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君とこの世界で
「ほら、こっち」
千紗が手を引く。
誰もいない中庭。
この世界の“影”にあるような静かな場所で、
彼女はスカートの裾を抑えながら座り込んだ。
「……ここ、誰も来ないんだよ。
私、よくここでサボってるの」
「理由は?」
「この世界が“私ひとりのもの”みたいだから。
ちょっとだけ、気が楽になる」
千紗は地面に落ちた葉を拾いながら、ぽつりと呟く。
「セイタくんさ……やっぱり、“みんな”に好かれたいの?」
否定しようとして、言葉が止まった。
彼女は続ける。
「優しすぎるって、よく言われなかった?」
「私もそう思ってたよ。
でも、今の君を見てて思うの」
「“優しさ”って、時には誰かを見捨てることなんだって」
「全部を抱えようとしたら、
君自身が壊れるよ」
その言葉に、胸が少し痛んだ。
でも同時に、心の奥で何かが温かく灯る。
「……それでも俺は、見捨てたくない」
「この世界が俺から全部奪ったとしても──
お前がここにいるなら、それでいい」
千紗の手が止まり、
目が、少し潤む。
「……ばかだね。ほんと、ばか」
「でも、そういうばかが……私は、」
──「ずっと、好きだったよ」
その言葉に、風が止まる。
時が少し、やわらかく流れる。
この世界は、俺たちふたりのものだ。
誰も知らない、新しい物語の始まり。




