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その4 ナオ、狩りに同行する

「このお化粧は、昔なら戦の合図だったの。かつて、試練の民は深き森の民と争っていたことがあってね」


 シーアが歩きながら説明してくれます。

 なんと、昔にはエルフ同士が争っていたことがあるというのです。


「まるで人間みたいですね。なんで争ってたんですか?」


「祖霊に対する解釈の違いかな。うちは、祖霊の力を借りて魔法を使うっていう解釈。ご先祖様も資源なのね。で、向こうはあくまで祖霊は神聖なものだから、崇め奉るという解釈。このお化粧も、森に漂う精霊力を効率よく集めるための方法なんだよ」


「へえー! そう言えば、お化粧の辺りがちょっと熱いかもです。それに、魔力が身体に満ちているような……」


「大体の試練の民は、ナオほど効果を実感しないけどね。でもそういうこと。深き森の民は、それをよしとしなかったの。彼ら、魔法はそこまで強くないんだけど、森の獣を手懐けて操るのよね。それで結構大変な争いになって、何人もエルフが死んだの」


「ほええ……。エルフの人って長寿なぶん、あまり子供が生まれないと聞くんですけど」


「そう、そうなの! だから、どっちも死者が出たことでショック受けて。それからは、話し合いや代表を出しての力比べで物事を決めるようにしたってわけ。で、お互いのやり方にあまり口を出さないようにしたの」


 そうだったんですねえ。

 どうりで、通り道で出会った深き森の民は、シーアとは喋らなかったわけです。

 エルフにも色々事情があるみたいです。


「……ということで! 今日は、ナオに狩りに付き合ってもらうからね!」


「ほうほう、狩りですか。……狩り? え、ええーっ!?」


「ええーっ、じゃない! ジーンに色々期待されてこっちに来たでしょ! だったら、試練の民のやってること、ちゃんと見て帰らないとダメじゃん。だから、ナオには私たちの生活を一通り体験して帰って貰う予定なの」


「ひえー。あの、わたし、武器とか使ったことがないんですけど! あ、石ころなら」


「ナオ、錬金術使わないとスーパー不器用そうだもんねえ」


「そんなことはないですよ! 細工物とか大得意だもの! ただ、弩は前に使わせてもらったけど、重いし反動凄いし、矢は変なとこ飛んでくし……」


「うん、分かった! 私たちが狩りはやるから、ナオは見学ね……!」


「はーい」


 そういうことになりました。

 わたしたちの行く先には、ワイルドエルフの皆さんが待っています。

 彼らは私のお化粧を見て、わっと盛り上がりました。


「人間なのに、俺たちの戦化粧で反応するのか!」


「じゃあ、もうエルフ仲間みたいなもんだな!」


「さすがは神を倒した者の妻だ!」


「うむ、魔力の少ないひ弱な人間とは違うな!」


 なんでしょう。さらっと凄い言葉が飛んできます。

 あと、完全にわたしは先輩の奥さん扱いなんですね……!

 ややや、嬉しいんですけど、嬉しいんですけど、こう、ね……!


「さあ行くぞ、ピンクの髪! ……なに、弓は使えない? そうか、人間の社会では家畜を多く飼っているのだったな。まるで深き森の民のようだ。だが、我ら試練の民はそうではない。肉を必要とする時は、己の手で狩りを行うのだ。それをお前に見せてやろう」


 エルフの人たちは大変張り切って、森の奥へ進んでいきます。

 普段なら、枝を伝っていくらしいんですけど、それをされるとわたしが落っこちるので、今回は地面を歩くのです。

 お客さん仕様ですね!

