その2 ナオ、ワイルドエルフの集落に行く2
ナオのワイルドエルフ集落探訪記、その2。
ワイルドエルフの生態を明らかにしていくのであります。
「はじめまして! 深き森の民の方ですね。わたしはナオです。ビブリオス準男爵領一の家臣ですよ!」
わたしが名乗って挨拶をしたら、エルフの人は目を白黒させました。
「あなた、突然名乗るなんてどういうつもり? 本当の名前でなくても、それを知られてしまったら、魔法に使われてしまうかもしれなくってよ?」
彼女は、最初の頃のシーアと同じことを言いました。
ワイルドエルフの間では、本当の名前を教え合わないというのが当たり前みたいです。
仮の名前でも、いつでも変えられるようなものを教えるそうでした。
というのも、彼らは精霊に名前を付けて、独自の魔法として使役します。
これは人間やエルフも一緒で、もとよりある名前を知ることで、魔法の対象にしやすくしたりできるのだそうです。
「だから、私たちはね、見た目の感じを伝えあって個人を見分けてるの。あとは、喋らなくても連れている精霊とか、近くにいる精霊の感じで誰だか分かるしね」
「なるほどです!」
「本当に人間の側から来た子なのね。名乗りの決まりを知らなくても仕方ないわ。もしかして、私がこれから向かう人間の土地は、そういう者ばかりがいるのかしら」
深き森の人は、そう言ってため息をつきました。
「そうですねえ。あっちの社会は、決まった名前が無いとやりづらいですよ。魔力とか精霊を見れない人ばっかりですから。あ、わたしは見れます!」
「まあ、あなた人間なのに精霊が見えるの!? 大したものねえ」
深き森の人は目をきらきらさせました。
「正確にはホムンクルスです! 先輩に魂をもらって、こういう風に大きく育ちましたけど」
「確かに大きいわね、重いでしょ」
胸元を見られてる気がします。
「でも、あなたみたいな子が他にいるかもしれないわね。ちょっとやる気が無かった私だけど、気が変わったわ。ありがとう、向こうの話をしてくれて」
彼女は微笑んで、私たちに手を振りました。
そしたらその周りで、精霊たちがきらきら光ります。
私たちも、並んで手を振ってお別れです。
すっかり彼女が見えなくなってしまった辺りで、シーアが唸りました。
「そうだったー。本当は私たちエルフは、名乗らないんだよね。人間の村に住んでるエルフは名乗るみたいだけど。だから、精霊の加護を失っちゃうんだよねえ」
「失う?」
「そ、そ。四六時中、自分の名前を明らかにしてるわけでしょ。名前を秘しているから、精霊力が中に溜まっていくの。私も兄さんも、ナオとジーン以外にはあんまり名乗らないもの。名前だって呼ばせないようにしてるよ?」
「そうだったんですねえ」
わたしはとても感心しました。
ワイルドエルフの文化ですね。
確かに、開拓地のシーアはあんまりみんなに名前を呼ばれていない……いない……。
ほわほわと頭の中で、シーアとカレラさんとサニーさんが、わたしと四人で集まってきゃっきゃお喋りしているところが思い浮かびます。
最近はこれにアマーリアさんが加わりました。
……うん、みんな普通にシーアの名前を呼んでますよね。
「エルフの掟は厳しいのよ!」
真面目な顔をして言うシーアに、わたしはとりあえず、笑顔で頷いておくことにしました。
文字通りの道草を終えて、まっすぐに通り道を抜けます。
途中、エルフの通り道で壁がぐにょぐにょと蠢いているところがありました。
「深き森の民の人が通ったところでしょ。通り道にしやすいルートは決まってるから、ここで合流したんだね」
「そうなんですねー!」
道を通るだけで、色々な発見です!
先輩に教えてあげたら、さぞかしうらやましがることでしょう。
むふふ、わたしが先輩に教えてあげることになるのですね!
見聞きしたことを羊皮紙にメモしながら、いよいよ試練の民の集落に到着です。
「ここは村長さんの家とは違う所だね?」
「そうよー。今回、長は関係ないもの。みんなにはもう、ナオがやってくるお話はしてるから、何も説明だってしなくていいよ。ほら、こっちこっち」
シーアがどんどん先に行きます。
わたしはちょっと小走りになって、後を付いていきました。
そうしたら、行く先にはぽてっとした感じのまん丸い木が生えています。
木にはうろがあって、そこに人が住めるくらいのスペースが空いていました。
「じゃーん、ここがナオの宿! これ、深き森の民に頼んで、森の奥から運んできたんだよ。試練の民の住んでる辺りだと、背が低い家が無いからねえ。背が高いところだと、ナオ、はしごから落っこちるでしょ」
「そんなこともありました……!」
最初に村長さんの家に行った時の事ですね。
シーアはちゃんと覚えててくれたみたいです。
「ということで、ここは特別に背が低い家を用意したんだよ。そして、案内人として私も一緒にここに泊まるの。……さてさて、家の中を片付けてもらってたはずなんだけど……」
木のうろは、大きめの一部屋くらいあって、人間の大人が五人くらい入れそうです。
入り口には毛皮が掛かっていて、これでプライバシーを守るんでしょうね。
シーアが毛皮をのけて中を覗いたら、
「おかえりー」
「お客さんきた?」
子供の声がしました。
「来たよー。みんな、仲良くしてあげるんだよ」
「はーい! どれどれー」
「外にいるの?」
シーアの腕の下から、ひとつ、ふたつ、みっつ。
三人のワイルドエルフの子供が顔を覗かせました。
男の子二人に、女の子一人ですね。
「いた!」
「髪の毛の色かわいいー」
「胸に何かつけてる!」
わーっと、子供たちが駆け寄ってきました。
「皆さんよろしくお願いしますー」
「よろしくねー!」
「この人、あれでしょ! 森をまもるたたかいの時、神をやっつけたものといっしょにいた人!」
「そうだー! すげー」
先輩の凄さが、子供たちにも伝わっています!
これはとっても誇らしいのです。
「ちなみにナオ。この子たち、右から、赤毛、つんつん頭、緑の瞳って覚えてね」
「なるほど、見た目で呼び名が決まるんですね」
「分かりやすいでしょ。子供は精霊を見る力も弱いから、見た目を重視するの。じゃあ、ナオの呼び名は……」
「胸がおっきい人!」
赤毛くんが元気よく答えて、そうしたら緑の瞳ちゃんが彼の頭をぺちっと叩きました。
「赤毛はでりかしーがないのよ! だめでしょー!」
「いてー! なにすんだよー」
「今のは赤毛がわるいよなー」
「つんつんお前、緑の瞳がすきだからってふたりでこうげきすんなよー」
「ち、ちがわーい!」
なんでしょう、微笑ましいです。
「じゃあ、えっと……ピンクの髪の人でどう?」
緑の瞳ちゃんの提案、いただきです。
「はい。わたしはピンクの髪の人ですね。よろしくお願いしますね、みんな」
「よろしくね!」
子供たちは、元気にお返事しました。
彼らが、わたしが集落に滞在する間、色々なお世話をしてくれるそう。
後で聞いた話ですが、三人とも二十歳を越えているんだそうで。
わたしの五倍くらい生きてます……!!




