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24話 報告

 謁見の間。

 ずらりと揃った貴族のお歴々が、私を値踏みするように見つめている。

 ツナダイン三世が現れると、誰もが跪く。

 だが、その中で二名、棒立ちのままでいる者がいた。


「ふん」


「あれが人間の長なのねえ」


 ワイルドエルフの兄妹、トーガとシーアだ。

 彼らの存在に気づき、謁見の間がざわめきに包まれ始める。

 王の後ろに控えていた、親衛隊が駆けつけてきた。


「貴様ら、控えよ! 王の御前である!」


 力ずくで二人を抑えようとするが、その瞬間、床が盛り上がって親衛隊をつまずかせた。

 突如、横殴りに強い風が吹き付け、彼らをさらに打ち倒す。


「お、屋内で風が!!」


「なんだこいつら!?」


 慌てて立ち上がる親衛隊。

 だが、それを大臣のカツオーンが止める。


「待て。それなる者は、人の理の外にある者。ワイルドエルフからの使者である」


「ワイルドエルフ……!!」

「あれが噂に聞く……?」

「ただのエルフと変わらぬではないか」

「いや、身につけている物が原始的ではないか?」

「それに、部屋の中だというのに自在に魔法を使ってみせた」

「ジーン騎士爵が彼らを連れ帰ったというのか」


 私が立ち上がるよう、指示される。


「ジーン騎士爵。報告をせよ」


 私は頷き、周囲を軽く見回した。

 ロネス男爵と目が合い、彼はぐっと親指を立ててくる。

 謁見の間で良い度胸だ。

 そしてクレイグ。

 視線に力があれば、たちまち私を殺してしまうであろう目つきで睨んでくる。


「俺が闇の精霊を見張っている。気にするな」


 トーガに、私は頷き返した。

 そして、手乗り図書館を展開させる。


「分かりやすく、図示しながら説明をします」


 図書館を軽くタッチすると、眩い光が漏れた。

 拡大された記録のページが、一度に何枚も飛び出してきた。


 どよめきが周囲に満ちる。

 そこに記録されているのは、私がスピーシ大森林において行なってきた開拓の日々である。

 新たな発見、得られたデータが詳細に記されているため、見る者が見ればこれが重要な資料たり得ることは理解できよう。


「スピーシ大森林において、第二十三調査隊が発見したリターン川に拠点を取りました。その中で、第二十七調査隊が記録を残している大木が、何者かによって折られており……」


 大臣カツオーンは無言で私を見つめている。

 対して、ツナダイン三世は興味深そうに、何度も頷いているのだ。


「あの王様、結構こういうことに興味あるんですねえ」


 しみじみとナオが呟く。

 そうなのだ。

 こと、政治的判断については素人同然の王ではある。

 だが、学問や文化に対する知見や理解は大変深い。


「ほうほう!! 報告にもあったが、そなたはまことに、あのマルコシアスを従えたというのか!」


「はっ。かの悪魔からの申し出もあり、契約を結びました」


「お待ちください!! よりによって、五百年前に国土を焼いたというあの悪魔と、ジーンが契約を!? 危険過ぎる!」


 突然、声を上げたものがいた。

 振り返ると、クレイグが目を逆立てている。


「陛下から離れろ、騎士爵! さては貴様、契約した悪魔を用い、王位を簒奪するつもりであろう!!」


 あまりと言えばあまりの物言いに、普段は優しいナオが怒り立ち上がる。


「伯爵様、バカなこと言わないでください!! あと、謁見中になんか言うのだめですよ! ルール違反です!」


「なっ、なっ……!!」


 突然反論され、驚愕するクレイグ。


「言葉遣いはどうかと思うが、概ね同意見だ。私の発表を聞きたまえ、バウスフィールド伯爵」


「貴様、伯爵に向かってその口の利き方は……」


「下がれ、伯爵」


 命じたのは、ツナダイン三世である。

 クレイグは怒りに顔を赤らめ、歯ぎしりをした。

 だが、国王の言葉に逆らうことはできない。

 そのまま無言で、貴族たちの中に埋没する。


「バウスフィールド伯爵が危惧された件は確かにあるでしょう。ですが、それに関しての安全性は私が実証しております。現われよ、マルコシアス」


 私が呼ぶと、突如その場に、翼を生やした魔狼が出現した。

 どよめきが満ちる、謁見の間。

 親衛隊が武器を握りしめ、緊張した。


 マルコシアスは、退屈そうに彼らを眺め回している。

 そこへ、ナオがやってきた。


「マルコシアス、お手してもらっていい?」


 手を差し出す。

 魔狼は私に、確認の視線を投げかけてきた。

 この問いに答えていいか、という確認であろう。


「構わない。質問に答えてやれ」


『契約者の了承を得て、その質問に答えよう。良かろう』


 マルコシアスは厳かに答えると、ナオの手のひらに前足を乗せた。


「ほう……!」


「ほう!!」


 カツオーンとツナダイン三世が、感嘆の息を漏らす。


「このように。記録にもありました通り、マルコシアスは知の側面として顕現しております。我々が彼に対して暴力で問いを投げかけぬ限り、牙を剥くことはありません」


「見事!!」


 王はそう発すると、立ち上がって拍手をした。


「開拓を始めることに成功したのみならず、歴史に刻まれた、国土を焼いた悪魔を発見し、従わせるとは! あっぱれなり、ジーン・ビブリオス騎士爵! ……そうだ! そなたに特別に、余がこの称号を贈ろう。そなたはこれより、騎士爵であり、辺境賢者である!」


「陛下!?」


 カツオーンが目を剥いた。

 ということは、このツナダイン王の決定はアドリブなのであろう。

 彼は興奮に頬を紅潮させ、鼻息を荒らげている。

 いつもは大臣に従う彼が珍しい。

 私が行なった発表は、ツナダイン三世という生物の習性を見事に突いたようであった。

 となれば、私が行うべき動作は決まっている。


「称号、ありがたく頂戴いたします」


 カツオーンが口をパクパクとさせる。

 謁見の間で行われることは、決定事項である。

 これに異を唱えるなど、あろうはずがない。

 故に、この瞬間より、私は前代未聞の存在……騎士にして辺境賢者となった。


「先輩、バウスフィールド伯爵が悔しがってます。めっちゃ悔しがってます」


 大丈夫だナオ。

 言われずとも、あいつの顔くらい想像できるさ。

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