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近づく鼓動

ふたりで手を繋いだまま、ゆっくりと駅までの道を歩いた。

最初は緊張していた空気も、沙耶の小さく落ち着いた呼吸に触れているうちに、少しずつ溶けていった。


「……手、あったかいですね」


沙耶がつぶやくように言った。

その声が風に乗って、俺の心に染み込んでくる。


「先輩、いつも強く見えるけど……ほんとは、迷ってるでしょ?」


俺は、足を止めた。

沙耶も立ち止まり、俺を見上げる。


「誰にも選ばれたくないんじゃなくて、誰も傷つけたくないんでしょ。

優しいのはわかってる。でも、それってすごく孤独な道ですよ」


沙耶の瞳は、悲しみとやさしさが混じり合っていた。


「私は、傷ついてもいいと思ってる。

だって、先輩が誰かを想うってことは……その誰かになれる可能性があるってことでしょ?」


沙耶の声は静かだった。だけど確かな覚悟を感じた。


「私はずっと……先輩のこと見てた。

どんな時も冷静で、時々抜けてて……でも、誰よりも人の気持ちに気づく人」


沙耶の手が、俺の手をぎゅっと握った。


「そんな先輩を……私はずっと、好きでいたよ」


もう言い訳はできなかった。

誰かの好意を誤魔化して、ごまかして、曖昧なままにしてきた俺だけど――

沙耶のまっすぐな想いに、もう逃げ場はなかった。


「俺も、沙耶のこと……気づいてたよ。

でも、怖かった。誰かを選ぶってことが」


「選ばなくていいですよ」


沙耶はふわりと微笑んだ。


「今は“私と一緒にいたい”って、それだけで十分です」


その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。


駅の改札前。沙耶が立ち止まる。


「じゃあ、また明日。……先輩と同じ時間に来ますね」


沙耶は手を放して、いつものように振り返らずに改札へと歩き出す。

だけど、いつもと違うのは、手のひらに残った温度。

そして、胸に灯った確かな想いだった。

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