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悪役戦姫ノア、男装皇帝に嫁入りする  作者: ゆいレギナ


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47話 真っ赤な薔薇②

 硝煙が少しずつはけていく。

 見えてきたのは、黒いドレスの少女を抱きしめる異形の姿。

 その異形が、ドロドロと溶けていく。


「ア……アア……エーデル、ガルド……ワタシ、ノ……エーデ、ルガル……ド」

「おかあさん、なんで……どうして……」

「ゴメン、ネ……ダメナ、オカアサン……デ、ホントウニ……デモ、ワタシ、ハ……」


 最期になんて言ったのか、私には聞き取れなかった。

 だけど、エーデルガルドの目から、ポロポロと大粒の涙が零れている。


 きっと、それで十分だったのだろう。

 私は呼吸を整えながら、思わず苦笑する。


「本当にばかな子……こんな姿になってまで、娘を守る母親に愛されてないと思うの?」 

「でも……でも……!」


 これではっきりとわかった。

 かくれんぼのときにニーチェ皇子が話していた、悪魔の話。

 あれは紛れもなく、エーデルガルドの母親の話だ。


『でも、いっしょにいた女の子は無事だったんだって。きっと女の人が守ってあげたんだね!』


 あのときは聞き流してしまったけど、これはエルの母親がエルの代わりに被検体となったことを伝えたかったのではなかろうか。


 皇帝に見初められた事実を恨みながらも、その結果生まれた子どもを憎み切れなかった。この場から逃げたいけれど、逃げられなかった理由――それはきっと子どもがいたから。


 捨てたいと何度も願うのに、いざと思うと捨てられない。

 それどころか、絶好のチャンスがきたときに、代わりに身を差し出す始末。


 母親とは、なんて愚かな生き物なのだろう。

 理性の箍から外れた悪魔になろうとした挙げ句、結局『母親』にしかなれなかったのだ。


「そんなわけない! おかあさんが、わたしを守ってくれるはずなんてないっ!」


 再び、エーデルガルドからの攻撃が始まる。

 もう完全な駄々っ子だ。魔法の体にもなっていない、ただの衝撃波の乱舞。


 それでも、彼女の無限の魔力から放たれる衝撃に当たったら、簡単に人の身体なんて弾け飛んでしまいそうだけど。


「文句は聞かないからね」


 私は口角をあげる。


 私は本当に、大した魔法士ではないのだ。

 ただ、身体を動かすのが好きな子どもだっただけ。

 さっきの爆発で、魔力のほとんどを使い果たしてしまった。


 ……次の攻撃が、本当に最後の一撃になる。


「《真っ赤な薔薇(グリム・ローズ)》!」


 自身の足下で、大きな血花を咲かす。弾ける衝撃で思いっきり前方に跳躍した。

 再び生んだ魔剣を振りあげる。私は決して魔力が豊富なわけではない。威力の大きな魔法が使えるわけでなければ、持久戦に向くタイプでもないのだ。


 だからこそ、この一撃にこれでもかと全血液を集中させる。

 一瞬に全力を込めろ。小さき命であれど、華麗に咲き誇ってみせる。

 

 そのイメージこそが、私の爆発という魔法。

 いつもより赤く、黒く、大きく脈拍を打つ魔剣に、悪魔も初めて防御に回ってくれるようだ。


 黄金の障壁に、私の赤黒い剣がぶつかり火花が飛び散る。

 私の血液がパチパチと弾けていく。その質量がなくならないように、さらに大きくなるようにと魔力をこれでもかと込めて――一瞬だけ障壁を押し返そうとしたとき、私はすべての魔法を解除した。


「悪魔のフリは楽しかった?」

「えっ?」


 驚いたあどけない顔は、『エーデルガルド』そのものだった。

 魔法で生んだ障壁は、あくまで魔法に反応するもの。

 だから魔法を解いた私の身体は障壁をすり抜ける。


「死にたいなんて寂しいこと言わないでよ。私はあんたの嫁になりにきた……これから一緒に生きていくために、ここまできたんだから」


 私はエルを思いっきり抱きしめて。



 私は彼女にキスをした。



 キスの仕方なんて知らない。はじめてだもの。

 だけど文句を言われる筋合いはない。


 だってエーデルガルドは、ただ悪魔のフリをしていただけだったのだから。

 魂の変質なんて、そんな実験にも揺らがない最強の魔法士エーデルガルド=フォン=アニス。多少は魔法陣のせいで心が自由になったのかもしれないが、それでも己を失いきれなかった彼女が『死にたい』と自暴自棄になった結果、悪魔になったフリをして私に退治してもらおうとしたのだ。


 寝言は寝て言え。

 とは言っても、ぶん殴っても殺してもらいたい彼女にとっては本望だろうからね。


 エーデルガルドの唇を噛んでしまったのか、少々不快な血の味がする。

 それでも二人で同じものを感じているなら、悪くない。


「ノア……ひめ……?」


 ほら、実際に私の腕の中のエーデルガルドが赤面している。

 色々と我に返ったのか、肌を張っていた黄金の文様とともに、彼女からあふれていた殺意に満ちた魔力もなりを潜めていた。


 私は正気に戻ったエーデルガルドに片目を閉じてみせる。


「おはよう、マイダーリン?」

「わたし……キス、はじめてだったのに……」


 エーデルガルドが真っ赤な顔を両手で隠した。

 そんな姿を見たら、こっちまで恥ずかしくなるでしょ!


「そんなこと言ったら、私だってはじめてだったんだから……初夜を装うためにベッドに血を撒いたやつに文句言われる筋合いはないっ!」

「それは……そうですが……」


 口を尖らせた私に、エーデルガルドはしおしおと視線を下げて。

 だから、私はニヤリと笑って言ってやったのだ。


「愛する者を目覚めさせるなら、愛の口づけが鉄板でしょ?」


 すると、エーデルガルドが少女のように顔を真っ赤にさせる。


 へへ、やったね。

 私はようやく彼女に勝てた――そんな気がした。


あとエピローグの2話でおしまいです。


「おもしろい!」「最後も楽しみ!」

などと、少しでも思っていただけましたなら、


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