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55話 遭遇、リザードマン

「それで先輩、どうして川に向かってるんですか? あ、ここはですね、クルーシの川と言うそうで、湧き水が川になったものだそうです。緩やかにカーブして地下水脈に繋がってて、お魚がたくさんいるそうですよ」


「なるほど! 地下世界の貴重な食料源ということだね。良い情報をありがとう、ナオ」


 肩を力強く叩いて礼を言ったら、ナオが「えへへ」と嬉しそうに笑った。

 どうやら、カレラとともに、ドワーフの奥さんたちから聞き出したようだ。


「そして、最初のナオの質問についてだが、いいかね?」


「はい」


 我々は今、クルーシの川へと向かう途中である。

 アマーリアにカレラ、オブ、そしてドワーフの若い衆を引き連れている。

 あとはマルコシアスだ。ドワーフたちは魔狼が怖いらしく、少し距離を取っている。


「暴れる牙を見には行きたいが、これは私の興味が優先される状況ではない。とてもとても落ち着いてはいられない状況だが、そうなのだ。分かるね?」


「はい。先輩が、すっごく自制心を働かせてこっちにやって来たのは分かります!」


「そう言うことだ。暴れる牙、巨大な根。これは全て、ドワーフだけではなく、リザードマンをも悩ませている問題なのだよ。ならば、ドワーフ一方の話を聞くだけではいけない。リザードマンとも接触し、彼らの協力も仰がねばならないんだ」


「なるほどー! よく分かりました、先輩!」


 ナオは大変物分りが良くて助かる。

 だが、物分りがよろしくない者もいるものだ。


「ちょ、ちょ、ちょっと待つのじゃ! お主、リザードマンに会いに行くのか!? やめておけ! 危険じゃぞ!」


「ほう、それはどうしてかね、オブ?」


 このドワーフの若者は、大変な剣幕である。


「どうしてもこうしても無い! わしらとリザードマンは、十年も争っておるのじゃ! そんな奴らが話を聞くはずがない!」


「ふむ、そこだ」


「そこって何じゃ!?」


「どうして、争いになったのだろう? 君たちは話し合いをしようとはしなかったのか?」


 ドワーフたちの顔が、しかめられた。


「あやつらが強欲だったのじゃ! 川の魚をまるごと寄越せなどと抜かす! わしらドワーフが食べる分はどうする! 受け入れられぬわい!」


 そうだそうだ、と、若い衆からの大合唱。

 ふむ。それが真実だとすると、なんとも一方的な要求である。

 だが、物事には常に表と裏があるもの。

 詳しくはリザードマンにも聞いてみる必要があるだろう。


 そして、川に到着した。

 一見して、リザードマンらしき姿は無いが。


「兄貴、やばい!」


 突然、後ろから引っ張られた。

 アマーリアが私の腕を取って、思い切り引っ張ったのである。

 よろけた私の足元に、何かが飛んできた。

 ついさっきまで足があった場所に、槍が突き刺さる。


「おお、これは……!」


 私は感心した。

 骨を使った槍である。


「地下世界には樹木が存在しない。そのため、鍛冶を行えるドワーフはともかく、リザードマンがどのようにして道具を使っているのかが気になっていたのだよ。だが見てくれ! 彼らは、大型の動物の骨を利用して道具とする文化を持っているのだ! いや、なるほど!」


「それどころじゃないじゃろう!? お主はなんでこんな時までぶれないんじゃ!!」


 オブが青筋を浮かべて怒鳴っている。


「いや、失敬。とても興味深かったのでね。おーい、リザードマン諸君! 言葉は通じないか? 分かるなら返事をしてくれたまえ! こちらに害意はない!」


 返事はない。

 だが、私の隣にやって来たナオが、アーティファクトのメガネを使ってじっと周囲を見る。


「魔法の反応があります。えっと、岩陰に一つ、ちょうど大きい人くらいのサイズのが」


「魔法反応がある存在か。オブ、リザードマンは炎を吐くのだったね?」


 突然私に質問されて、オブは目を白黒させた。


「なんじゃいきなり!? そ、そうじゃ。だが全員が火を吐くわけではない。十匹に一匹、あるいはもう少し少ないくらいじゃ。火を吐くリザードマンは、ファイアリザードマンと呼ばれて、奴らの中でも高い地位を得ているのじゃ」


