表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/73

選ばれなかった未来へ

──放課後、誰もいない美術室。


静かな空気の中に、ただひとり。

莉子が、イーゼルの前で筆を止めていた。


 


「……セイタ先輩。来てくれたんですね」


背を向けたまま、静かにそう言った。


「今日、ここに来るって……誰にも言ってないはずなのに」


 


(そうか。莉子は……)


 


この世界では、俺は真央と付き合っていた。

沙耶とも程よく距離を取っていた。


「“今回は”そうするべきだ」

そう判断して選んだルート。


でも。


 


「──わかってますよ、全部」


莉子の手が震えていた。


「私のルートじゃない。そう思ってるんでしょう?」


 


言葉を失った。


でも彼女は続けた。

その背中は、笑っていた。


 


「ちゃんと理解してます。先輩が優しいこと。誰よりも真っ直ぐなこと。

それに……この世界が、何度も繰り返されてることも」


 


静かに振り返る莉子。


「ねえ、セイタ先輩。

もし“最初から”私を選んでたら、世界はどう変わってたと思いますか?」


 


それは、

「選ばれなかった未来」を知る者だけが問える言葉だった。


 


「……今、私が望むのは──」


 


 


「“私じゃない未来”をちゃんと見届けてほしいってこと、です」


 


 


そして彼女は、ほほ笑んだ。

寂しさと、強さと、誇りを込めた、優しい微笑みだった。


 


──涙が止まらなかった。


選ばなかった未来にも、こんなにも美しい“想い”があったんだ。


 


俺は、胸に刻んだ。


(全部を忘れない。

この痛みすら、未来に繋げてみせる)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