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サラマンドラといえばやっぱり火炎放射・・ではないみたいで
「じゃあ、もういまは寮を出ているんですか?」
とは、お茶をザッラの前に置くラウネア。迷った末、冷たい麦茶にしたようだ。
「出てるっていうか、さー」
「あれだろ。友だちとか彼氏とかオヤジの家を泊まり歩いてるってやつ。ダメだぞー、援助……、ぉぶっ!」
言っている途中で、ザッラのひじ打ちをみぞおちに食らって悶絶する源大朗。
「ちっげーよ! いちおう寮の空いてる物置部屋を使わせてもらってんだけど。窓もないし、隣が空調設備でさ、夏に空調がオーバーヒートで壊れて」
「空調が」
ザッラの発熱能力で寮全体が常時高温になり、冷房をフル稼働し続けたせいで空調機器が故障。加えて、隣室に移ったせいで熱が直接機器にダメージを与えたため、といったところだろう。
「そんなだからさ、もうみんなに迷惑かけらんないし、この際ひとり暮らしもしてみたいし、部屋を探そうかなって。そういえば、あたしのこと探してるってヤツがいたって聞いて、そしたらここの店のこともわかったんだよ」
これでザッラが来店した理由もコンプリート。ずいぶん遠回りしたようだが。
「なるほど、わかった。なぁに任せておけ。ウチに来たのは幸運だったって、すぐに思わせてやるから、大船に乗ったつもりで」
「いやな予感」
つぶやくキアに、源大朗、
「火力発電所に電話だ、キア」
「やっぱり」
「おい、どーゆーことだよ。あたしは部屋を探してんのに、発電所ってさ」
「わかってるだろう。それだけの発熱能力があるんだ。石油や石炭を燃やす代わりになれば、燃料代も浮いて大助かりだ」
亜人の能力を活かして、住処とともに仕事も得る。いるだけで能力を発揮できるなら、苦労もない。
まさに一挙両得、一石二鳥。なのだが……。
「やだ」
「そうそう、給料もらいながら部屋でのんびりテレビでも見てりゃ……、って? なんでイヤなんだ! おかしいだろ」
「だって発電所とかカッコ悪いし。仕事なにやってるの、って聞かれて、電気作ってるとか超ダサいじゃん。マジ言えないっての」
ザッラ、にべもない。
これには、
「おいおい、仕事選んでる場合かよ」
「電気、作れるのすごいと思う」
「発電所はカッコ悪かったんですね……」
夷やの面々も驚き、呆れるが、
「だいたい発電所とか、山ん中とか超田舎でしょ。そんなところ住みたくないっつの。虫とか超飛んでそう。部屋ん中入って来るし」
ザッラは平然としている。冷たいはずの麦茶は、紙コップを握っているうちにすっかり熱くなってしまっていた。
「火力発電所は海の側。東京にもいくつもある、よ。山の中も、あるけど」
キアがタブレットで示す。確かに、東京湾沿いだけで十以上もの火力発電所が並んでいた。都内にも五つほどある。
「へーえ、品川とかにもあるんだ。けっこう都会じゃね?」
「葛西よりぜんぜん都会だぞ。これならいいだろ」
「でもやだ」
「はぁ? なんで」
「だから電気とか作んのやなの! 発電って、それなんだろ? 電気は電気屋で作ってろ、つの!」
「それ違う、けど……」
誤解はありそうだが、嫌なものは嫌なのであって、客に無理強いはできない。
「ダメか、火力発電。いいと思ったんだがなぁ。部屋はおそらくタダ。金ももらえる。雪女がデータセンターで、サラマンドラが火力発電、うーん」
まだあきらめきれない源大朗、ため息を吐き出すが、この線はもうないようだ。
「んー、レイカとセットで熱と冷気を相殺できてたらな」
そっちの線はもっとない。
「つまり、ひとりで住んでいれば」
「そうですね、部屋が多少……かなり熱くなっても、周りに余裕のある一軒家なら苦情も出ませんよね」
ぽつりとキア、そしてラウネアの言葉に、
「やだ! そんな広い家にひとりで住むとか、無理っしょ! 高いに決まってる! お金もないし」
