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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第一部 開拓の始まり

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28話 旅程

 ロネス男爵領に到着してから、これまでの旅程を振り返る。

 まず、クレイグからのシャドウストーカーによる襲撃。

 そして、これを撃退したと見るや、旅立った我々に差し向けられる追っ手。

 彼らは明らかに、こちらを殺すつもりであっただろう。


「ジーン。この土地の周囲にも、お前の弟の手の者がいたぞ。作った矢が、すっかりなくなってしまった」


 トーガの報告を受け、頷く私である。

 クレイグのやつめ。

 どれだけ執念深いのか。

 禁断の魔法生物に、少なからぬ数の追っ手。

 馬まで用意し、さらに伏兵までいるとは。

 かなりの金が、伯爵家から動いていると見ていいな。


「伯爵、本当に先輩のことが嫌いなんですねえ」


「それはそうさ。私は血筋だけなら、バウスフィールド伯爵家の長男だからな。クレイグだけではない。あいつの母であるカーリーも、権力闘争の原因になりうる私を危険視しているのだろう。私が開拓において成果を上げ、陛下の覚えがめでたくなったならば、なおさらだ」


「あー、先輩に、伯爵の地位を取られちゃうって思ってるんですね。そんなことあるんですか?」


「無いな。私は騎士爵としての地位を与えられたし、この後の功績によっては準男爵への昇格もあり得る。だが、家格として準男爵が伯爵位を得ることは難しかろう。そして私の領土である開拓地、スピーシ大森林は、バウスフィールド伯爵領とは遠く離れているのだ。彼らが国家に反逆するレベルの過ちを犯さない限り、かの家が私の手に転がり込むことはあるまい」


「そうですよねえ」


 ナオが同意する。


「例えば、マルコシアスを呼んじゃって、王都を焼いたとかそういう次元じゃなきゃ」


「そういうことだ。王都を焼いた、かの悪名高き伝説の悪魔を召喚するなど、だな。……ん?」


「あ」


 私とナオは顔を見合わせる。

 つい先日、クレイグが使ったシャドウストーカーは、悪魔召喚と並ぶ禁じられた魔法で作られていると話し合ったばかりである。

 故に、バウスフィールド伯爵家にはそういった魔法の使い手がおり、彼が悪魔召喚を行なった可能性もある、と。

 そういう話になっていたはずだ。


「先輩が生き残ったら困る、伯爵」


 ナオが指を一本立てる。


「マルコシアスが召喚されたことを知られたら、困る誰かさん」


 もう一本の指が立つ。


「割と同じ人っぽくないです?」


「憶測のみで断言はできないが……確かに怪しいな」


 ナオの想像が真実に近いならば、クレイグが執念深く追手を差し向ける理由にも納得がいく。

 やつは私を消したくて堪らないのだ。

 少なくとも、私が大森林へと追放された時以上に、彼の中で私を消したいモチベーションは高まっていると言えよう。


「ロネス男爵領を抜けても、油断はしない方がいいな。まさか、一番安心できるのが我が開拓地とは」


「森は、我ら試練の民の世界だ。人が近づけば、たちまちのうちに仕留めてみせるぞ」


 トーガが自信ありげに言った。

 彼の精霊魔法があれば、不意でも討たれない限りは安心であろう。



□□□



 ロネス男爵は、つい数日前に帰ってきたばかりだった。

 我々は彼の保護の下で、旅の垢を落とし、つかの間の休息を得た。

 寝られるならいつまでも寝ているナオはともかく、ワイルドエルフのシーアがなかなか起きてこないくらいの疲労ぶりだ。


「シーアめ、たるんでいる」


 いつものように早起きをし、弓の手入れをしているトーガ。

 女子部屋から出てこない妹に苦言を呈する。


「そういう君は元気なようだが」


「俺は常に、戦いの中に身を置いているつもりで生きている。だが、たまに想定を超える変なのが現れるだけだ。魔狼とか、お前とか」


 始めの頃、シーアに任せてちょこちょこと村に帰っていた時のことであろう。

 現在我々が置かれている状況は、トーガにとっては想定内ということか。

 頼りになる男だ。


 我々は、女子が起きてくるのを待ちながら、男爵と会食を行なった。

 今後の男爵領との交易についてなどを話し合う。

 こちらから出すものは、マルコシアスのフンを中心として、森の特産品など。

 ワイルドエルフの許可をもらいながら、詳しい内容は詰めていかねばならない。

 フンにせよ、あまり多く出しては価値が下がってしまう。

 対して、男爵領からは日用品などが我々に送られてくる。

 他に、ロネス男爵は領内の亜人たちに、我が開拓地へ向かう希望者を募ってくれているらしい。

 ありがたい話だ。

 人手はいくらあっても足りない。


 ある程度話が進んだところで、女子たちが起きてきた。


「おはようございまふ、先輩」


 あくびをしながら挨拶してくるナオ。

 寝ぼけながら着替えたようで、服が前後逆になっている。

 慌てて、ロネス男爵付きのメイドが走ってきて、隣室で着付けをし始めた。


「やー、思わず爆睡しちゃった。安心して眠れるのって大事だね……」


 シーアの顔はスッキリしている。

 やがて戻ってきたナオと一緒に、朝食を猛烈な勢いで食べ始めた。


「時に、ビブリオス騎士爵」


「なんですかな」


「貴君の家も、そろそろ紋章を作っても良いのではないかな? 貴族として立った以上、あって困るものでもない」


 ロネス男爵から、提案があった。

 なるほど。

 陛下から、私が今後、準男爵へ取り立てられる可能性が言及されている。

 そうなれば、一代限りではない正当な貴族となるわけである。

 ビブリオス准男爵家を象徴する紋章が無くてはいけない。


「次から次に、やることが出てきてしまうな」


「貴族とはそういうものだよ。民草には、安楽椅子にふんぞり返っているように見えるだろうが、我々には我々の悩みがある」


 ロネス男爵はそう言って笑った。

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