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プリメラの実力

2巻の第7話です。

「おつかれさん」

 プリメラに声を掛けると、彼女は顔を俯かせながら小刻みに震えていた。


 もしかして、怖がらせちゃったか?

 そう心配になって顔を覗き込もうとしたら、ふいにプリメラが顔を上げてきた。

 結果として顔が超至近距離になってしまう。


「すごいですよジードさん! まさか、たったあれだけのことで、私のゴーレムが粉砕されてしまうなんて! しかも物理攻撃ですよ、物理攻撃。もはや魔法の優劣ですらないなんて!」


 そんなことを矢継ぎ早に言ってくるプリメラ。しかも、惨敗なのになぜか嬉しそうに何度も飛び跳ねて髪の毛を揺らしていた。

 その目はキラキラと輝いていて、まるで宝物を見つけた子供みたいにはしゃいでいる。

 こんな感じの光景を、前にも見たことがあった。


 ネイピアにそっくりだった。


 そういやプリメラは、さっきネイピアを見て嬉しそうに手を振っていたし、従姉妹として仲が良いのかもしれない。それでどこか似たようなところがあるのかも。

 そんなことを思いながら、微笑ましくプリメラの笑顔を眺めていると……。


「プリメラ!」

 ふいにガルビデの怒声が響き、プリメラがビクッと固まっていた。

 辺りが、しんと静まり返る。

 その静けさの中、ガルビデがこちらに歩み寄ってくる音だけが聞こえてきた。


 そしてガルビデは、俺を睨むように見やってくると、

「模擬戦をじっくりと見させてもらった……と言っても勝負は一瞬で終わってしまったのだがな」

 そう皮肉を言ってプリメラに棘を刺しながら、

「こちらの想像以上に、お前は強い……強すぎるようだ。……まったく、そのことだけは、よくよく理解させられた」

 ガルビデの声が震えている。

 俺を睨み付けている表情と相まって、激怒しているのを懸命に抑え込もうとしているようにしか見えない。


「お褒めに預かり光栄だ」

「褒めてなどいない」

 ガルビデは不快感をあらわに言い捨てた。

 やっぱり、怒っているようだ。


 ただ、誰に対して、何に対して怒っているのかまったく解らず、異様にすら思えた。

 ……まさか、プリメラが惨敗したことを怒っているんだろうか。「教導士団の恥さらし」だとか、そんな感じのことを思っているのかもしれない。だとしたら、これでプリメラに害が及ぶことになってしまうんじゃ……。

 つい心配になって、後でネイピアにも相談することにした。


 その後も、ガルビデは怒りを押し殺そうとして失敗しているような、怪しい態度のまま、

「今日のところは、十分に調査することができたと言えよう。後日、関係者は改めて聴取する。事と次第によっては、緊急の呼び出しをすることもあるだろう。そのときはしっかりと協力しろ。それは、帝国市民の義務だ」

 そう早口で一方的に言い捨ててから、

「プリメラ行くぞ。陛下へ報告しなければならない」

 と呼びかけ、先を行くように去っていった。


 ……いつの間にか、俺たちは『関係者』にされてたんだな。

 どういうことだか詳細は解らないが、どうも教導士団は、俺たちに関することで何らかの思惑があるんだろう、と確信できた。

 しかも、精霊ではなく、むしろ俺個人に。

 果たして、何を企んでいるのやら。

 俺は、敢えて敵視を込めた視線を隠すことなく、ガルビデの背中を見送っていた。


「ジードさん」

「うぉっ⁉」

 突然、俺の視界に笑顔のプリメラが割り込んできてびっくりさせられた。


 プリメラは「あはは」と笑いながら、心なしか声を抑え気味で、

「今日は、本当にありがとうございました」

 と嬉しそうにお礼を言ってきた。


「うん? 俺が何かしたか? ……むしろ、結果としてガルビデを怒らせちゃって、プリメラに危害が及ばないか心配なんだけど」

 プリメラはキョトンとして、

「私に危害を? えぇと、それは大丈夫だと思いますよ。そもそも、団長に怒られるのもいつものことですし――」

「へぇ……」

 それはそれでどうなんだろう。


「私がお礼を言いたいのは、例の『魔法陣の効率化』の授業についてです」

「あぁ、そういや試合前も、いいものを聞かせてもらったとか言ってたっけ」

「そうなんですよ!」

 プリメラはふいに声を張り上げると、すぐに慌てて声を潜めて、


「実は私、あの理論を、さっきの模擬戦でこっそり試してみたんですよ。そしたら本当に、あの理論の通りのことができるようになってました」


「…………え?」

 一瞬、彼女が何を言っているのか理解できなかった。


 あのとき俺が話していたのは、『魔法陣の効率化』についてだ。

 適切な大きさの魔法陣で、魔力の無駄な消費をすることなく、その分、魔法の威力のために魔力を使う、という。

 それを実践したということは……。

 いや、でもあのとき彼女が展開した魔法陣は、あんなにも大きくて……。


 矛盾しているんじゃないか?

 混乱して頭が纏まらない。

 するとプリメラは、そんな物わかりの悪い俺に理解をさせるかのように、


「お陰で、いつもよりだいぶ小さい魔法陣で魔法を放つことができました」


 そう、笑顔で言ってきた。

「…………」

 声が出てこなかった。

 困惑しかない。


 あれで、いつもよりだいぶ小さい魔法陣だって?

 この闘技場を――70m四方はあるだろうこの地面全体を――覆い尽くしていたのに?

「本当に、ためになりました。ありがとうございます」

 プリメラは改めてお礼を言ってくると、先に行っていたガルビデに追い付くように駆けて行った。


 教導士団の副団長に、急遽抜擢された女性――プリメラ。

 彼女は、尋常では考えられないほど巨大な魔法陣を展開することができる。


 魔法陣は、『魔力の注ぎ口』だ。

 大きければ大きいほど、一気に、大量に、魔力を注ぐことができる。

 あれほど巨大な魔法陣――しかも『効率化』をした上であの巨大さ。

 あの魔法陣を活用したら、いったいどれほどのことができてしまうんだろう。

 魔法研究者として楽しみに思うと同時に、ちょっと想像するだけでも怖く感じていた。


 有効活用できれば最高だけど――

 悪用されたら、最悪だ。


 それじゃあ、プリメラはこれから何をするつもりなんだろう?

 プリメラの所属する教導士団、その団長であるガルビデは、俺のことを調査してきて、『次元の狭間』について詳細を聞き出そうとしてきた。


 教導士団は、いったい何をしようとしている?

 いろいろと想像はできる。

 正直言って、最悪の想像ばかりだ。

 まだ確証はないけれど、少なくとも、教導士団の動きには警戒が必要だろう。


 もしかしたら、それが、『精霊召喚未遂』事件の解明につながるかもしれないんだから。

本日の更新は、以上です。

次話の投稿は、明日(6/11)の、18時ころを予定しています。

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