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49話 地底の世界へ

「どうするつもりだ、ジーン」


「ダークドワーフの生態に興味があるんだ」


 私は旅の用意をしていた。

 ここしばらくの平穏で、これまで消費した薬剤や資材の代用品は見つけてある。

 準備は万端と言って良い。

 

 私は、ダークドワーフのオブの求めを受け、彼の里に向かうことにしていた。

 横では、ナオもすっかりその気になっている。

 彼女は私の代え難い相棒であるからして、もとよりそのつもりである。


「俺は行かんからな!! 誰が好き好んでドワーフの所になど!」


「私もいかなーい!!」


 今回、トーガとシーアのワイルドエルフ兄妹は欠席か。

 エルフとドワーフは仲が悪いと言うしな。

 同じドワーフであるボルボは、酒の管理をせねばならないため、出かけられないという。

 では、今回は私とナオの二人きりであろうか。


「んじゃ、兄貴、あたしが行く」


 挙手したのはアマーリアだった。

 暗視の力を持つ、シャドウ族の彼女がいれば心強い。

 信用できる相手ならば、だが。

 そしてもう一人。


「私も」


 ハーフエルフのレンジャー、カレラである。

 この人選を見て、ワイルドエルフたちは納得した様子であった。

 ダークドワーフの里へ行くと言えど、人間には森を通過させたくないのだ。

 その点、今回のメンバーには、純血の人間はいない。


「ほ? エルフかのう? いや、耳が短いし乳がでかいな」


 ダークドワーフ氏、冷静にカレラを見定める。


「っ、下品っ」


 胸を隠して赤くなるカレラなのである。

 エルフとハーフエルフを見分けるコツは、まず耳の長さ。

 エルフは獣のように尖り、長い耳を持つ。

 次に体型。

 エルフは細身である。

 だが、人の血が混じったハーフエルフは、皆体格が良くなる傾向にある。

 男ならば筋肉質に、女ならば豊満な体型に、である。


 これは実に興味深い話なのだ。

 原因は完全に解明されてはいないが、ハーフエルフになった者は身体能力が高い代わりに、魔法的な力が減退する。

 つまり、魔力が肉体形成に回ってしまうと言われているのだ。


 というわけで、旅立つ我らなのだ。

 開拓地は、元冒険者の戦士マスタングと、エルフのトーガに任せることにする。


 私がダークドワーフの里に向かう理由は、知的好奇心が第一。

 第二に、ダークドワーフの里という響きに可能性を感じたからでもある。


 地下、ドワーフ、人類未踏の地。

 何か凄いものが存在していそうではないか。

 それはきっと、我が開拓地の助けとなるはずだ。


「さあ行くとしよう。オブ、案内してくれたまえ」


「おう! じゃあ行くぞい」


 オブは我々を先導して、森の入口に向かっていく。

 彼に向けられるのは、エルフたちの敵意に満ちた視線だ。


「はっ、エルフども、わしが怖くて手を出せんか? 手出ししたとしても、お主らの風の魔法なぞ、わしの岩の魔法の前には無力じゃがな」


 それを挑発するようにして、オブが歩いていく。

 エルフたちが殺気立った。

 オブも身構える。

 今にも、騒動が起きそうな気配である。


 ところで、私の個人的考えだが、必然性なき騒動は悪である。

 止めるとしよう。


「やめたまえ。無為な争いは何も生まないぞ」


 私は声を張り上げる。

 風の魔法で拡声せずとも、それなりに響く発声である。

 こんなこともあろうかと、神との戦い以後で鍛えておいたのだ。


 私の声を聞くと、今にも怒りで爆発する前だったエルフたちが、一様に血の気を引かせた。


「神を倒した者よ。それは正しい」


「ここでドワーフに手出しをすることは無意味だ」


 彼らは口々にそう言うと、我々に道を空けた。

 ついさっきまで、物騒な空気に包まれかけていたこの場が、すっかり冷静になっている。

 オブは信じられない、というような顔でエルフたちを見回し、次いで私に目をやった。


「お、おい、お主、今何をやった?」


「争いは良くないと言っただけだよ」


「いや、そりゃお主、分かっちゃいるが、わしらには遠い過去から諍いを続けてきた歴史があってだな。魔族の一言で静まり返るなんてのはそれこそ、変えられぬ歴史が……」


 そこまで続けて、ようやくオブは気付いたようだ。

 私は、歴史上、多大な犠牲を払わなければ倒せなかった神を、なんの特別な力も使わず、一人の犠牲も払わずに倒した男である。

 変えられぬ歴史とオブは言ったが、対する私は歴史を変えた存在なのだ。


「前例があろうと、前例は覆せるものだよ」


「……お主がもし、本当に神殺しをした男なら、お主の言葉に反論できる者などおるまい……!」


「そうかね? 同じだけの成果を上げればいいのだが」


「できんできん! なんじゃ、お主、変な奴じゃのー」


「先輩、ダークドワーフの人にまで変って言われちゃいましたねー」


「心外だ」


 このやり取りに、カレラとアマーリアが吹き出すのだった。



△△△



「石の精霊よ、ロックバイターよ、わしらに道を作ってくれ!」


 ダークドワーフが手を振り回す。

 すると、地面が盛り上がった。

 現れたのは、岩のトンネルである。


「ほう、これがドワーフの通り道というわけか」


 エルフの通り道が、緑に輝く森のトンネル。

 ドワーフの通り道は、赤く輝く岩のトンネルである。

 ご丁寧に、階段までついている。


「さあ、ついてきてくれ!」


 オブは階段を下りていく。


「ああ。これは大したものだなあ……!」


 私は感心しながら、階段を下っていく。


「およ、およよよよよ」


 おっと、背後をついてくるナオの足取りが怪しい。

 階段の一つ一つが、段差が大きすぎるのかも知れない。


「ナオ、私の手を取りたまえ」


「あ、はい!」


 ナオが腕にくっつくのが分かる。

 手を繋ぐのではなく、腕全体にしがみついてきたかあ。

 まあいい。ナオの体重くらいなら、支えて歩くくらいどうということはない。


「ジーンさん、案外逞しいよねえ」


「そりゃ、兄貴はシャドウの血が入ってんだもの」


 シャドウの血がどれほどのものかは知らないが、常にフィールドワークで鍛え続けてきたからな。

 生来の素質があろうが、常日頃から備えておかねば意味を成すまい。

 ということで、ナオをぶら下げながら階段を下っていく私である。


「ほわー、先輩、すっごくキレイですねえ」


「うむ。岩の精霊が作り出す通り道は、赤く輝くだけではないのだな。岩の灰色と赤い輝きが美しい」


「余裕じゃのう、お主ら……。ほんと、何者なんじゃ……?」


「賢者だよ。賢者とはこういう生き物なのだ」


「ですです!」


 ナオが元気よく肯定した。

 こうして我らは、一路、地下の世界へと降りていくのである。

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