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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第四部 開拓、陰謀、ドラゴン!
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88話 雨天は座学の日

 本日はあいにくの雨である。

 だが、森と畑にとっては恵みの雨だ。

 無論、好天が続いても構わないよう、そのための水路をリターン川から伸ばしてきているのだが。


「ずっと家の中にいるのですの? じめじめして、なんだか身体にカビが生えてしまいそうですわ!」


 アスタキシア嬢は今日も賑やかである。

 不満を口にしつつも、表情は楽しげだ。


「家の中でもできることは幾らでもある。本日は、開拓を行っていく上で必要な知識の講義を行おう」


 領主の邸宅と、仕事場を兼用する大型ログハウスに、希望者を集める。

 マスタングにボルボ、ビートル、サニー。この四人の元冒険者は定番だ。

 カレラは私の依頼を受けて、ワイルドエルフと交渉中なので本日は留守。


 続いて、バルガドとポルトナ、バル・ポル親子。

 オーガ一家の剛力にはいつも助けられている。

 バル・ポルはお勉強の時間、邪魔をしないようにマルコシアスと遊んでいる予定だ。


 ガーシュインとアマーリアもやって来た。

 アマーリアは一人でもよく来て、ナオやカレラやサニーたちと仲良くしている。

 年頃が近い女子だからであろうか。


 これに、ビブリオス領駐在騎士のイールス。

 イールス宅に下宿している、アスタキシアを護衛する役の騎士。扁平な顔をした男で、どことなくヒラメっぽい。名前はフラウンダーと言う。

 唯一残った騎士だが、他の騎士たちと違い、私に何ら要求すること無くアスタキシア嬢の護衛に徹している。

 最近では、護衛の合間にボルボを手伝い、酒の仕込みなどしているようだ。

 何気に馴染んできているな。


 そして、私の先輩賢者に当たる、トラボー殿とウニス殿。

 二人とも専門分野は違うため、新鮮な気持ちで講義を聞きに来ている。

 あの手の賢者たちにとって、勉強とは娯楽だ。


 最後に、アスタキシア嬢が最前列の席に陣取って、講義を受けるメンツが揃った。

 ナオは私の助手として、隣に立っている。


「諸君、始めてもいいだろうか」


 口々に、了承の返事がきた。


「では開始しよう。まずは、我が開拓地の成り立ちについて。この地はこれまでに、三十回に及ぶ調査隊が派遣され、そのどれもが道半ばで力尽き戻ることはなかった。故にこの地は、人を食らう恐怖の辺境として語り継がれてきていたのだ……」


 しとしとと雨が降る音が聞こえてくる。

 これは一日、降り止むことはあるまい。

 今日は、たっぷりと講義することになるぞ。


 午前の講義が終わると、アスタキシア嬢が思い切り伸びをした。


「こんなに集中して勉強をしたの、初めてですわ! でも、たくさんの方が一緒に勉強するなんて、新鮮でいいですわねえ! わたくし、いつも家庭教師と二人きりでしたもの」


「ああ、貴族の娘であればそうだろうな。私も幼い頃、家庭教師がつききりになって勉強したものだよ。ちょうど、それが賢者の塔から招かれた人物でね。彼の影響で私は賢者になったようなものだ」


「先輩のお師匠様みたいな人ですよね!」


「そうなるかな。残念ながら、彼は私が塔に入る以前にフィールドワークで事故に遭い亡くなってしまった。私の研究の始まりは、彼が残した研究を引き継ぐところからだったのだよ」


 ナオとアスタキシア嬢を前に、らしくもなく昔語りをする。

 今やルームメイトのこの二人は、すっかり仲良しである。


「ビブリオス準男爵は……」


「ジーンでいい。ここは公の場では無いのだからね」


「では失礼して、ジーン。あなたはバウスフィールド家のご長男だったのでしょう? それが塔に行ったということは、やはり……」


「そう。この身に流れるシャドウの血が故だ。だが、私には貴族としての暮らしよりも、賢者の生き方が性に合っていたと思うよ。その点では、父が私を塔に入れてくれたことは今でも感謝している」


