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29話 再び森へ

 ロネス男爵領を抜けた。

 視界いっぱいに、懐かしき森が見える。

 まさか、魔境スピーシ大森林を懐かしいと思う時が来るとは思わなかった。


「戻ってきたー! 良かった、やっと森だよーう」


 シーアが大騒ぎしている。

 長い間人里にいたので、ストレスが溜まっていたのだろう。

 トーガは何も言わないが、顔にあった緊張が取れてホッとしているのが分かる。


 開拓地の方向からは、細い煙が上がっている。

 炊事の煙であろう。

 あの場所で、冒険者たちが生活しているのだ。

 我々がいない間、仕事はどれだけ進展したのだろうか。


 ゴンドワナとローラシアが、どんどんと荷馬車を引っ張っていく。

 乗用馬三頭は、大人しく後に続いてくる。

 出発した時に比べ、大所帯になったものだ。

 馬ばかり四頭増えたのだが。


「みんないい子だねー。ちゃんとついてきますよ!」


「ああ。乗用馬の三頭は、我々についてくるしかないだろうからな。しかし良かったのかね? 荷馬ならまだしも、乗用馬など森でどう使うのか」


「えっ、畑で使えないんですか?」


 ナオがきょとんとした。


「ナオ。荷馬と乗用馬では、体の作りが違うのだよ。乗用馬は人を乗せて走ることを目的としている。速く、長い距離を走れる体だ。戦争にも使われるから、鎧を着て人を乗せられるだけの力もある。だが、農具をつけて畑を耕すには、また違った体の作りが必要なんだ」


「そうだったんですね……。知らなかった」


「ゴンドワナを見てみたまえ。足が太く、背が低いだろう。悪路であっても、畑の土の中であっても、問題なく歩き回れる作りをしている。速度は出ないが、そのぶんどこでも安定して活動できるというわけだ。その点、ローラシアは荷馬であることだし、素晴らしい」


 ローラシアの話をしたら、ゴンドワナがちょっとこちらを見た。

 言葉が分かるのか、鼻を鳴らして嬉しそうにする。


「ゴンドワナはいい子ですねえ。後で、たっぷりブラッシングしてあげますからね」


 ナオも笑った。

 この、動物に好かれるホムンクルスは、一人で五頭の馬の世話をやろうとしている。

 さすがにそれは無理であろう。

 馬の世話のために、我が開拓地の人員を拡張することも考えるべきだ。


 そのようなことを考えつつ、一ヶ月半の旅は終わった。

 開拓地に到着したのである。



□□□



「お帰り、ジーンさん。畑が大きくなったぜ。大したもんだろう」


 出迎えてくれたのは、元冒険者一行。

 今では我がビブリオス領の領民となった、戦士マスタングである。

 彼が指し示す通り、任せていた畑は二回りほど大きくなっていた。


 既に作物が植えられており、芽吹いている。

 これがどこまで育っていくのか、楽しみだ。


「あれは、エルフ麦だね」


「そうだよ。この距離から見てよく分かるなあ」


「私の専攻は生物学だからね。あの色と葉の張り、そしてこの森の土によく馴染むなら、エルフ麦だろう」


 エルフ麦は、ワイルドエルフの集落からもらった作物である。

 我々が知る麦とは、違った姿に改良された品種であり、ワイルドエルフの集落ではあちこちによく生えている。

 彼らは畑を作るということをしないのだ。

 つまり、ろくな手入れがされなくても実り、それなりの収穫を与えてくれる優秀な作物ということになる。


「芋はどうなっているかね?」


「あっちも順調だな。まあ、芋だからな。どこでも育つぜ」


 芋畑に案内されると、そこは説明の通りだった。

 エルフ麦と変わらぬ生育ぶり。

 最初の作物として、その土地にマッチしたものを選択して正解だったな。

 食料が自給できるようになり、余裕が出てきて初めて、収穫量に優れる既存の作物に挑戦してみることができるというものだ。


「馬が増えてる!」


「ちょうどいいところに来ました! カレラさん、サニーさん、手伝ってください!」


 向こうでは、女子たちが騒いでいる。

 カレラというのは、ハーフエルフのスカウト。サニーというのは、女神官のことである。

 いつの間に仲良くなったのか、ナオは彼女たちを引き連れて、五頭の馬を厩舎に連れていく。


「厩舎も建てたのか。大したものだな……」


「ボルボは一応ドワーフだからな。掘っ立て小屋だが、家を作るのがあいつの趣味みたいなもんだ。最初はでかすぎるんじゃねえかって思ったけど、馬が増えてたんならちょうどいいな」


 厩舎では、そのドワーフが女子たちを出迎えているようだ。

 大きな声で、建物の使い方を説明している。


「やあ、ジーンさん、お帰りなさい。足りない労働力は、ゴーレムで補っていますよ」


 最後に、魔術師のビートル。

 作業着に鉢巻をして、すっかり日に焼けている。

 一瞬誰だか分からなかった。


 彼の後ろには、ナオのものと比べると簡易なゴーレムが続いている。

 決められた一つの命令しか実行できないタイプであろう。


「やあ、ビートル。仕事に精を出してくれていて何よりだ。これだけの数のゴーレムだが……マルコシアスのフンを使ったかね?」


「ええ。あの魔力媒体は優秀です。私は錬金術は門外漢なのですが、それでもそれらしいものを作れましたよ。彼らは建築に使った廃材を利用したのですが、良い働きです」


 作業を始めるゴーレムたち。

 主に、畑の拡張を担当しているようだ。

 開拓地を見張っているエルフは、より効率的に土を掘り返せる精霊魔法の使い手だが、基本的に手伝ってはくれない。

 トーガやシーアが特殊なだけなのだ。

 そのため、ビートルが増やしてくれたゴーレムはありがたい。

 ナオはこれから、馬のことで手一杯になりそうだからだ。


「ジーンさん、後は報告することなんだが、サニーが神像を作ってな。これがエルフたちとの間に、ちょっとしたわだかまりを生んでいるようなんだ。見てやってくれないか?」


 マスタングの言葉を聞き、私は唸った。

 宗教問題である。

 厄介なことにならねば良いのだが。

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