千紗ルート開幕
──世界はリセットされた。
けれど、俺だけが覚えている。
何度も繰り返した季節と、笑った顔と、泣いた声。
教室の風景は見慣れているのに、
なぜか誰も俺を知らない。
(また、最初からか……)
席に座り、窓の外を眺める。
でも──
「……セイタくん?」
その声に振り向くと、
クラスの隅、窓際でひとり本を読んでいた千紗がこちらを見ていた。
「やっぱり……覚えてるんだね。
私と君だけが、“前の世界”を知ってる」
周囲は日常を装ったまま。
でもこの教室だけが、世界の“余白”みたいに静かだった。
「この世界は最後のループだよ、セイタくん。
君が“誰も選ばなかった”罰として、
誰からも選ばれない世界が与えられた」
(……千紗が、作ったのか?)
「ううん、違うよ。これは“世界”が勝手に選んだ答え」
「君が“優しさ”を武器に戦ってきた結果、
全てのルートが収束して、この1本になったの」
千紗が本を閉じる。
「ここでは、真央も、紗耶も、莉子も──君のことを知らない。
好きにならない。関わりもしない」
「だから、君はもう、“全員を救えない”」
──静かに、優しく、彼女は言う。
「それでも、生きていける?」
俺は答える。
言葉じゃなく、立ち上がって、彼女の隣に座ることで。
「……やっぱり、君はそういう人なんだね」
千紗がふっと笑った。
ほんの少し、希望のにおいがした。




