2人だけの昼休み
その日も、俺と真央は屋上で昼を過ごしていた。
少し肌寒い風が吹く中、真央はいつものように弁当箱を差し出す。
「はい、今日はオムライス。ケチャップは……ちょっと多め」
「やった、オムライスか。こう見えて、俺の好物なんだよな」
「知ってるし」
「……知ってるの?」
「あんた、前に購買で迷ってたじゃん。“カツサンドかオムライスパンかどっちがいいかなー”って。あれ、オムライスにしてた」
「見てたんかい」
「別に……見てたってわけじゃ……たまたま目に入っただけよ。勘違いしないでよね」
(照れ隠しの“勘違いしないで”が、真央の口癖になってきた気がする)
「でも、嬉しいよ。ありがとうな、真央」
そう言ってオムライスを頬張ると、思わず笑みがこぼれた。
ふわっとした卵に、ほんのり甘いケチャップライス。うまい。
「……うん、これ、好き」
「でしょ? 自信作なんだから」
真央も安心したように笑った。
最近は、こういう自然なやりとりが当たり前になってきた。
「なぁ、真央」
「なによ」
「俺さ、この時間がすごく好きだわ」
「え……」
「昼休み、屋上、手作りの弁当。強がりだけど優しいお前。
……全部、俺にとって特別だ」
真央は箸を止めたまま、動かなくなった。
「……そ、それって、さ」
「別に深い意味は――いや、あるかもしれんけど。
でも、無理に答えなくていいよ。俺が勝手に感じてるだけだし」
そう言ってごまかすように飲み物に手を伸ばす。
すると――
「……ばか」
「え?」
「そういうこと、さらっと言わないで。こっちは、何年も……
何年もずっと、あんたにそういうこと言われたかったのに」
小さな声で、真央はそうつぶやいた。
風の音にかき消されそうだったけど、確かに聞こえた。
「え、ちょ、何年もって、それ……」
「――なにもない!」
(ああ、逃げた。顔真っ赤にして、そっぽ向いた)
だけど俺の心臓は、さっきの“何年も”って言葉で、一気に跳ね上がっていた。
「……なぁ、真央」
「なによ」
「好きって、さ。何年たっても消えないもんなのかな」
「……知らない。でも、消えなかった人もいる。
少なくとも、私がそうだから」
その瞬間、ふたりの間にあった風が、やさしく通り抜けた。
まるで何かを祝福するように。
この昼休みが、“ふたりだけの時間”になった瞬間だった。