「おかげで、わたしは先輩と会えましたもんね!」


「そうだな。あれは本当に運命的な出会いだった」


 当時、手のひらに乗るような小さな人造生命体であったナオ。

 手乗り図書館の力によって彼女は魂を得て、人としての生命を生き始めた。


「そうですのね……。わたくしにはそんな運命なんて、訪れる気がいたしませんわ。サッカイサモン家の子供たちは、皆、家を守るための道具ですもの」


 アスタキシア嬢が遠いものを見るような目をした。


「わたくしは末の娘ですの。姉たちは皆、他の貴族のもとに嫁ぎましたわ。サッカイサモンの血は、広く王国に広まっています。バウスフィールド家が力を落とした今、お父様は今の代で、王国の貴族を一つにまとめあげてしまうことでしょうね」


 サッカイサモン公爵は、国王ツナダイン三世の血縁者である。

 そして、政治については暗君であるツナダインと違い、文武に秀でて社交にも優れる。

 ここでかの公爵が力を増せば、セントロー王国は安定を失うのではないかとも思えてくる。


「でもわたくし、知ってしまったのです。この開拓地に来て、最初は馬糞臭い辺境の果てだと思ってて、今でもそれは思ってるのですけど!」


「凄い言いようです!」


「大丈夫ですわナオ。今は褒め言葉だから! それで、ここにいると、自分の力で成したことが結果になって残るでしょう? 下手くそでも、枝を切り落とした建材はどこかに使われて、わたくしが土を掘り起こした場所が畑になって、わたくしの失敗したお料理を、みんな笑いながら食べてくれる……。今ね、わたくし、初めて自分の足で立ってるって気がしていますの!」


 なるほど、それでアスタキシア嬢はいつも楽しそうなのだ。

 六女とは言え、公爵令嬢が額に汗して、顔も手足も泥だらけにして働いている。

 公爵領からの大使を自称してはいるが、それでもここまで開拓地の業務に励むのは普通ではない。

 それらの行いには全て、彼女の思いがあったのだ。


「分かります!! わたしも、先輩と一緒に開拓地に来てから、楽しくて楽しくて! えっと、賢者の塔が楽しく無かったわけじゃないんですけど。師匠のところとかへんてこな楽しさがありましたし」


 ちらっとナオが振り返ると、そこではガーシュインを囲んで、トラボー殿とウニス殿が何か激論を交わしている。

 とても面白そうである。

 混ざりたい。


 ガーシュインは戸惑いながらも、二人から質問攻めにあい、ちょっと嬉しそうだ。

 一人内に秘めていた遺失魔法について、あの賢者たちならばついてこられるからな。

 そして、トラボー殿もウニス殿も、極めて優秀ではあるが言動などが危ないとして、社会的にはあまり信用されていない賢者だ。

 彼らの口から遺失魔法が語られても、信用するものはおるまい。

 実に安心できる人々だ。


「ナオもわたくしと一緒でしたのね! それでなんだか、シンパシーを感じてたのですわ!」


「えへへ、お揃いですねえ」


 二人が手を取り合ってはしゃいでいる。

 まるで仲が良い姉妹のようだな。


「だが、アスタキシア嬢。あの手紙で、公爵が納得するとは思えない。あれは時間稼ぎに過ぎないよ」


「ええ、分かっていますわ。今や、公爵家の威光に逆らえる者なんて、この国にはいませんもの。だけど……例外はあります。それがあなたではなくって? ジーン様?」


「買いかぶられたものだ」


 だが、公爵の要求を一切飲む気が無い私だ。

 彼女の期待が私に向けられることは、正しい。

 さて、いかにして公爵を退けるか。


 そしてもう一方。 

 荒れ地の開拓にて、浮かんできたドラゴンの話。

 本当に、この地の底にドラゴンがいるならば、是非とも会ってみたい。


 私の中では、この二つが繋がるような気がしてならないでいる。

 世に偶然は多くあれど、全ての偶然はどこかで繋がっている。

 これを結びあわせて、必然に変える。

 それこそが賢者の業なのだ。


「だが、任せてもらおう。政治ならば専門外だが、これが人間という生物に関する学問となれば、私の専門分野だ。これもまた実学というところだね」

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