やはり反発するザッラ。
「そうでもないぞ。まぁ、いちばんいいのは郊外の一軒家だな。なにしろ安くて広い。ラウネア」
「では、ひとまずそれで探してみますね」
ラウネア、パソコンに向かうと、すぐに数件をリストアップ、プリントして見せる。手に取って、源大朗、
「これなんかどうだ。約百五十平米の一戸建て、土地二百三十平米、約七十坪か。庭も広いぞ。隣との間隔もたっぷりだ。山が見えるのもいいじゃないか。これだけ広くて家賃月たった五万七千円」
「それ、どこなの」
「群馬県邑楽町、最寄りの駅まで徒歩五十分。築四十五年だが、まぁまぁきれいなほうだぞ。」
「五十分て、小一時間じゃん! なにそれ、死んじゃう! 築四十五年て、建ってから四十五年経ってるってこと? げっ、トイレも和式なんですけど」
徒歩、としか表示がないということは、近くまでのバス路線もないということだ。
「こっちは……、千葉県」
「千葉県? なら葛西と近いじゃん。浦安のさ、ネズミーランド、毎日行けるかな!」
「ネズミーランドなら、葛西からだって毎日行けるだろ。ぁー、ぅんうん、行けないことはないな、外房線安房天津駅、徒歩十七分だ。徒歩五十分に較べたら三分の一だ!」
「木造二階建て、延床約百平米。築三十年。土地百八十平米で月七万円。街道沿いで、交通の便は、いい」
「なにこれ、看板出てるじゃん。もとはビデオレンタル店? ぜったいそんなのもう流行んないよ! ありえね~!」
「別に店はやらなくていいんだ。一階は店仕様だから、物置として使うとかな」
「うっそ! 外房線ってなに、鴨川シーユニバースのほうじゃん! そんなとこからネズミーランド通えるかっての!」
「シーユニバースに通えばいいじゃないか。イルカやシャチやペンギンもいるんだぞ」
「マンボウも」
「魚嫌いだっつーの!」
「イルカやシャチは哺乳類だぞ。ペンギンは鳥類で」
「そういうことじゃねー!」
ザッラが声を高めると、ジュッ! 手の中の麦茶が音を立てて蒸発した。紙コップも少し焦げている。
それを見て源大朗、
「なぁその、物を熱くしたり発火させたりする能力な。どこまで使えるんだ」
改めて問う。ザッラ、
「なにそれ、いまそこ?」
と言いつつちょっと考えて、
「こう、手で触れる物はだいたい熱くできるよ。少し離れても、意識をそこへ集中すれば同じくらいできる。あとは体温が人より、あー、つまりこの世界のふつうの人間より? 少し高いくらい。口から火を吐く? しないしない! そんなのぜんぜんできないっつの!」
これでわかった。
初めに表戸の引き手に触れた源大朗がヤケドしそうになったこと、ラウネアの出した冷たい麦茶が温まり、沸騰して最後は蒸発するまでに熱されたこと。
「やっぱり、ストレスで能力が暴走してしまったり、というのはあるのでしょうか」
ラウネアが言うのは、レイカの冷却能力のことだろう。
「ストレス? ううん、とくにないかな。それより、カッと来たりとか、そういうときのほうが温度上がるかも」
「熱くなると熱くなる」
キアの言葉どおりのようだ。
「副作用みたいなのは大丈夫なんですか?」
「副作用? んー」
「能力使うとひどく疲れるとか、頭痛がするとか気持ち悪くなるとか」
「そんなのとくにないっての。まぁ、あとで思えば、うーんと熱くしたあとはいつもより腹が減ってるくらいかなー」
いたって健康なようだ。
「抑えることはできないんだよな、発熱能力を。それができたら、寮の部屋も居続けられたはずだ」
「無理。息するな、って言うようなもんだから、あたしには。で、どうなのさ、あたしの部屋、見つかるの?」
ザッラ、そう言って脚を組む。
源大朗とキア、それにラウネア、顔を見合わせて、
「ふー」
汗をぬぐった。狭い夷やの店内は、エアコンをフル稼働させていても室温三十度は下らない。
明日も昼から更新予定です。