 ただ、一人は枝の上を先行して走っています。

 彼が獲物を見つけて、みんなに知らせるのだそうです。


 突然、枝上の彼から魔力の流れがやって来ました。

 えっと、多分これは、エルフ風に言うと風の精霊ですね。

 多分、獲物がいたんだと思います。


「おお、ピンクの髪にも伝わったようだな!」


「精霊力を感じる力も俺たち並か。どうだ、試練の民にならんか?」


「だめよ! ナオはジーンのところにいるんだから! はいはい、みんな狩りをするー!」


 シーアが抗議しました。

 なんでしょう、試練の民の方々、とってもフレンドリーです。

 とりあえず、発見したという獲物のもとへ急ぎます。

 いました。

 あれは鹿ですね。

 茂みの間から、エルフの人たちが弓を構えます。

 矢を(つが)え……。

 おや、魔法は使わないんでしょうか。疑問がむくむくと湧いてきました!

 だけど、ここで口を開いたら鹿に聞こえてしまうのでお口を閉じておきます。


 矢を番えた音を聞いたのか、鹿が頭を上げました。

 周囲を警戒しています。

 そこに放たれる、エルフの矢。

 鏃は黒曜石で、すべすべに磨かれているので、すごく鋭いのです。

 矢が突き刺さり、鹿が悲鳴を上げました。


「今だ!」


 次々に矢が放たれます。

 魔法を使っている気配もないのに、エルフの人たち、すごい命中率です!


「兄さんなら、これも全部一人でやっちゃうのよ。あの人、試練の民一の弓使いでもあるんだから」


「ほえー。でも、普段は魔法使ってますよね」


「それはそうよ。だって精霊に運んでもらったほうが確実で、楽でしょ? 魔法を使える場では、わざわざ弓なんか使わないよ。やるとしたら、弓で必中の矢を加速させる時だけかな? これはまだ見たこと無かったよね」


 トーガさんの必殺技ですね!

 確かに未見です。

 そうしている間にも、鹿は倒れました。

 エルフの人たちが駆け寄るので、わたしも慌てて後を追いかけます。

 なんだか、わたしがついてこられるように、魔法で道を作りながら走ってくれてるみたいです。

 いたれりつくせり!


「見てな、今とどめを刺すから」


 そう言ったエルフの人、ナイフで鹿の首を刺しました。

 鹿が動かなくなります。


「ここで軽く下処理をしてしまうんだ。いやあ……魔狼がいなくなったから、安心して狩りができるなあ」


「おう。十年ぶりの狩りだけど、上手く行くもんだな! 魔法なしだからどうなることかと思ったが」


 気になる話が出てきました!

 魔法なし?

 ちょっとインタビューしてみます。


「あのー、そう言えば皆さん、なんで魔法なしで狩りをしたんですか? 魔法を使ったらすぐだったのでは」


「森の中で行う狩りは、神聖なものなのさ。獲物の命は失われ、やがて森を流れる精霊の一つとなる。それは祖霊の食べ物でもある。獲物は俺たちの食べ物でもあり、祖霊への捧げものでもあるんだ。それに精霊魔法を使うなんて、やっちゃいけないだろう?」


「ええと、死んで精霊に還るものだから、殺すことに精霊を使わない、ということですね?」


「そういうことだ。精霊に殺されたものは、精霊に還ることはない。だから、森に入り込んだ人間を殺す時、俺たちは魔法を使う」


「なるほどー」


 彼らの道理がきちんとあるお話です。

 ワイルドエルフにとって、弓は狩りの時に使うもの。

 戦いは魔法で行うけど、それは殺した相手を精霊に還さないため。彼らなりの、敵に対する侮辱みたいなものなんでしょう。

 ひょっとしてですけど、エルフ同士の戦争が起こった時、魔法で死んだ人がいたのかもしれません。

 それで、彼らは戦うことを止めたのかも。

 だって、森とともに生きているワイルドエルフが、精霊に還ることができないって、とっても大変なことですから。


 その日の夕ご飯は、わたしの歓迎会でした。

 饗されたのは鹿のフルコース。

 焼いたり、煮たりしたものが出ました。

 後で聞いたら、彼らは特別なことがない限り、森の獣は狩らないんだそうです。


「普段は虫やお魚が多いかなー? それも今度食べさせてあげるね」


 シーアが教えてくれました。

 この鹿は、わたしを歓迎するために狩られたんですねえ。

 いろいろなものに感謝しながら食べることにする、わたしなのでした。

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