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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第二部 広がる世界

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56話 ジーン・リザード交渉

「いきなり交渉になるなんて聞いてねえぞ」


 オブがそう言ってガタガタ震えている。

 他の若いドワーフたちも同様だ。

 彼らは、万一リザードマンと遭遇し、荒事が起こったときのためにここに来ていたのだ。

 それも、数を頼みに相手を威嚇する、くらいのつもりだったようである。


「ジーンの話を聞こウ。精霊の噂に聞こえた、神を殺した者は何を持って、炎の部族と交渉をするのカ」


 炎の部族と言うのが、彼ら地底世界に住むリザードマンの自称のようだ。

 ワイルドエルフたちが、試練の民と名乗るのと同じであろう。

 何より、クロクロというファイアリザードマンは、エルフに対するワイルドエルフくらいの違いがあるように見える。

 私が考えるに、ワイルドエルフとはエルフの古代種であり、より古い時代のエルフの性質を持っている。それと同じタイプのリザードマンであると考えれば、ファイアリザードマンは原種であると言えるのではないか?

 つまり、リザードマンは元々、炎を吐くことができる種族だったのである。


「……ジーンよ。どうしてクロクロの顔を上から下までじっと見る」


「先輩! 戻ってきてください先輩!」


 頭をぺちぺち叩かれて、我に返る私である。

 いかんいかん。

 だが、クロクロの話はしっかりと聞いていたぞ。


「交渉は、諸君があの根の向こうまで、以前と同じように活動できること。これを約束しよう」


「なんと!」


 クロクロの目玉が、瞬膜に覆われ、すぐさま見開かれた。

 舌がせわしなく、チロチロと覗く。


「嘘を言っている臭いではなイ。ジーン、正気か」


「リザードマンにまで言われてる……。兄貴、一体どうなの……」


「ジーンさんだからなあ」


 私に対する風評被害なのか、評価なのか。

 だが、クロクロの言うとおり、私は嘘だけは口にしない。


「ドワーフの力だけでは、あの根を超え、暴れる牙とやらをどうにかすることは不可能だろう。それは、君たちリザードマンの力だけでもだ。だが、双方が力を合わせ、そこに私が加わればどうだろうか」


「ふム」


 クロクロが目を閉じた。

 ドワーフたちがびくびくしている気配がする。


「なんで皆さん怖がってるんですか?」


「なんでじゃと!? あのクロクロというファイアリザードマンはな、奴らのボスであるドラゴン直属の一番偉いやつなんじゃ! なんでここで、あやつが出てくるんじゃー!」


 リザードマンで最上位の固体であったか。

 なるほど、よく見れば、威風堂々とした姿である。

 他の者よりも一回り大きく、よく見れば、頭には角のようなものが生えている。

 私がじっと見ていると、クロクロは目を開いた。


「人が作った神とやらハ、炎の部族にも伝わる恐ろしい存在ダ。それを特別な力も持たずに倒したのなラ、ジーンは特別なのダ。クロクロはジーンを信じよう」


 彼はそう告げた後、喉を鳴らし、甲高い声を響かせた。

 すると、リザードマンたちは一斉に、同じような甲高い声を上げる。


「これで伝わっタ。炎の部族はジーンに手を貸ス。だが、嘘つきドワーフ、あれとは仲直りできなイ」


「嘘つき? 何かあったようだね。もしや、十年前の交渉の時に?」


 クロクロの瞬膜が行き来した。

 彼は何も答えない。こちらも詮索はやめておこう。


 そうこうしている内に、地底世界を照らすアカリゴケの光が陰ってきた。

 レイアスで言う、夜の時間が近づいているのだろう。


「夜は眠りの時。炎の部族は帰る。また明日、ここデ」


「よし、分かった。それまでに、私も今後の計画を立てておこう。ところでクロクロ」


「なんダ」


「触ってもいいかね?」


 ということで、私はファイアリザードマンの肌に触れることができたのである。

 彼の体温は高い。恐らくは炎の魔力──精霊力が体内を巡っているのだろう。

 鱗はサラサラしており、体にピッタリと貼り付いている。

 感情が高ぶると、逆立つのだとか。


「あの、クロクロさん、わたしも触っていいですか?」


「うム。変わった者たちだナ……。そちらはジーンのつがいか?」


「つがい!」


 ナオが手をばたつかせる。


「どうしてそう思うのかね、クロクロ」


「近いにおいがすル。これほどにおいが近いのは、つがいか親子ダ。ジーンとあれの距離は親子ではなイ」


「実に論理的だ……! 確かに、君の理論に合わせるなら、私とナオはつがいということになるのだろう。うむ、恐るべしリザードマン!」


 このやりとりを見て、後ろで何やら話し合う女子たち。


「ついに認めたよあの人」


「絶対あれ無意識よ。本人そんな自覚ないから」


 何を認めたというのだ。

 ナオはナオで、クロクロに触り始めると、夢中で彼の鱗を撫で回している。


「うわーっ、先輩、すごくサラサラしてて触り心地がいいです!」


「だろう。天然の鎧であり、他にも様々な機能を有していそうだ。今後、彼らとは共に行動する。リザードマンの生物的な特徴を、たっぷり見せてくれるに違いないぞ」


「……いつまで撫で回しているのダ。ジーン、ナオと言ったか。よく似ているナ……」


「そうか?」


 さらに、クロクロに触ろうとする私であったが、アマーリアとカレラにキャッチされ、引き離されてしまったのである。

 リザードマンと別れ、ダークドワーフの里に戻る途中。


「ジーンさん、ナオ、二人とも相手がリザードマンだからって、あんなに触ったら失礼でしょ」


「確かに」


「そうでした」


 カレラにお説教され、反省する我々なのである。

 似ているのかも知れない。


「ところでオブ。聞きたいことがあるのだが」


 ぎくりとした顔で、オブが振り返る。


「な、何じゃ」


「ドワーフのついた嘘とは、何かね? ひょっとすると、この十年に及ぶリザードマンとの確執は、その一件に原因があるのではないか?」


 私は生物学を専攻とする賢者であり、生物学の中にドワーフとリザードマンの関係性修復は含まれていないはずなのだが……。

 この興味深い世界を堪能するためには、彼らに仲直りしてもらわねばならない。

 一つ、骨を折るとするか。

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