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27話 追跡者

 市場で新たな荷馬を買い付ける。


「ゴンドワナのお嫁さんが欲しい!」


 ナオがそう宣言する。

 だが、市場に並ぶ馬は発情期ではないようで、ゴンドワナが近づくと歯を剥き出して威嚇される。


「これは駄目だな。ゴンドワナもしょんぼりしているではないか」


「うーん、残念」


「だが、そのうち発情期になればゴンドワナに心を開いてくれるかも知れない。間にマルコシアスを挟んで馬車を牽かせるということでどうだろう」


「そうしましょう!! やったー! お嫁さんが増えるよ、ゴンドワナ!」


 ということで、牝馬を手に入れた。

 その他、開拓に必要そうな資材を諸々。

 ナオは早速、新しい馬をぺたぺた触っている。

 うんうんと唸っているから、名前を考えているのだろう。

 ゴンドワナが寂しげにいななく。

 すると、ナオは慌ててゴンドワナの所に戻っていった。

 これを見て、シーアが彼女の隣に並んだ。


「ナオって、結構動物が好き?」


「大好き! だから、実験動物を見ると胸がずきずきしちゃって駄目なんですよね」


「そうなんだー。でも、だから馬が懐いてるんだねえ」


「うんうん。なんかね、わたしの子供みたいで可愛いんです。まあわたし、子供時代がないホムンクルスなんですけど」


 二人でお喋りが盛り上がっているところ悪いが、我々にはさほど時間がない。


「二人とも。会話の続きは道すがら行ってほしい。バウスフィールド伯爵からの追手が、いつ来るとも限らないのだよ。さあ、新しい馬を繋いだら出発だ」


「はーい!」


「わかったー」


「うむ」


 最後に、トーガが大きな包みを抱えて現れた。

 あれはなんであろうか。


「これはな、鏃だ。森では金属が手に入りにくいからな。この鏃を用いることで、俺が使う必中の矢の威力が上がるのだ。次からは魔狼にだって負けんぞ……!」


 トーガが燃えている。

 かくして、彼は荷馬車の後ろで、新しい矢を作り続けることになったのだった。


 我らは王都を抜け、街道をひた走る。

 ロネス男爵領まで入ってしまえば、クレイグの手も及びにくくなる。

 だが、我々は荷馬車での旅である。

 相手が馬に乗って追ってくれば、逃げ切れるはずもない。


「ジーン。追手だ。馬と人がそれぞれ六体」


 いち早く、クレイグの手の者を発見したトーガ。


「ああ。こんなこともあろうかと、備えている。これを使ってくれ」


 私がトーガに手渡したのは、先が丸められた矢である。

 鏃の先端は中空になっており、使用されているのは鉛となる。


「何だこれは? これでは敵を貫けないではないか」


「君の必中の矢とやらの精度によるが、貫くのではなく相手を殴るための矢だ。空気抵抗が大きいため、さほどの速度は出ないが……これなら馬を傷つけずに済むだろう?」


「馬を傷つけない……? まあいい。こいつは先端に柔らかい金属が使われているのか。こういうものもあるのだな……」


「先程、幾つかの資材を買い込んでいてね。即席で作ってみた。十本ほどしか無いが」


「十分だ。行くぞ。風の精霊よ、シルフよ。俺の言葉を聞け。狙いは六つ、風を切り裂いて飛べ」


 トーガは詠唱しながら、両腕で泳ぐような仕草を見せた。

 すると、ふわりと矢が六本浮かび上がる。


「行け、必中の矢!!」


 宣言と同時だ。

 六本の矢が放たれた。

 それは猛烈な勢いで追手に向かうと、彼らの頭や胸に当たり、打撃音が響き渡る。

 当たった瞬間、鏃は潰れて平たい金属の板になる。

 相手は、金属の板で殴りつけられたような状態になる。

 それは矢が突き刺さる威力を、衝撃として面で受けることになるわけだ。


「ぐわあっ」


「んがっ」


 悲鳴を上げながら、追手が馬上から吹き飛んだ。

 あるいは鐙に足を引っ掛けたまま、落馬しかける。

 乗り手を失った馬は、ひとつ、ふたつ……。

 三頭か。


 その三頭は勢いのままに走り続け、我々の後をついてくる。

 しばらく走り、荷馬車に並んだところで、彼らは乗り手がいなくなっていることに気づいたようだ。

 馬の速度が落ちる。


「やったー! 馬が三頭も増えましたよ! 名前どうしようかなあー」


 大喜びするナオ。


「ジーン、あの矢はいいな。馬に乗った者を一撃で崩すことができる。大きな獣であっても、矢に速度を与えれば無視できぬダメージを残せるだろう」


「そうか、使い道があって良かった。これは手乗り図書館が見せた未知の知識の一つでね。物によっては、敵の体の中で潰れて、確実に倒す、というものもできるらしい」


「それは、あえて苦しませて殺すという武器か。恐ろしいな……」


「いや、これも、貫通に使うエネルギーを相手の体の広範囲に伝え、行動力を奪うという点では人に優しくはない矢だがね。通常の矢ならば一撃で倒せない相手も、衝撃で動けないようにしてしまえば恐ろしくはない」


「俺はお前がちょっと恐ろしいぞ」


 そのようなことを言われつつ、我々は旅を続けた。

 途中途中は、野営である。

 エルフのサバイバル技術を活かし、追手から見つかりにくいよう、街道を外れた林の中などで宿泊する。

 何度か追手をやり過ごし、やがてロネス男爵領が見えてきた。

 この領地を越えれば、実に一月半ぶりとなるスピーシ大森林が待っている。

 開拓地はどうなっていることであろうか。


「森の匂いがする! 兄さん、森が近いよ!」


「ああ。全く、人間の世界は臭くてかなわん! 早く、森の空気を胸いっぱいに吸い込みたいものだ」


 エルフの二人が盛り上がる。

 彼らにとっては、魔境の大森林であっても故郷なのだ。

 私とナオが、人里にいると安心するのに近いだろう。


「あー、ほら、喧嘩しないでローラシア! ゴンドワナが困ってるでしょー。マダ、ガス、カル! みんなもちゃんとついてきてくださーい!」


 全てナオが命名した馬の名である。

 どうしてそんな、不思議な名前にするのだか。

 ナオに言わせると、


「なんか浮かんでくるんですよね!」


 ということだった。

 このネーミングは、彼女が得た魂に由来しているのかもしれない。

 その点は興味深い。

 開拓の合間に、ナオを調べてみても良さそうである。

 さて、出迎えのロネス男爵の部下たちが待っている。

 ここから先は、ようやくベッドで眠ることができそうだ。

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