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57話 ドワーフの嘘

 渋々と、ダークドワーフが語りだしたのは夕食後のことである。

 要約すれば、ダークドワーフとリザードマンは最初、この事態を解決するために協力関係を結んだ。

 だが、暴れる牙を前にした時、ダークドワーフは怖気づいて逃げ出してしまったということなのである。


「わしらダークドワーフは、戦うことが得意ではない」


 顔をしかめて、オブが告げた言葉である。


「わしらの言い伝えで、ドワーフは地上に出るもの、地下に潜るものの二つに分かれたと言われておる。冒険を求め、活動的なものは外に出たのじゃ。だが、外を恐れた者はより深い地の底へと潜った。それがわしらじゃ」


「つまり、ダークドワーフは引きこもりの種族ってこと?」


 アマーリアが端的に述べた。

 分かりやすい。


「まあそうじゃ。わしらは、鍛冶と物を作ることに特化しておる。多くの物作りの技が伝えられ、そしてまた物作りの多くの技が生み出された」


「一つ質問いい?」


 カレラが問う。


「地底世界で物を作ったとして、それを使うだけの用途があったりするの? この里の様子は、牧歌的でとてもそういうふうには見えないけど」


 すると、オブは一層しかめ面になった。


「ない。作られたものは、どれも倉庫にしまわれてある。わしらは作ることを喜びとするが、使うことはそうでもないのじゃ」


「先輩、倉庫ですって!」


 ナオがちょっと興奮している。


「ナオは興味があるのかね?」


「もちろんです! 何か役立つものがあるかも知れないですし、純粋に興味があるんで後で見に行きましょうよ!」


「ふむ。いつもナオには、私のわがままに付き合ってもらっているからね。よし、一緒に行こう」


「は? お、おいおい、勝手に決めるんじゃないぞい! いや、わしらも使う当てが無いものばかりじゃから、別に見に行っても構わんのじゃが……」


 ぶつぶつ言いながら、オブが立ち上がった。


「オブ、我々は君たちを責めているわけではない。誰しも、得意分野と不得意分野があるというものだ。これは私の予想なのだが、リザードマンと交渉をした時の君たちには、嘘をつくつもりなど無かったのではないかな? いざ、恐ろしい敵を目の前にした時に、ダークドワーフとリザードマンの同盟は崩れ去った。それをクロクロは嘘だと断じたのではないかと私は考えている」


「…………!」


「オブさんの目がまんまるです! こんなに目って見開けるんですねえ」


 ナオが間の抜けた感想を言う。

 だが、それほど、オブの驚きようは見事だった。

 口をパクパクさせると、私に震える指先を向ける。


「お、お、お主はなんじゃ!? 心を読む魔法でも使えるのか!? いや、誰から聞いた! わしらとあやつらが仲違いした原因の話を!」


「なに、簡単な推理に過ぎない。ひとつ。クロクロは嘘を見抜ける。故に、交渉の場でドワーフが嘘をついていたのならば、その場で君たちの関係は終わりだ。だが、それではリザードマンがドワーフを敵視する理由にはなるまい。まだ何も事は起こっていないのだ。リザードマンは単身で、この状況を打破すべく動けばいい」


 話している内に、倉庫についた。

 前でうとうとしていた倉庫番のドワーフを起こし、扉を開けてもらう。


「ふたつめ。リザードマンは明確にドワーフを敵視、あるいは怒りを向けている。これは、彼らにとって侵すべからざる罪があり、ドワーフはそれをしてしまった、という事ではないか。だとすれば、それは、誇りを重んじるリザードマンの前で、その誇り自体をないがしろにする事だ。さもなくば、言葉にできぬような残虐を、彼らに向けて働いたか」


「わしらは、自分から争いなどせんぞ! 相手があのくそエルフであったとしてもだ!」


「そうだろう。君たちは決して、邪悪な種族ではない。故に、出た結論は土壇場での結果的裏切り。リザードマンと同盟し、根を越えた。そこで出会った暴れる牙を見て、争いを好まない君たちは恐れを感じたのだろう。結果、同盟は瓦解し、双方に多大な犠牲が出た。リザードマンはドワーフに対して心を閉ざし、ドワーフは里に閉じこもった」


「……その通りじゃ。なんじゃ、お前……。どうしてそんなことが……いや、なんで分かったのかは全部説明されたな……! じゃが、わしは、お主が恐ろしくなってきたぞ」


 オブが私を見る視線に恐れの色が混じっている気がする。

 これは、アマーリアとカレラの二人にしてもそうだった。


「やべえ……。ただの変な賢者じゃなかった。兄貴、本当に神をぶっ倒したんだなって、今ようやく分かった……」


「私たちが懐柔された時、なんでマスタングはこんな奴に従うんだって思ったけど、うん、理詰めで逆らう理由を全部潰されて、しかもこっちの気持ちまでコントロールしてくる感じ。これは無理だわ」


 私は、いつもどおりのつもりである。

 そんなに恐れる必要は無いのだが。

 ちょっと重くなりかけた空気だったが、それをぶち壊す者がいた。

 無論、ナオである。


「わーい!! 色々なものがたくさんありますよー!」


 彼女は私から離れると、倉庫の中を駆け回る。

 天井からぶら下げられているもの、無造作に積み上げられているもの、箱の中に突っ込まれているもの。

 片っ端から触れて、取り出して、あるいは重すぎて持ち上げられず。


「うわー!」


 いかん、何か大型の弩弓らしきものを引き出したら、その重さにひっくり返った。

 私は慌てて駆けつける。


「たすけてーせんぱーい!」


 弩弓の下敷きになって、手足をばたつかせるナオ。

 上手く隙間に入ったようで、単に抜け出せなくなっただけのようだ。


「ナオ、気をつけたまえ。よっと」


 私はこの弩弓を持ち上げた。

 ふむ、変わった形をしている。矢を打ち出すのではなく、何かもっと様々な形の物体を射ち出すことを考えたような作りだ。

 弦の半ばに厚手の布のような部品が組み込まれ、これで以て、対象物を射出するのだ。

 投石のスリングにおける、床革とでも言おうか。


「オブ、これは何だね?」


「お主、さらっと話題を変えるのう……。それはな、石を射ち出す弩じゃ。じゃが、構造上弦の張りが弱くてのう。大した速度が出んかった。つまりは失敗作じゃ」


「ああ、この弦では攻撃には使えまいな。射出そのものを武器にするには向いていない」


 私はベルトポーチから、小瓶を取り出す。

 これを床革にあてがい、弦を引いた。

 弩弓には、地面に立てるための二本の足がついている。これで地面に固定できるようだな。


「オブ、このくらいの瓶を射出するのは問題なさそうかね?」


「おう。もっと大きい瓶でもいけるぞ。なんじゃお主、それが気に入ったのか? ならばくれてやるぞ」


「なんと! ありがたい。これはいいものだぞ」


「先輩がついに武器を手にしました! バイオレンスの香りです」


 ナオ、この弩弓はバイオレンス以外の用途しかなさそうだぞ。

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