと言うとは余計だ!
「ほ、宝樹様がそこまで仰るのなら.....コホンッ、改めまして、この里の長のウッディニと申します」
「カズキ・カミシロです。そしてこちらに居るのが私の妻の.....」
「リロロと申します」
「ミラーカですっ」
「.....フローラ.....です.....」
「ネルシャムリアっす」
「シャルミナじゃ」
「リリーナと申しますわ」
「私はメイドのピコと申します」
それぞれが自己紹介をする。
「.....フローラ?」
ウッディニさんは何故かフローラに反応する。
「.....君はもしかして.....リョシンとフローリアの子かい?」
「.....パパとママを.....知ってるの.....?」
「あぁ.....良くね.....」
フローラのお父さんはリョシンさんって言うのか.....
もしかしてフローラのご両親はこの里で暮らしていたのだろうか?
「突然こんな事を言ってすまない.....どうかある人に会ってもらえないだろうか?」
「.....どういう事.....会うって.....誰に.....?」
「君のお父さん.....リョシンの父と母、つまり君の祖父母さ.....」
「.....おじいちゃんと.....おばあちゃん.....」
「そうだ」
「あの、どういう事なんでしょうか?」
俺は2人の会話に思わず口を挟む。
「あぁ、事情もお伝えせずに申し訳ありません。彼女の父、リョシンの事を皆さんご存じで?」
「会った事はありませんが話だけなら.....フローラ達を守るために勇敢に戦ったと.....そして命を落としたと.....」
「.....パパ.....」
「えぇ.....とても残念です.....」
「それがフローラの祖父母と関係してくるのですか?」
「はい.....リョシンとフローリアは元々この里で暮らしておりました。しかし2人の結婚をリョシンの父は反対していたのです。その結果、2人は里を出て行きました」
あぁ、何となく分かった気がする.....
「そして2人の里が襲われ、そこでリョシンが亡くなったという情報が届いたのです。リョシンの父は酷く自分を責めました。自分が反対なんてしなければ、今も幸せに生きていたのではないか?っと.....そして息子を死に追いやった責任は自分にあると.....今でも自分を責め続けております」
「.....おじいちゃん.....」
「リョシンの母もそうです.....もっと息子の味方になっていれば、息子が里を出る時に付いて行っておけばと.....」
「.....おばあちゃん.....」
「そうやって今も苦しんでいる2人を、どうか少しでも救ってやってもらえないでしょうか?この通りです。お願いします」
ウッディニさんはそう言って頭を深々と下げてお願いしてくる。
「.....わたしは.....おじいちゃんと.....おばあちゃんに.....会いたい.....」
駄目?って言いたそうな顔で俺を見つめながらフローラはそう言ってくる。
「俺もフローラの旦那として1度しっかりと挨拶しとかないとな.....一緒に行こうか」
「.....うんっ.....」
「フローラちゃん、私も行きます」
「僕も行くよっ!」
「ウチも行くっすよ」
「妾もじゃ。妻仲間としてしっかりと挨拶はせぬとな」
「当然私もですわ」
「.....みんな.....ありがとう.....」
「って訳でフローラの祖父母に会いに行ってきますね」
俺はウッディニさんにそう伝える。
「ありがとうございます、ありがとうございます.....」
ウッディニさんはそう言って更に頭を下げてくる。
「妻の身内に挨拶しに行くだけですよ。ウッディニさんがそこまで頭を下げる必要はないですよ」
「.....はい。ですが、2人の事は長として何かしてあげたくても出来なかったのです。どうか2人をよろしくお願いします。2人の家はこの道を真っすぐ行った先にある少し葉の赤い家です」
ウッディニさんはそう言って道を指さす。
「分かりました。ではこれから行ってきますね」
「じゃあ私はカズキ達が泊まれる場所を用意しておこう。ウッディニ、それでいいね?」
「勿論です宝樹様。皆様がのんびりとくつろげる家をご用意しておきましょう」
俺が今から向かうと伝えると、シロさんがそう言いながら俺の肩から降り、ウッディニさんが自身の胸を叩いて任せろと言う。
こうして俺達はウッディニさんに教えてもらった道を、フローラの祖父母の家を目指して歩いて行くのであった。