「了解した。その火が魔法的なものならば、ナオが感知した反応はファイアリザードマンだと判断できる。次にオブ。彼らの言語を君は使えるのかね? 争いになる前、ダークドワーフとリザードマンは交渉をしていたのだろう」


「奴らは、ドワーフ語を使うのじゃ。なぜだかは良く分からないがの」


 オブの返答を聞いて、私はカレラを呼んだ。


「君が呼びかけてもらえないか? そうだな、呼びかけの内容は……」


 私は、ある言葉をカレラに伝える。

 彼女は頷くと、前に出た。


「アマーリア、彼女の護衛を頼めるかな? 君はそれなりに、腕に覚えがあるだろう?」


「なんだよ、分かってたのかい? ま、投げ槍くらいなら、来るのが分かってたらどうってこと無いけど」


 ぶつぶつ言いながら、アマーリアがカレラを守るように立つ。

 そして、ハーフエルフは大きく息を吸い込んだ。


「リザードマンの方々! 私たちは、地上から来たものです!」


 槍が何本か飛んでくる。

 これの一本をアマーリアは受け止め、それを使って他の槍を払い落とす。

 川向うの岩陰から、大きなトカゲの頭が幾つかこちらに見えている。

 彼らは新たな槍を用意しようとしているところだ。


「神を殺した者がここに来ています!」


 ピタリと、リザードマンの動きが止まった。

 そして、あかいウロコをした大柄なリザードマンが、姿を現す。


「神を、殺した者と言ったカ」


 おや?

 彼が話している言葉が理解できる。


「それは、そこの男カ。土の眷属たるシャドウの血を継ぐ男。お前カ」


「いかにも。スピーシ大森林を襲った、古代の神を退けたのは私だ。名はジーン」


「ジーン! 名乗られた以上、こちらも名を返ス。我が名はクロクロ」


 ファイアリザードマンの背丈は、私よりも頭一つ分は高いだろうか。

 彼は川を挟んで、まっすぐに私の目を見つめてくる。

 いや、口から舌が出たり入ったりしている。

 蛇のような仕草だが、そこに炎が纏わり付いている。

 もしやあれは、蛇と同様に、何か匂いを嗅いでいるのだろうか?

 蛇が舌を出し入れする仕草は、嗅覚を使用している動作なのである。


「ふム。お前に嘘の臭いはなイ。その名と神を殺した者という称号を信じよウ」


「なんじゃと……!」


 オブが驚きの声を放つ。

 

「リザードマンは、野蛮なわけではないようだね。地上世界で彼らと接触した記録を見ても、リザードマンは名誉と真実を重んじ、単純だが、理論的で合理的な思考をするとある。これは爬虫類の専門家である賢者クリコとのセッションで得られた知識だが──」


「先輩、先輩! 話が脱線しかかってます!」


 ナオに袖を引っ張られて我に返った。

 いかんいかん。


「クロクロ。君たちの事情を聞かせてほしい。私は、君たちとダークドワーフ、双方を救いに来たのだ。そして、あの巨大な根の謎を解き明かし、その向こうにいるという暴れる牙を詳しく調査したい……!」


「先輩、最後、願望がダダ漏れです!」


 クロクロは目を見開き、舌を何度も出し入れした。


「呆れた奴ダ。一言も嘘を言っていなイ。我ら、炎の部族以外で嘘を口にしない者は珍しイ。クロクロは、ジーンを信じよう」


 彼が宣言すると、他のリザードマンたちも次々に現れた。

 そして、武器を背中に収める。


「あちらは、我々を受け入れてくれるようだ。ドワーフ諸君。十年ぶりの交渉再開となるかも知れないぞ」


 私が振り返ると、ドワーフたちは皆、緊張で青い顔をしているのだった。

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